表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/85

真夜中の出会いでどうなるかと思ったけど

「こ、こーさんっ!」


 茂みから立ち上がって姿を現わしたのは女の子だ。

 歳はオレと同じか少し下か?

 魔道士風のローブを羽織った服装からして、まぁ魔道士だろうな。

 女の子が両手を上げて無抵抗をアピールしている。


「誰だ?」

「降参だってぇ!」

「いや、別に取って食ったりしないって。で、誰だ?」

「ぼ、冒険者……」


 こんな夜の森に来るような人間が普通の人間のわけがない。

 それより驚いたことに、この女の子の心の声があまり聞こえなかった。

 いや、正確には実際の声と心の声が被っているといったほうが正しいか。


 つまり口に出した言葉と心の声にほとんどズレがない。

 先日の小悪党みたいな裏表野郎もいれば、世の中にはこういうタイプもいるんだな。

 だけどそれはそれとして、この女の子が信用に値するかどうかは別だ。


「冒険者か。じゃあ、依頼か何かでここに?」

「そ、そーなんだよ! お仕事で魔物をぶっ殺しにきたの!」

「こんな時間まで?」

「そうそう! でも、ぜんっぜん見つからなくて帰ろうかなって思ったけどね! あと少し、あと少しって進むうちにこうなった!」


 狩りには見極めが重要だ。

 日が落ちると、帰りのリスクが高まる。


 オレみたいに予め森の中で夜を明かすことを想定している人間ならいいけどさ。

 この女の子は見たところ、ろくに野営に適したアイテムを持っていないように見える。

 冒険者といっても、駆け出しってところか?


「そうか。それは残念だったな」

「ね、君は?」

「ただの旅人だ」

「変わった兜を被っているなぁ。それってなに?」


 オレと会ってこれに注目しない奴なんかいないか。

 あ、いたわ。先日の小悪党だ。


 ああいうビックリ小悪党はともかく、ここから先は必ずこのヘッドホンについて質問されると思ったほうがいいな。


 ここは素直に神器と白状するかどうかだけど。


「オレの神器だよ。音がちょっとだけよく聞こえるだけさ」

「ふーん、変なの。耳兜だよねぇ」


 み、耳兜って。

 ヘッドホンという名称を知らない人間からすれば、そういう呼称に行きつくのか。

 しかもやけにハッキリ言ってくれるな。

 この女の子、やっぱり裏表がほとんどない。


 つまり思ったことを平然と口にするタイプだ。

 といってもオレの親父もその類だから、この手の人間には耐性がある。

 コツは相手に期待しすぎない、だ。


 自分の中の常識を相手に押し付けるから、いざそこから逸脱した行動や発言をした人間に怒るはめになる。


 だから親父やラークのように初めからそういう人間だと思い込めば案外、腹も立たないもんだ。

 とはいえ、積極的に関わりたいと思えるかは別だけど。


「ただの旅人がこんなところで何を……え? はぇ!? ああぁーーー!」

「うるさい。大声を出すな。また変なのが寄ってきたらどうする」

「だ、だって、そこの、も、もしかしてブラストベアじゃ?」

「そうなのか? 名前までは知らないな」


 女の子がブラストベアの頭部を観察している。

 オレと何度も見比べて、穏やかじゃない様子だ。


「ね、ねぇ。これって、君が討伐したり?」

「そうだよ」

「ウ、ウソォ……。大人の冒険者数人がかりでやっと討伐する魔物なのに……」

「マジか」


 確かに恐ろしい魔物だった。死を覚悟しそうだった。

 いくらオレがバンさんから剣の手ほどきを受けているとはいえ、それだけで討伐できるような魔物じゃないってことか。


 だったらこのヘッドホンのおかげだな。さすが神器だ。

 エクスカリバーなんて大層なものじゃなくても、きちんと役立つ。

 そして女の子が物欲しげに見てきて、心の声を聞かずとも言いたいことはわかる。


「それ、おいしいの?」

「うまいぞ」

「ホントに?」

「まずいものを食うわけないだろ」

「じゃあ、一つでいいからほしいな」


 オレ一人じゃ食いきれないから、これは願ったり叶ったりだ。

 一つと言わずどんどん食べてほしい。

 女の子がおいしそうに肉にかぶりつく。


「んまぁい!」

「いけるだろ?」

「冒険者の大人達はこんなおいしいものを独占していたんだねぇ!」

「そうとも限らないだろ。依頼で討伐したり、どこかに納品する場合もあるんじゃないのか?」

「そういえばそうだった!」


 なんだ、この子は。君は現役の冒険者だろ。

 サナと違って裏表がないのは助かるが、こっちはいわゆる天然というやつか?

 女の子が袋から角やら牙を取り出して、オレに見せびらかせてくる。


「えへへ! 今日はこれだけ討伐したの!」

「よくわからないが、すごいじゃないか」

「たくさん討伐すれば、人間が襲われる危険性が減るからね!」

「それはそうだな。じゃあ、このブラストベア討伐だけで何十人の命が救われたんだろうな」

「そうそう! それな!」


 オレと同じ歳くらいの女の子が魔物討伐で生計を立てているのか?

 もっと他に選択肢があっただろうに。


 なんて、オレが言えた口じゃないか。

 他人は他人だ。


「耳兜君はここで暮らしてるの?」

「そんなわけないだろ。旅の途中だ」

「冒険者?」

「違う」


 オレの名前は耳兜で定着したのか。

 名前を教える義理もないし、そもそもこの子がまず名乗っていない。

 素性が知れない以上、こちらの情報を渡す必要はない。


「冒険者じゃないんだ。ブラストベアを倒せるくらい強い流浪の旅人……いい!」

「それはよかった」


 そんなかっこいいものじゃないけど、目をキラキラさせているから黙っておこう。

 しかし、この女の子は魔道士か?


 やたら大きいポーチに本がおさまっているのが気になる。

 あんなものを持ち歩くということは神器か?

 気になるけど、こっちから興味を示すこともないだろう。


「じゃあさ、冒険者をやればすっごく稼げるんじゃない?」

「それも一つの選択肢として考えている」

「じゃあ、私が滞在してる町まで案内してあげる!」

「じゃあ、頼む」


 完全に信用してないが今のところ、害意が確認できる音は聞こえない。

 今日のところは一晩、ここで過ごそう。

 食事を終えてから横になると、女の子がオレの横で寝っ転がった。


 たぶんサナなら絶対にしない行動だな。

 オレは女の子とは反対方向を向いて寝た。

ブックマーク、応援ありがとうございます!

「面白い」「続きが気になる」と思っていただけたなら

ブックマーク登録と広告下にある☆☆☆☆☆による応援をお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ