自分の人生は大切にな
「ちょ、ちょっと! ルオン! 女の子が一世一代の告白をしたのよッ!(もう許さない!)」
店を出た後、サナがオレの肩を思いっきり掴んできた。
その腕をどかした後、サナと向き合う。
一世一代の告白ねぇ。
恋愛だの乙女心はさっぱり理解できないけど、こういう時は普通なら真面目に返答するんだろうな。
すまん。サナの心の内を抜きにしても、マジで恋愛だけは勘弁してくれ。
ましてやオレのことを好きでも何でもない奴の告白とか、何の罰だ。
「ひ、人が優しくしてやれば調子に乗って! この私が告白してやったのにその態度は何よ!(腹立つ腹立つ腹立つ!)」
「いや、別に頼んでないし……」
「頼まれて告白する女の子なんかいないし!(頭の中がグシャグシャになってきたわ!)」
「そりゃそうだ」
サナが歯軋りをして睨んできた。
仮にヘッドホンがなかったら、もう少しまともな対応をしたかもしれない。
オレは恋愛に興味はないと丁寧に説明してお断りした。
久しぶりに会ったと思ったら、とんだ強行手段に出てきたな。
仕方ない。
同郷のよしみで、きっちりと決着をつけるか。
「つまり断るって言うの!?(ルオンのくせに!)」
「だってオレはお前が好きでもなんでもないからな。お前もオレのことは好きでも何でもないだろ?」
「え……(ウソ!? なんでバレたの!)」
言おうか迷ったけど言ってしまおう。
いつまでも勘違いされたままじゃ困るからな。
サナが顔面蒼白だ。気の毒。
「恋愛ってやつは告白して断られたら、そこで終わりなんだろ? じゃあな」
「あ、あ、くぅぅああぁーーーーー!」
「うっわ、ビックリした」
サナが髪を振り乱して叫び始めた。
オレは恋愛のことなんかさっぱりわからないけど、告白を断られたらこうなるものなのか?
うーん、それじゃダメだろ。
そういうのも覚悟しなきゃいけないんじゃ?
恋愛に限らず、人生っていういうものだろう。
生きてりゃ良いこともあるし、悪いこともある。
それを理解してこそが人生だ。
まぁオレは嫌なことは避けるけどね。
「ル、ルオンの、くせにぃ……!(まさかルオンに振られるなんてぇ!)」
「とにかくオレは恋愛なんか絶対にやらんから、ラークにでも頼め」
「あ、あいつはダメよ! 調査なんかで怪我をして帰ってきてさ……(ホント、ガッカリだわ)」
「じゃあ、やっぱりオレが好きなわけじゃないじゃん」
「あっ……」
あっ、じゃないんだわ。
もう本当にこれ以上は付き合いきれないから、さようならだな。
と、行こうとしたらエフィがサナの顔を覗き込んでいる。
「ねーねー、サナちゃん? ルオン君のことが好きなの?」
「な、なによ……。あんたに関係ないじゃない」
「ルオン君のどこが好きなの?」
「え、どこって、それは……」
いきなりぶっこんだな。
ある意味、エフィという最強の空気読まずだからこそここまで突っ込める。
あのサナがタジタジじゃん。
「わからないの? こうぬぼっとしてるところが好きとかさ、あるよね?」
「て、ていうかあんたは何なのよ! ルオンの彼女でも何でもないんでしょ!(なんかすっごいやりにくいわ!)」
「彼女じゃないのはお互い様だよねー。それでどこが好きなの?」
「どこがって、いえ、まぁ……(わ、わからないけどこの子、苦手かも……)」
おい、ぬぼっとしてるってどういうことだ。
お前、後で問い詰めるからな。
「私は言えるよ?」
「え、言えるって、あなたまさかルオンのこと……(付き合ってなかったんじゃないの!? 付き合ってないとしても、そんなに堂々と言えるものなの!?)」
「好きだよ! 一緒にいて安心する!」
「は? それだけ?」
「うん、それだけ」
あのサナがすっかり翻弄されているな。
これは意外で面白い。
サナみたいにあれこれ計算して動く奴は案外、エフィみたいに一本槍で突撃してくる奴に弱い。
サナが攻めあぐねるところをエフィは遠慮なく切り込むからな。
あれこれ考えてオレをどうにか懐柔しようとしていた奴から見れば信じられないだろう。
なるほど、これは面白い。思わぬ伏兵ってところか。
「す、好きならとっくに付き合ってるんじゃないの?(堂々と好きと言い切ったのよ! 一緒にいるならそういうことでしょ!)」
「違うよ?」
「じゃあ、なんで一緒にいるのよ! 冒険者仲間だからってのはなしよ!(混乱してきた!)」
「安心するからだよ?」
なんでそれはなしなんだよ。意味わからん。
理由としては十分すぎるだろ。
こいつ、男女を見ればすぐ恋愛に変換して勘ぐるタイプか。
生きていて疲れそうだな。
「そういうわけだ、サナ。オレ達は恋人でも何でもないけど一緒にいる。世の中にはそういうこともあるんだよ」
「ル、ルオン。あなたはエフィさんのこと、どう思ってるのよ。好きなの? 嫌いなの?(白黒ハッキリさせてやろうじゃない!)」
「好きだぞ?」
「ぶっふぅーーーーー!」
今度はなんか噴き出して倒れたぞ。
忙しい奴だな。村にいた頃じゃ考えられん。
それだけ都会ってやつは人を変えるのか。
これが恋愛脳の怖さよ。
それで本人が満足してるならいいけどな。
でも一つだけオレから言えることがあるとすれば――
「サナ。自分の都合ばかり考えるなら、恋愛なんてやめたほうがいいぞ。まずはどう生きるかってのを真剣に考えたほうがいいんじゃないか?」
「なにさ、どう生きるかって……(そんなものどうでもいいじゃない)」
「オレは嫌なことは絶対にやりたくない。お前だってそうだろ。じゃあ、嫌なことをやらずに生きていける方法を考えたほうがいい」
「そんなに人生、甘くないでしょ(将来性のある男と結婚するのが最善なのよ)」
「オレがお前だったらいい男と結婚して楽をするくらいなら、一人で楽に生きられる方法を探すけどな」
サナがぎょっとしてオレを見た。
おっと、つい心の声に答えてしまったか。
「一人で楽に生きられる人間なんているわけないじゃない。将来は結婚をして家庭を持つ。これこそが人としての人生なのよ(常識よ、常識)」
「そんなの誰が決めたんだ?」
「だ、誰って、それが普通でしょ(お父さんとお母さんだってそう言ってたから……)」
「誰が決めたかわからんものに従って生きる必要ないだろ。オレは絶対に自分がやりたいようにやる」
サナがもどかしそうに視線を逸らす。
大人達がそうしてきたから正しいとか、そう思い込んで自分の人生をつまらないものにする。
なんともったいないことか。
「お前の根底にあるのが楽をしたいっていうなら、自分一人で生きたほうが絶対いいだろ。大体、結婚相手が結婚後に本性を表したらどうするんだよ。オレの親父みたいなのだったら?」
「それだけはいやぁ!(背筋がゾッとしたわ! なんてこと言うのよ!)」
「すっごい拒絶」
「う、う、う……」
でけぇのが出たなんて言って便所で出したものを見せつけてくる男なんて、サナも嫌だろう。
食事前だろうとお構いなしだからな、あれ。
それはそうと、なんか情緒不安定になってきたな。
後は自分で考えてくれ。
自分の人生なんだから、自分が好きなように生きたらいい。
オレからすれば一生かけて一人の人間と暮らさなきゃいけないなんてそれこそゾッとする。
「じゃあ、そういうことだからさ。サナ、お前も達者でな」
「あ、待って……(ル、ルオンのくせに、私、どうしたら……)」
「待たん」
すっかり弱々しくなったサナを置いて、オレは依頼主のところへ向かった。
こんなことしている場合じゃないんだ。
何せ次の依頼人はエルフ、オレの人生にとって重要なイベントとなるか否か。
恋愛なんて眼中にないんです。
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