恋愛ごっこは他でやってくれ
えっと、落ち着こう。
村を出た幼馴染のサナがなぜかオレに会いに来た。
なんでここがわかったのかとか、怖い要素が盛りだくさんだけどそんなのは些細なことだ。
一番やばいのは今更、なんでわざわざ会いに来たのか。
サナの本性を知っている以上、ろくなことじゃないのは確かだ。
まさか金を貸してくれってわけじゃないよな?
オレが金を持ってるかもわからない上にわざわざ居場所を特定してまでやることじゃない。
嫌な予感以外、何も感じない。
大方、ラークにも振られて当てがなくなったところでオレの話をどこからか聞いたんだろう。
冗談じゃないぞ。
サナの恋愛ごっこなんかに巻き込まれるのはごめんだ。
「ちょっと! だからなんで無視するの!(もしかしてわざとやってる?)」
「なんだ、サナか。久しぶりだな」
「ようやく気付いたのね。ルオン、元気そうで安心したわ(落ち着いて、ここは少し不安な仕草を見せるべきよ)」
「お前もな」
とりあえず適当に相手をしておくか。
めっちゃ注目される中、サナはブレずに目をうるうるとさせている。
こいつがこんなに演技派だったとは。
ヘッドホンを授かる前のオレなら気づかなかっただろうな。
この泣き真似もずっと昔から習得していたことになる。
オレがラークとの模擬戦でボッコボコにされた時、泣きながらオレを庇ったのを今でも覚えていた。
「ところでその子は?(まさか彼女!?)」
「こいつはエフィ、冒険者として一緒に行動している」
「じゃあ、付き合ってるわけじゃ、ないのよね?(ないないないない! だってあのルオンよ!)」
「ないぞ」
それを聞いたサナがあからさまにホッとしている。
エフィはサナに手を差し出してよろしくのポーズを取った。
「サナちゃん、よろしくね!」
「エフィさん、ルオンが世話になっているみたいね(仲間なら優しくしていいところを見せてあげないとね)」
意外とすんなりと挨拶できたな。
エフィのことだから空気を読まずに爆弾を投げるかと思った。
「ルオン、本当に久しぶりね。会いたかった……(心の広さを見せたことだし、ここで少し目元を緩ませるわ)」
「そうか。それはよかっ……おい」
なんか泣きながら抱き着いてきたんだけど?
ちょっとやめてくださる?
涙が服についたら洗濯してもらうけど?
(耳兜のガキ、あの歳で女がいるのかよ! オレでさえ彼女なしでもうすぐ三十なんだが!?)
(見せつけてくれるなぁ。ませやがってよ)
(あのサナって子、どう見ても耳兜にホの字だろ。俺とあいつで何が違うんだよ。あのクソガキ、マジで惨たらしく殺してやりてぇ)
殺意がすごい。
そんなことでその手を血に染めるなんてバカらしいぞ。
恋愛だの結婚だけが人生じゃないからな。
周りが女の子と付き合っているとか、結婚しているかどうかなんて気にするな。
三十近くになって縁がないなら、いっそ他に楽しみを見つけて人生を楽しんだほうが有意義じゃないか?
ただそれが一般的な価値観じゃないのはなんとなくわかる。
このサナからしてこれだからな。
「離れろ」
「な、なにをするのよ……(引きはがした! ルオンがこんなことを私に?)」
「周りを見ろよ」
「あ……ごめんなさい(ここで顔を赤らめる。完璧ね)」
こいつ、やっぱりターゲットをラークからオレに変えたとしか思えない。
大方、ラークの小隊が任務に手間取ったと聞いて出世の見込みがないと判断したんだろう。
腹の内がわかった後も別に恨みはないけど、今更やってきてオレのマイライフをかき乱すなら許さんぞ。
「それで何の用だ?」
「あ、あのね。ここじゃ何だから場所を変えない? ほら、久しぶりに話したいこともあるし……(ここで思わせぶりな態度を見せる、と)」
「オレもやることがあるからな。その後でいいか?」
「構わないわ(きたわ! やっぱり私のことが好きなのね!)」
一応、同じ村で暮らした仲だからな。
恋愛ごっこじゃないなら話くらい聞いてやってもいい。
* * *
「……それでね、なんか違うなって思ったの。理想と現実の違いっていうか、私はこのままでいいのかなって思った(さぁ、同情しなさい!)」
あのさ、長い。マジで長い。
場所を適当なカフェに変えたのはいいけど、いちいち間を取って話してくるから本当に長い。
しかもいつまで経っても本題に入らない。
30分くらい話してるけど内容は騎士団の仕事がつらいの一言で終わる。
同情させる作戦だとわかっているのがきつい。
一瞬でも幼馴染だからって情けをかけたのが間違いだった。
「ねぇルオン、どう思う?(ここで同情したこいつが『そうか、つらかったんだな』とでも言えば!)」
「じゃあ、辞めればいいんじゃね?」
「え?(こいつ、なんて言った?)」
「つらかったら辞めればいいだろ。簡単な話だ」
サナがぱちぱちと瞬きを繰り返している。
オレなにか変なこと言ったか?
サナの悩みに対してこの上ない解決方法を提案したはずだ。
大体、オレの隣にいる奴なんか堂々とテーブルに突っ伏して寝てるだろ。
涎まで垂らしてるぞ。
その時、むくりとエフィが起きた。
寝ぼけた目でサナを見る。
「お話、終わったぁ?」
「大体終わったぞ」
「じゃあ、いこっか」
「そうだな」
オレとエフィが立ち上がるとサナが慌て始める。
またしても行く手を塞がれてしまった。
「ル、ルオン! あの! 私、その……(なんでこうなるのよ! こうなったら少し前倒しするしかないわ!)」
「なんだ? まだ話があるのか?」
「私、悩んでるのよ。辞めればいいとかそういう問題じゃなくて……。私、誰かに頼りたいの。一人じゃ心細いの(ひたすら悲劇の少女アピールよ!)」
「じゃあ冒険者ギルドに依頼を出せばいい。護衛依頼でも家事でも何でもいいぞ」
「ち、ちがっ……だから、そう、じゃなくてぇ……(やばいわ、もうキレそう)」
段々情緒がおかしくなってるな。
さっきからオレの助言の何が気に入らないんだ?
そんなにオレと恋愛ごっこしたいのか?
「ルオン、あなた冒険者としてかなり活躍しているみたいね(めげるんじゃない、サナ。まだ挽回のチャンスはあるわ)」
「そうでもないぞ」
「謙遜しなくていいわ。あなたの活躍は聞いているもの。ルオン、すごくがんばったのね(褒めるのよ、サナ。焦らず慎重に食らいつくのよ)」
「そうだな。話は終わりか?」
もじもじしやがって。本当にめげないな、こいつ。
完全にラークからオレにターゲットを変えたのがよくわかる。
まぁあいつのほうが恋愛なんて興味ないだろうから、いずれにせよ失敗していたと思うけど。
昔からオレに執着して強くなることしか考えてなかったみたいだからな。
「私、あなたの活躍を聞いてすごく嬉しかった。そしてようやく気づいたの。私、昔からがんばるあなたが好きだって……(これはさすがに落ちたわね!)」
「はぁ……」
「だからね、ルオン! 私、あなたと一緒にいたい! あなたが好き!」
サナが顔を赤くして告白してきた。
ヘッドホンがなかったら、人によっては最高のシチュエーションなんだろうな。
本心からの告白なら返事くらいしてやろうかと思ったけど、サナには下心しかない。
「そうか」
「……え? そ、それだけ?(な、なに? 今のはどう見てもキュンってなって『オレも……気がつけばサナを見ていた』とか言うはずよ?)」
さすがにこれ以上、付き合う義理はない。
オレはサナを置いて、会計を済ませて店を出た。
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