生き方を決めてから手段を選択する
「吸って吸って吸って大きく吐いてぇーーー!」
「すぅーーすぅーーーはぁーーー」
焼肉店で料金を立て替えてあげてから、オレ達はドキムネさんから呼吸法を教わっている。
呼吸で体内を活性化させてモンスターを爆散させるような人の言うことじゃなかったら、信じてなかったと思う。
ドキムネさんが言うには呼吸法は体を動かす上で絶対に無視できないそうだ。
戦いや力仕事然り、呼吸に無駄があるとあっという間に体力を消耗してしまう。
体内に酸素が行き届かず、体が運動に適した状態じゃなくなるからだ。
十分に体が活性化していない状態で戦うと、いくら技が優れていようがすべて無駄とまでドキムネさんは言い切った。
確かにこの辺りはレイトルさんは一切教えてくれなかったな。
無駄のない動きをするということはつまり無駄のない呼吸をすること。
運動量に適した呼吸をすることが大切だという。
「吸って吸って吐いてー!」
「いや、エフィ。お前もやるんだよ」
「えーー! つまんないもん!」
「お前、そろそろ一発くらいゲンコツしていいか?」
さっきからうるさいのはエフィだ。
ドキムネさんから基礎を教わったのはこいつも同じのはず。
オレはあの人から日常でも呼吸を意識するように言われた。
だからこうして冒険者ギルドで依頼書を値踏みしている時でさえ呼吸法を守っている。
一日かけて呼吸法を教わった後、ドキムネさんは(自室にダークガールズバーの割引券が置きっぱなしなのを思い出した! 妻に見られたら死ぬ!)とか心の中で叫んで消えた。
もちろんオレ達には、これから本部への報告をしなきゃいけないなんてかっこよさげなことを言ってたけどね。
がんばって生き延びてほしい。娘にも見られないようにな。
「お前も呼吸法をマスターすればより効率よく魔力を練られるって言われただろ?」
「魔法を使えなさそうな人に言われてもぉ……」
「そういう偏見でものを言う奴とはここでお別れだな」
「あの筋肉はまさに魔法革命の賜物だよねぇ!」
それ本人の前でちゃんと言えよ。
次に会った時にちゃんと伝えるからな。
それはそれとして、こいつにはしっかりと言ってやらないとな。
オレについてくるなら、当然だけどオレが望む水準に達してもらいたい。
こいつの人間性はどうあれ、オレの生死に関わることだ。
もしエフィがヘマをしたら、オレまで巻き添えで死ぬかもしれないからな。
「エフィ。オレについてくるのはいいけど、こっちは遊びじゃないんだ。足を引っ張られると困るんだよ。だから真面目に練習しろ」
「ご、ごめんなさい……」
「オレは別に全員が強くあるべきとも思わない。弱かろうが人生を楽しんでるならそれでいい。だけどオレに迷惑をかける奴だけは嫌いだ」
「う……」
エフィが肩を落とした。
少し言いすぎたかもしれないけど、こいつがオレについてくるって決めてるんだ。
オレの視界で死なれるなんて最悪だからな。
ここで拗ねるならいっそ離れてもらったほうがいい。
「……わかった。ルオン君がそういうならがんばる」
そうポツリと答えた後、教えてもらった呼吸を始めた。
たとえ国が滅んで裸一つになっても生きていける力をつける。
そのためにはこの呼吸法は絶対に必要だ。
オレについてくるなら、オレの生き方に従ってもらう。
オレに迷惑をかけないということはつまりそういうことだ。
なんてことを冒険者ギルドでやっていたら相変わらず心の雑音が聞こえてくる。
(耳兜だ……)
(あの野郎、マジで強いのか?)
(呼吸法だってよ。大切なのは技だろ)
そうそう、大切なのは技です。
そう思っていてくれたほうがライバルが減って仕事がやりやすくなる。
その仕事だけど一つ、名案を思いついていた。
ドキムネさんにオレの生き方を話すと、エルフという種族について教えてくれたんだ。
森の民エルフは自然と共に生きている長寿な種族だ。
人間と違って自然に寄り添って暮らしているから、オレが参考にすべきことがたくさんあるらしい。
それを聞いてエルフに接触しないわけにはいかない。
とはいえ、オレにエルフの知り合いなんていない。
王都にも少なからず住んでいるエルフはいると聞いて、オレは彼らからの依頼を探していた。
いきなり見ず知らずの人間として会いにいくよりは、冒険者として接触したほうがうまくいく。
そこですべてうまくいけばいいんだけど世の中、そう甘くない。
なぜかというと、こういう都会に帰化しているエルフは自然とはかけ離れた文化に慣れちゃってることもあるらしい。
だからオレはそのエルフから知り合いでも友達でも、伝手を使うつもりだ。
そのエルフの知り合いが自然の中で暮らしているようなら、その人に会いにいく。
いきなりエルフの里に行くよりはいくらかうまくいくはずだ。
「エルフ、エルフ……なかなかないもんだな」
「いきなりエルフの里にこんにちはしちゃおう?」
「知らないガキがいきなり飛び込んであれこれ教えてもらえるか? 『人間め! 出ていけ!』みたいなノリだったらどうする」
「偏見がすごいねぇ」
昔はそういうこともあったらしいけど、今はほとんどないらしい。
ドキムネさんはそう言うけど、オレとしては無駄足が一番嫌だ。
ドキムネさんにエルフの知り合いがいないか聞いたけど、『爆裂! エルフっ子クラブ!』とかいう店の名前を教えられて終わった。
もうダメだ、あの人。
ていうかそういう店が多すぎだろ。
どれだけ需要あるんだよ。
「んー、これも違う。これもダメ、これも……あ、依頼人の種族がエルフ? これ、いけそうだな。魔道具素材の採取依頼か」
「つま……面白そうな依頼だね!」
「そういうこと言う奴とはこれまでだな」
「面白そうって言ったじゃん!」
よしよし、これは幸先がいいぞ。
さっそく依頼引き受けの手続きを――
「ルオン!(いたっ!)」
冒険者ギルドで誰かが叫んだ。
このギルドにオレと同じ名前の人がいるのか。
なんかトラブルの気配が漂ってるな。
ルオン、お気の毒。
「エフィ、お前も一緒に引き受けるんだから手続きしような」
「うん。面白そうな依頼だもんね。おもしろそー」
「そこまで自分に言い聞かせなくていいからな?」
「ルオン!(聞こえてないのかしら?)」
オレが受付のカウンターに向かうとまた叫んだ。
さすがに迷惑だから声を落としたほうがいいんじゃないか?
「ルオン! やっぱりそうよ! なんで無視するのよ!(お、おかしいわね? こいつが私を無視するなんて……)」
「どこのルオンが無視してるんだか……」
「あなたよ! わからないの? 私よ、私!(はぁ?)」
「うわ、なんか胡散臭く聞こえる」
肩を掴まれたので観念して振り返ると、そこには幼馴染のサナがいた。
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