オレはお前をとっくに認めている
ディッシュ隊が無事、下山したのを見届けた。
隠れながらディッシュ小隊をサポートしていたけど、さすがとしか言いようがない強さだ。
雨上がりで足場が悪い中、各騎士は剣術を冴えわたらせてフォレストウルフを寄せ付けない。
悪いけど見ている限りではなんであそこまで追いつめられたのかがわからないほどだ。
いや、剣術そのものよりも注目すべきはあの精神力だ。
何日も籠城していれば、精神がおかしくなっても不思議じゃない。
だけど誰一人としてそんな影響を受けずに戦っているように見えた。
それにあのラーク、村を出た時とは別人みたいに強くなっていたな。
あいつが自覚しているかはわからないけど、現時点で小隊長のディッシュさんより強い。
強い、というのはあくまで俺目線だ。
お行儀よく剣術だけの試合なら、まだディッシュさんのほうが強いかもしれない。
だけどあの気迫と音は生物の強さとして、ディッシュさんを上回っていた。
あのメンバーの中でフォレストウルフの動きを一番見切っていたのは間違いなくあいつだ。
しかも何が恐ろしいかって、あいつは怪我をしている。
それでフォレストウルフの群れを一振りで一掃したってことだ。
あの数に対して剣一振りで致命傷を与えるのがどれだけ難しいか。
今のオレならよくわかる。
エクスカリバーはまさに一刀両断といった強さで驚いたけど、それすらも添え物としか思えなかった。
動きの無駄のなさ、足運び。
オレがヒドラから教わったことを無意識に習得していたのは拍手ものだった。
それでこそオレが英雄と見込んだ男だ。
世の中は公平にできている。
ラークみたいな類まれなるセンスを持って生まれた人間もいれば、そうじゃない人間もいる。
後者はどう頑張っても前者に勝つのは無理だ。
だからといって不公平か?
オレはそうは思わない。
だって英雄がいれば、その後ろで守られながら暮らす権利が与えられるんだから。
強者なら強者としての宿命や義務があり、弱者なら弱者なりの生き方がある。
弱者は強者にはなれないけど、宿命や義務なんてものはない。
何かを得て何かを失う。そういう意味では人間は皆、公平だ。
ラークにはどんどん出世してほしい。
オレみたいな弱者がいる後ろは振り返らず、英雄にでもなってくれ。
オレはお前をとっくに認めているんだからな。
いい同僚や友達に恵まれて嬉しい限りだよ。
周囲に優秀な人間がいれば、そのうちオレのことなんか忘れるだろ。
「あー、きっつ……」
昨日の夜からきちんと寝ていないせいで、さすがにふらついてきた。
王都まではまだ距離があるってのに。
携帯食をかじりながら休憩を挟んで歩いているけど、こんなことならディッシュ隊に声をかければよかったか?
「少し休もう……」
適当な場所を見つけてオレは腰を落ち着けた。
そうした途端に瞼が重くなる。
眠気なんてのもを感じずにオレの意識は途絶えた。
* * *
「おっ! 気がついたか!」
目を覚ますとそこは知らない部屋だ。
きちんとベッドに寝ている。
なんだ、ここ?
「岩陰に子どもが倒れているものだから、そりゃ驚きすぎてドキがムネムネしたぞ! ハッハッハッ!(大丈夫だ、若者言葉は熟知している)」
まだ頭がボーッとするけど、なんだこのおっさん?
助けてくれたのはわかるけど言葉選びのセンスがない。
オレは確かに若者だけど、聞いていてこっちが恥ずかしくなる。
「あ、あれ? 外したかな?(ウソだろ?)」
「いや、大丈夫です」
「そうか! それならよかった!(よし! 引き続き若者との会話はこのノリでいこう!)」
「えっと、それであなたは?」
「おっと、そうか。自己紹介をしていなかったな」
頭が冴えてくると、おっさんの風貌がよく見えた。
かなり体格がよくて、背丈の高さとしては頭が天井に近いほどだ。
引き締まった筋肉質な体にシャツ一枚というラフな格好だけど、今だからよくわかる。
このおっさん、下手したらエルドア公爵と同等の実力があるな。
オレごときじゃ聞き取れないほどの音が聞こえるから、あくまでそう推測するしかない。
自己紹介をされるまでもない。
国内で何人といない実力者となれば必然的に絞られる。
「私は旅人のドキムネ。君が倒れているものだから、急いでこの廃屋に救助したのさ(ドキがムネムネなんて言ったものだから、咄嗟にドキムネとか名乗ってしまった!)」
「ここは廃屋なんですか」
「あぁ、すでに使われていないみたいだな。まったくもってラッキークッキーだよ。ハッハッハッ!(怖がらせないようにここで笑いをとる! 完璧だな!)」
「あ、はい」
助けてもらっておいて何だけど、さっそく別れたい。
聞いていて居たたまれなくなる。
本人はあくまで必死なのがもうね。
こういうのなんて言うんだっけ?
そうそう、共感性羞恥心だ。
村で親父が何かやらかすたびにこっちも恥ずかしくなったからな。
特に肥料になるとかいって、自分のアレを他人の畑にまでばらまきやがった時は木の枝から吊るされてたよ。
なんでオレが謝罪巡りしなきゃいけないんだ。
あのクソ親父はともかく、どうして強者には変なのしかいないんだ?
いや、エルドア公爵に失礼か。
でもなんかこの人、ちょっと似てるんだよな。
どこが、とは言えないけどさ。
「そ、それで君はなんだ? 冒険者か? 恋人にでも振られて傷心旅行中か?(ユーモアを忘れずに緩くいこう!)」
「もし本当だったらどうするんですか。オレは冒険者のルオン、ちょっとやらかして倒れたみたいです」
「ほう、ルオン? あ、いや。なんでもない(危ない! いや、喋ってよかったんだったか?)」
「何も言ってませんが?」
絶対オレを知ってるだろ。
大方、ヒドラの関係者ってところか?
寒いノリといい、言っちゃ何だけど初めてヘッドホンを外したいと思った。
ヘッドホンがなかったら少なくとも変なおっさんで終わってたと思う。
「そうか、冒険者か。しかしレイトルに鍛えられたとはいえ、無茶はいかんな(あ、やべっ)」
「レイトルさんと知り合いですか?」
「いや、なんのことだ? 君は疲れすぎて頭がどうにかなっているようだな(ごまかし成功!)」
「言葉には限度ってものがあるんですけど?」
助けてくれたお礼を言うタイミングが掴めないんだが。
とっととお礼を言ってここを出よう。
これ以上、ここにいると頭がどうにかなってしまいそうだ。
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