どしゃっとね
フォレストウルフ達がすっごい勢いで追いかけてくる!
総勢百匹以上、一瞬でも気を抜いたら追いつかれて食い荒らされるんだろうな。
木の根なんかが邪魔をする足場だけど、こちとら鍛えているんだ。
(あの木がちょうどいいな)
走っている最中に目をつけた木を蛇腹剣で斬る。
切断とまではいかなくても、少し斬り込みを入れたら倒れるのはわかっていた。
丈夫な木や朽ちかけの木のミシミシやパシッといった音を拾えば、どれを斬れば倒れるのかわかる。
倒れた木がフォレストウルフ達に倒れていった。
「ギャウッ!」
「バウッ!」
これで押しつぶされるマヌケな個体ばかりじゃないけど、足止めにはなる。
オレは引き続き走った。
目指しているのはある場所だ。
制限時間以内に到達すればフォレストウルフ達を一網打尽にできる算段があった。
オレが拾ったのは土砂崩れの兆しの音だ。
雨のせいで地盤が緩んでいる。
そこではかなり大規模な土砂崩れが起こるから、うまくあいつらを巻き込めば全滅できるはず。
だからあいつらがオレを追って来てくれないと困る。
そしてオレが追いつかれると困る。
目標の地点までまだ少し距離があるな。
木々の枝に蛇腹剣を当てて枝や葉を落とした。
「ギャワンッ!」
「ガッ!」
目くらまし程度の妨害にしかならないけど、蛇腹剣のリーチと柔軟性なら最小限の動きで実現できる。
対してあいつらは全身を動かして回避しないといけない。
オレにこの武器を作ってくれたガントムさんにはマジ感謝。
普通の剣だと、あの高さまで届かないからな。
だけどあくまで足止めであって、根本的な解決にはならない。
目標地点まで走り続けているけど、さすがに体力的に少しきつくなってきたな。
レイトルさんに鍛えてもらったとはいえ、この悪天候の中だ。
山歩きに慣れているとはいっても、雨で濡れた山肌を走り続けるのは神経を使う。
だけどオレはこの雨に助けられて勝利する。
見えてきた。まだ見た目じゃわからないけど、あそこはもうすぐ崩壊する。
オレは力を振り絞って一気に加速した。
「必殺! 土砂落としィ!」
オレが駆け抜けたと同時に左側から大量の木々と土砂が滑るように迫る。
ドドドという音と共にそれは一瞬で押し寄せた。
「ウォォーーン!」
「ガァッ!」
フォレストウルフ達が勢いよく流れる土の波に巻き込まれいく。
よし、これで――
「やっばぁ!」
オレのすぐ左側からも土砂崩れが起こった。
思ったより広範囲の災害だったみたいで、オレは咄嗟に跳んだ。
が、それで逃げられるわけがない。
すぐに落ちた先は土砂の波だ。
「やっばばばっ……」
土砂に飲まれてオレはだいぶ流された。
もがきながらも手で掴んだのは一緒に流れてきた木の枝だ。
必死に掴んだまま離さず、流れに逆らえずにいる。
やがて落ち着くと、オレは土の中にいた。
(やばい埋まり方したか……?)
幸い跳んだおかげで完全には埋まらなかったみたいだ。
土砂から抜け出すと、オレはすぐに山を駆け上った。
観測所を襲っていた大量のフォレストウルフが土砂に埋もれている。
かすかに息がある個体もいたけど、あの様子じゃもうほとんど動けないだろう。
「恨まないでくれよ。こっちも恨みなんてないからさ」
オレは足場に気をつけながら、元の道を戻る。
さすがに歩きでいいか。
まだフォレストウルフが残っている可能性があるし、これ以上の体力消耗は危険だ。
やがて観測所が見えた時、オレはどうするか考えた。
フォレストウルフをやっつけたよと報告するか?
ディッシュという人がどんな人物かわからないけど、信用してくれなかったら面倒だ。
それにあのラークと顔を合わせる可能性がある。
かといって何も言わないままだと、小隊は救助を待ち続けるかもしれない。
そうこうしているうちにアストンの容態がますます危うくなる。
どうするべきかな。
* * *
「ん? 物音がしたな?」
ディッシュ小隊長が扉の前で様子をうかがっている。
扉が頑丈に作られているとはいえ、あれだけのフォレストウルフがいたんじゃいつ破壊されてもおかしくない。
だからディッシュ小隊長が扉の前でずっと見張っていたんだ。
そうしていることで何日が経過したか。
アストンは応急処置を済ませているとはいえ、まだまだ油断ができない状況だ。
オレも負傷しているし、まともに戦えるかといえば少し厳しい。
そんな状況だったけど、なんだか様子がおかしい。
ディッシュ小隊長が少しだけ扉を開けた。
そこにフォレストウルフはいない。
いつの間にいなくなった?
「あれだけのフォレストウルフは一体どこに……ん? この袋は?」
扉の前に置かれていたのは袋に包まれた一枚の紙だった。
ディッシュ小隊長が不思議そうに手に取る。
「なに? 『フォレストウルフは土砂崩れに飲まれて全滅しました。山を下りるなら今です。旅の冒険者より』 なんだ、これは?」
「ディ、ディッシュ小隊長。なんですか、それ……」
「わからん。悪戯にしては場所が場所だ。それにフォレストウルフがいなくなっているのも事実……」
「旅の冒険者って……。なんでこんなものを?」
ふざけたことをする奴だけど、こんなところに来るような冒険者だ。
かなりの腕だろう。
だけど、なんだってこんな回りくどいことをするんだ?
なんか引っかかるんだよな。
それにこの字、なんだか見覚えがあるような?
「こんなものを残すくらいならば声をかければよかったものを……」
「ディッシュ小隊長、山を降りましょう。アストンのこともあります」
「……信用していいものかな?」
「俺の勘ですが信用していいと思います! それにまたフォレストウルフが集まってきたら今度こそ終わりですよ!」
俺の切羽詰まった言葉にディッシュ小隊長が頷いた。
怪我をしているアストンは騎士の一人がおんぶをして、俺も体に鞭を打ってエクスカリバーを握る。
「何者かはわからんが、もし生還できたら礼の一つでもいいたいものだな」
「気持ちよく礼を言いたくなる奴ならいいんですけどね」
「なに?」
「いえ、行きましょう」
皆で観測所を出ると、慎重に下山に向けて歩き出した。
今のところ静かだけど、いつフォレストウルフが出てくるかわからない。
来るときはあんなに余裕だったのに、今や少し草木が揺れるだけでビクリとなってしまう。
今回の件で俺はモンスターの恐ろしさを思い知った。
奴らだって知恵がある。
チームプレイで人間を追い詰めてくる。
「ラーク、無理をするなよ。戦いは私に任せろ」
そうディッシュ隊長が言った直後、フォレストウルフが飛び出してきた。
俺が応戦しようとするけど、なぜかフォレストウルフが血しぶきを上げて倒れる。
なんだ? 誰も手を出してないぞ?
ディッシュ小隊長がフォレストウルフの死体に近づくと、何かが奥の林で動いた気がした。
あそこにもフォレストウルフが隠れているのか?
「こ、これは……。見事な斬り口だ」
「ディッシュ小隊長、奥にまだフォレストウルフがいるみたいです」
「深追いする必要はない。それより、ここには私達以外の誰かがいるようだな」
確かにこの斬り口、妙だな。
剣とも違う。
なんていうか、えぐり斬ったという表現が正しい。
騎士の誰でもないのは確かだ。
「ディッシュ小隊長。何かいますよ。フォレストウルフよりも恐ろしい何かが……」
「あぁ、だが今は味方だと信じよう」
あのメモの捻くれたような字、そしてこの斬り傷。
まさかとは思うが、あいつなのか?
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