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断じて友情なんてものはない

 夜の王都を駆け巡り、オレは人が集まりそうなところに出向いた。

 エフィには三日後に宿に帰ると伝えてある。

 その時のあいつの顔がなんだか妙だったな。

 一瞬だけ泣きそうになったような。

 いや、気のせいか。


 多くの人で賑わう酒場は雑音が多いけど、同時に色んな情報が集まる。

 聞き分けるのが大変だけど、化け物の弱点を探すより楽だ。


 大半がどうでもいい情報で溢れる中、ディッシュ隊に関する情報が少しずつ集まった。

 酒場で飲んでいる客は噂好きが多い。

 真偽がハッキリしないものも多いから、そこは慎重にならないといけないけど。


(ケルブ山の調査かぁ。フォレストウルフが繁殖してえらいことになってるよなぁ)

(ケルブ山越えが楽になれば、北のユーステスとの行き来が楽になるんだけどな)

(あんなところを調査するくらいなら、見回りを強化してくれよ)


 情報源はほとんどが非番の騎士達だ。

 他の部隊の騎士だろうけど、ディッシュ隊の話は大体知っているらしい。

 フォレストウルフ、嫌な名前を聞いてしまった。


 そりゃモンスターはいるか。

 情報によるとフォレストウルフは数が多い上に意外と連携がうまいらしい。

 こいつの恐ろしさは単体での脅威じゃなく、まとまった時だ。

 草木に隠れて敵の様子をうかがって隙が見えたところで一気に襲いかかる。

 双尾の侵緑主と少し似ているな。

 

 だとすればいくら騎士達とはいえ、危うい相手ってことか。

 小隊の規模はわからないけど、数人程度なら数で圧倒されても不思議じゃない。

 その中にラークがいるとしたら――


(なんでオレはあいつの心配をしてるんだ?)


 ここでふと我に返る。

 命令とはいえ、あいつは王都への召集に乗り気だった。

 オレを見下して出世すると意気込んでいた。

 あいつには数えきれないほど罵倒されたはずだ。

 オレじゃなかったらぶん殴っているか、気が滅入ってもおかしくない。


(まぁ一切なんとも思ってないと言ったらウソになるな)

 

 人間性はともかく、あいつの才能は本物だ。

 オレが剣の勝負でまったく勝てなかったのは事実で、言うだけはある。

 村の警備をしているバンさんだってハッキリとオレより才能があると言い切った覚えがあった。


 この世に英雄なんてものが現れるとしたら、ああいう奴なんだろうな。

 生まれながらにして剣の才能に恵まれて、エクスカリバーなんて神器を授かる。

 国王からも期待されて、人々から拍手喝采を浴びる。


 そんな想像をしてしまうほど、オレはあいつに才能を感じていた。

 だからあいつが旅立つ前の日、決闘を受けて立ったんだ。

 あいつがオレみたいな奴に足元をすくわれないように、オレなりに教えてやった。


(あいつみたいなのが英雄にでもなってくれたら平和な世の中になる。オレがより楽ができる)


 そうだ。そんな感じだった。

 決して同じ村で育った仲間だとか、薄っぺらい友情めいたものじゃない。

 オレは別に剣術で最強になりたいとか、そんなことを考えていない。

 だからあいつがいくら煽ってこようと、対抗心なんて微塵も芽生えない。


 オレはオレの人生がある。

 あいつにはあいつの人生がある。

 それなのにあいつはオレの生き方に口出しをしてきた。

 そこが少しだけ引っかかっていた。言ってしまえば、ただそれだけだ。


(ラーク、お前は英雄になるんだよ。オレなんかと違ってな)


 酒場内で何も頼まずにうろついていると、さすがにちらほらと注目される。

 店員からしても迷惑だ。

 普通に非番の騎士達に話しかければいいとは思う。

 だけどあいつが生き残った時に、オレの痕跡を残すのが嫌なんだ。


 ラークだってオレみたいなのに助けられたくないだろう。

 それはあいつのプライドを激しく傷つけることになりかねない。

 だからオレみたいなのはこっそりと動くくらいでちょうどいいんだ。


 あれ?

 これってまるで友達のことを考えてるみたいじゃん?

 違う、違う。

 単にオレが楽をしたいだけだ。

 あいつには英雄になってもらう。それだけだ。


 オレは酒場を出て夜の王都を歩いた。

 集まった情報によるとケルブ山にディッシュ隊が入ってから一週間以上、経過している。

 予定では三日間の調査だったらしい。


 ディッシュ隊の小隊長であるディッシュは第三部隊の中でも腕はトップクラス、経験も申し分ない。

 そんな人が率いる部隊が消息を絶ったんだから、よほどの事態と考えるべきだ。


 うん、やめるか?

 何もオレが行く必要はない。

 放っておいても騎士団が何とかするはずだ。


 そもそもこれで仮にディッシュ隊がどうにかなっても、騎士団の名誉が傷つくだけでオレは関係ない。

 今回は誰からも依頼を引き受けたわけじゃないからな。

 むしろオレが下手に動くことで獲物取りが獲物になりかねない。


「雨か……」


 シトシトと降り始めた雨が冷たい。

 この分だと、山のほうはどうなっているだろうな。

 フォレストウルフに加えて雨か。

 ディッシュ隊はどうか知らないけど、少なくともラークはあれだけ大口を叩いたんだ。

 自分でどうにかするんじゃないか?


――ルオン、マジかよ。だけどお前はそこでへこむような奴じゃないだろ?


「悪い奴じゃないからな」


 手荷物は十分か。

 もう夜も遅いし、雨が降っているけど問題ない。

 地図によれば、ここからケルブ山はそう遠くない。

 今から歩いて休憩を挟めば、朝方には着くはずだ。


 それにしてもディッシュ隊、山歩きは初めてか?

 ちょっと準備が足りてないんじゃないか?

 特にラーク、大出世して素晴らしい人生を歩むならオレに助けられている場合じゃないぞ。


 まぁこれで実は無事でしたってのが一番恥ずかしいんだけどな。

 本来ならそうであるべきなんだけど。

 むしろそうであってくれ。

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― 新着の感想 ―
[一言] エフィ連れてけばいいのに
[一言] 主人公とラークの関係が集英社っぽくて今一つ心晴れない、なろうにその手は求めてる人いるのかな
[良い点] レスバが強いため自分への言い訳も強くなってしまう男、ルオン [一言] めんどくさいツンデレだな!? でもヘッドホンの神器は他人の心の声は聞こえても自分の心の声が聞こえるわけじゃないんだな…
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