ラークの焦り
アストンの提案通り、第三部隊で飲み会が行われた。
村で豊作祭をやった時に、おっさん達の酒の席がどんなものかはわかっている。
おっさん達が話に花を咲かせている横でオレ達、子どもはそっちのけで遊んでいたわけだが。
今回はハッキリ言ってめちゃくちゃ緊張した。
酒を注がなければいけないんだっけ?
気を使って隊長達を立てなければいけないんだっけ?
そんなことばかり考えていたけど、始まってみれば想像とは違った。
あの悪魔みたいなビルク隊長は笑いながら話をして、副隊長や小中隊長も便乗する。
むしろオレにドリンクをついでくれたほどだ。
それから訓練中での罵声なんかを謝られたし、オレに期待しているとも言ってくれた。
オレの話を親身に聞いてくれて、これからは訓練メニューを変えてくれるらしい。
アストンの粋な計らいでそれが実現しつつあるけど、オレの中で釈然としないものがあった。
例の耳兜の件だ。
「あぁ、名前は確かルオンとか言ったな。あの双尾の侵緑主の接近にいち早く気づいたおかげで、被害が最小限に抑えられたって聞いた」
「ビ、ビルク隊長。そいつはなんでヒドラなんかに?」
「わからん。ヒドラの戦闘部隊入りの方法は今一、謎だからなぁ。ま、しかし。私が誘われんってことはそういうことなんだろ」
「そんな……」
あのルオンが王都に?
村にいたんじゃなかったのか?
いや、考えてみたらあいつがいつまでもあの親父のところで暮らすとは思えない。
トイレや風呂掃除を押し付けられて、いつも愚痴を言っていた。
小便がかかった手で食事当番をやられた時は珍しく怒っていたな。
それでなくても幼い頃にあいつは親父に山に置き去りにされているんだ。
村中の大人達からあの親父がボコボコにされていたのを俺は今でも覚えている。
あの親父が大声で下品な歌を歌うせいで、内容の意味を親に質問してしこたま怒られたっけ。
だから俺もあの親父にはいい印象がない。
そんな人間が身近にいたら、家出くらいするか。
だけど村を出るなんてオレに一言も言わなかったのは水臭いぞ。
事前に相談してくれりゃ、アドバイスの一つや二つはしてやったのに。
「ラーク、まさかそのルオンとは友達なのか?」
「もしそのルオンが俺の知ってる奴なら、同じ村の出身ですよ」
「ほう! ということは一緒に神託の儀を行ったわけだな。そいつはどんなスキルか神器を授かったのだ?」
「ヘッドホンとかいう神器ですよ。音がよく聴こえるだけってんで、神官にも呆れられてました」
「音が? ふーむ……。しかしそのルオンはお前みたいにお呼ばれしなかったわけだ」
ビルク隊長が腕を組んで考え込んでいる。
俺のエクスカリバーと違って、効果がしょぼすぎるからな。
考える余地なんてあるか?
「ビルク隊長、どうしたんですか?」
「担当した神官はやらかしたのかもしれんな。私だったら確実に王都まで呼んでいる」
「えぇ!?」
「音というのは案外、拾いたい情報なのだ。例えば迫る危険が一秒でも早くわかれば、それだけで事態が好転するだろう?」
「た、確かに……」
言われてみればヘッドホンにエクスカリバーみたいなわかりやすい強さはない。
だけど、だからこそ他の人間ができないことができるということになる。
ましてやあのルオンだ。
あいつが自分からヘッドホンの有用性をアピールするとは思えない。
むしろ本当のことを言わないまま神官を納得させたんじゃないか?
俺が思案しているとアストンが勝手にドリンクを頼んでいたみたいだった。
「まぁこれでも飲んで落ち着いてよ」
「アストン、もしお前の耳がより良くなったらどんなことができる?」
「え? そうだなぁ……。相手がウソをついていたら心臓の音でわかる、とか?」
「そこまでわかるものか?」
「さぁ?」
バカらしいと思いかけたが、そこまで可能なのか?
だとしたらそれは本当の意味で神器だ。
神から授かった力、いや。
心の器という意味での心器だとすれば、それこそがあいつの本質と言えるかもしれない。
俺を負かした時みたいに、他人の隙を突いて出し抜く。
聞かれたくない音を拾ってそれを可能とする。
俺は気がつけば二の腕をさすっていた。
* * *
俺はより訓練に真剣に取り組むようになった。
下らない弱音なんて吐いている場合じゃない。
たとえ相手が先輩だろうと一歩も引かなかった。
「どりゃあぁーーーー!」
「くっ!」
手加減している相手とはいえ、小隊長のニケルさんを引かせた。
俺はその隙を見逃さず、更に突進する。
ニケルさんは思わず防御姿勢を取るも、耐え切れずに弾き飛ばされてしまった。
「ぐぅっ!」
「ラーク! そこまでだ!」
「うぉぉーーッ!」
ビルク隊長の止める声も聞かず、俺は倒れたニケルさんに追撃を仕掛けようとした。
だけど――
「やめろと言っているッ!」
「うるせぇッ! まだ勝負はついてねぇ!」
「貴様ッ!」
ビルク隊長にぶん殴られて、俺はようやく我に返った。
静まり返った訓練場、俺に視線を向ける騎士達。
ぽかんと口を開けたままのアストン。
慌てて俺は剣を締まって頭を下げた。
「す、すみません……」
「……以前と違っていい動きをするようになった。それは認めよう。しかしこれはあくまで模擬戦だ。礼を欠いた奴が騎士を名乗れると思うな」
「そ、そ、そうですよね……」
「お前はもう休め」
当のニケルさんは何も言わずに俺に握手を求めてきた。
俺が逆の立場だったらブチ切れていたかもしれない。
これがビルク隊長が言う騎士としての礼儀か。
最近、こんなのばかりだ。
やりすぎた俺をビルク隊長が止める。
そのたびに俺は頭を下げる。
だけど俺は間違っているのか?
相手を打ち負かすのにいちいち手段なんか気にしなきゃいけないのか?
騎士だなんて体裁を整えている間に、相手は汚い手段を使ってくるかもしれない。
そう言いたかったがグッと言葉を飲み込んだ。
そんな日々の中、第三部隊に一つの指令がくる。
北の山の環境調査だった。
フォレストウルフが大量発生したのもあって、調査を依頼されたらしい。
第三部隊に回ってくる指令なんてこんなものばかりだ。
俺は限界だった。
俺も、俺も成果を上げたい。
いつまでもチャンバラをやっている場合じゃないんだ。
あいつだってきっと腕を上げている。
俺はもうあいつに負けたくないんだ。
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