恋の味は甘酸っぱい? わからないな。
場所を変えてカフェで落ち着くことにした。
オレ達と別れた後、ネリーシャは王都で精力的に活動をしていたみたいだ。
冒険者として顔を広くしておくのが重要だと考えていて、いろんな冒険者とパーティを組んでいたらしい。
積極的でご苦労なことだけど、オレには考えられないことだ。
組んだ相手がイエファンみたいなのだったらどうするのか。
そう考えただけでオレには集団行動が向いてないとわかる。
ただネリーシャの考えでは、それは良くないとのこと。
冒険者同士、助けたり助けられたりする関係になる可能性がある。
それにコミュニケーション能力を磨いておかないと、あらぬ噂を立てられることもあるそうだ。
よく知らない奴として不信感を持たれていると損なことしかない。
そこで予め多くの冒険者と仲良くなっておいて、いい評判を立てておけばそういったことも抑えられる。
鍛冶代無料に目がくらんで格下と見込んだ相手を負かす。
荷物持ちをさせようとしてきた冒険者達の内情を暴露する。
そんなことをしても敵を増やすだけだ。
どこかの耳兜に聞かせてやりたい教訓だな。
「ルオン君、少し会わないうちに見違えたわね(というより別人とすら思えるわ)」
「少し背が伸びたかな?」
「本当にあのヒドラのところで鍛えられたのね(じゃなかったら説明がつかない。次に戦ったらどうなるか……)」
「想像に任せるよ」
別に口止めはされてないけど、万が一ということもある。
余計なことを言ったせいで夜、枕元にシカが立っていたらと思うと怖くて眠れない。
でもエルドア公爵のことだ。
オレの人間性を知っていながら内部に招いたんだから、何かあったとしてもあの人の責任じゃ?
その責任の代償をオレの命で清算されちゃ敵わない。
「ふーん……。じゃあこれも想像だけど、双尾の侵緑主討伐に一役買ったと言われている冒険者ってやっぱりあなた達でしょ」
「想像に任せるよ」
「じゃあ、あなた達ね(というか他にいないでしょ)」
「あまり想像ばかりしていると現実との区別がつかなくなるぞ」
あの場には大勢の騎士がいたから、噂になるのもしょうがない。
ましてや耳兜なんて被りやがってからに、余計に目立ってるんだ。
バレようがバレまいが実はどうでもいいけど、自分から言いふらす気はない。
「あーーー……私もスカウトされたかったな。ていうかエフィはしれっとついていったわけ?」
「しれっとついていって流れで鍛えてもらったよ!」
「なにそれ。ヒドラってそんなに緩いの?」
「各戦闘部隊の人が直々にスカウトしてエルドア公爵がオッケーって言ったらオッケーなんだって!」
「えぇ? だったら私にもチャンスあったじゃない」
おい、なんだそれ。
オレも知らない内情を暴露しやがったぞ、こいつ。
枕元にシカが立っていても知らないぞ。
「ま、私は冒険者が性に合ってるからいいけどね。それにしてもエフィ、ずいぶんとルオン君のことが気に入ってるのね?」
「面白いからねー」
「まるで恋人じゃない。あ、もう付き合ってるとか?」
「恋人? よくわかんない」
なんか超絶面倒な方向に話を持っていこうとしてないか?
なんでどいつもこいつもすぐそういう考え方しかできないんだ?
サナも四六時中キープがどうとか考えてたみたいだし、そのせいってわけじゃないけどうんざりなんだ。
大体な、男女が一緒にいたらすぐに恋だの愛だの短絡的すぎる。
そういうこと言い出したら男女の冒険者パーティなんてどうなる?
勘違いする奴が出てきてトラブル満載だろ。
あ、いたわ。
ネリーシャに一方的に言い寄ってまったく相手にされてない奴が。
あいつは優秀だよ。反面教師として。
「ルオン君はどう?」
「どうって何がさ」
「エフィと恋人になるとしたら、よ」
「死ぬほど面倒だから遠慮する」
「お子ちゃまねぇ。ねぇー、エフィ?」
エフィと顔を合わせて、ねぇーとか言ってんじゃねえぞ。
そいつも大概、意味がわかってないだろ。
つい最近、そういうのに熱心な奴が近くにいたから胃もたれしているんだ。
女が住んでいる部屋や家の鍵をいくつも持ち歩いて、いつでも遊びにいけるとか自慢していた奴が。
なんとかっていうサービスを使って顔も知らない女を部屋に呼べるとか。
そんな奴でも国内トップクラスの実力なんだからな。
「まー、その歳じゃ無理もないけど恋愛って悪いことばかりじゃないのよ。冒険者同士、付き合ったり結婚して成果を上げている人達もいるんだからね」
「それはご立派なことで」
「エフィと協力して双尾の侵緑主を追い詰めたんでしょ? それ相性ばっちりよ」
「やめてくれ、大声を出すぞ」
話を聞いているとこうムズムズする。
真面目一筋だと思っていたネリーシャが楽しそうにこんな話をするなんて。
ある意味、きっかけになったエフィはジャンボカオティックパフェを頬張っている。
こいつのメンタルが羨ましい。
「ルオン君には恥ずかしい話みたいだからこの辺にしておくわ。私だったらサクッと付き合っちゃうけどね(いい人いないのよねー。むっさいおじさんとか、軽薄な男ばっかりでねぇ)」
「だったらサーフでよかったじゃん」
「ルオン君、冗談でも時として命に関わることだってあるのよ?」
「人にはグイグイいくくせに酷いや」
人が嫌がることをするくせに、自分がやられるとちょっと殺気を出してくる。
こういう大人にはなりたくない。
オレの見解で言えば、サーフは悪くない気がするけどな。
確かに軽薄そうで薄っぺらそうだけど、やったことに対してきちんと反省できる。
風呂の中で粗相をして謝りもしない父親を持つ身としては、謝罪できるかどうかが人間としての分岐点だと思う。
気づかずに入っちまったのは未だに忘れてないからな。
「話は変わるけど、イエローファングはあまりいい評判を聞かなかったからね。スカッとしたわ」
「マジで変わりすぎだな」
「おかげであの人達も冒険者ギルドで噂になるはずよ。ああいうのってすぐ広まるからね」
「ついでに居合わせた耳兜のことは忘れてほしいな」
だとしたらオレの噂も加速する可能性があるか。
ただでさえトカゲ野郎討伐の件で広まりつつあるんだからな。
エルドア公爵、レイトルさん、ヒドラの面々。娼館通いの隊長とその部下達。
これだけ噂の発信源があれば十分だ。
まさかオレなんかの名が売れるとは思いたくないけどな。
地味に第一章が終わりです!
ここまで面白いと思っていただいた方、まだブクマ登録と応援ptを入れていない方は
ブックマーク登録と広告下にある☆☆☆☆☆による応援をお願いします!




