王都も油断できない
オレは王都の冒険者ギルドに来ていた。
まず思ったことはめっちゃ広い。受付がいくつもあるのが衝撃だ。
壁には賞金首や行方不明者の顔が描かれた張り紙が大量に張られている。
眺めてみると賞金額はピンからキリだ。
下は銅貨数百枚、上は金貨五枚と幅広い。
賞金首というとヒゲ面でいかにも人を五、六人は殺してそうな凶悪面を想像する。
だけど意外とそうでもないんだな。
この容姿なら劇団でも人気が出そうだし、色々な生き方があっただろうに。
などと会ったこともない賞金首の可能性を想像してしまう。
それだけこの冒険者ギルドには情報量が多い。
他にはアーティファクトの買い取りや働き手の募集なんかで壁一面が覆いつくされていた。
古い張り紙は色が変わっていて、寂しさを感じる。
「ルオン君。また飲食店でお仕事するの?」
「それも悪くないけど、せっかく鍛えたんだ。少しくらいは狩りや討伐の依頼をやってもいいかもな」
「じゃあ、この金貨五枚の災疫のディーザがいいよ!」
「名前からしてやばそうなので却下」
そういうのはヒドラに任せようね。
お前、オレがそれいいなとか言って討伐に乗り出したらついてくるのか?
怖い奴だな。
今のオレは金に困っていない。
だったら比較的、難易度が低そうなものを選んで場数を踏んだほうがいいだろう。
しばらく張り紙を眺めていると、後ろから冒険者達の会話が聞こえてくる。
「双尾の侵緑主を騎士団が討伐したってよ」
「オレの獲物だったのになぁ」
「バカ、お前じゃリザードマン数匹に囲まれて終わりだよ。だけどその中に冒険者がまじっていたらしいぜ」
「冒険者が? 騎士団に? そんな依頼なんてあったか?」
「さぁ、わからんが知り合いの騎士が教えてくれたんだ。なんでも珍妙な兜を被った冒険者らしいぞ」
栄えある王国騎士団にまじって珍妙な兜を被った冒険者が?
そんなふざけたことがあるんだな。
そいつが双尾の侵緑主を転ばせて止めを刺そうとしたけど失敗したなんてことはさすがにないでしょ。
「双尾の侵緑主討伐に一役買ったとかで、騎士団ではかなり評価されているらしい」
「へぇー、そいつは得したなぁ。それって騎士団入りあるのか?」
「騎士団どころか、お偉い貴族から声がかかりそうなものだけどな」
「噂では国の上層部がそいつのことを騎士団に聞いて回っているとかなんとか」
「マジかよ!?」
マジかよ。
珍妙な兜をかぶって戦ったばっかりに、気の毒に。
でも珍妙な兜の冒険者君、しょせん噂は噂だ。
普通に考えて、国の上層部の話がこんなところにまで出回っているわけない。
オレの村でも、そういう噂はあった。
ノビンさんの鼻食スキルの話が王様の耳に届いて、近いうちに国に招待されるとかざわついてたよ。
どう考えても一番気の毒なのはノビンさんだった。
しばらくソワソワしていたもんな。
噂の出所は酔っぱらった親父だとオレは思っている。
一度、しょっぴかれたほうがいい。
「おい、そこの少年」
「そこの少年?」
「君だよ、君」
「あぁ、たぶんオレ?」
肩に手を置かれたらしらばっくれるわけにはいかない。
そこにいたのは三人の冒険者だ。
三人とも剣士で、実力はそこそこって感じか。
前の町ならトップを独走するレベルの人達だ。
さすが王都、冒険者となればこの人達でさえ中堅なのがわかる。
だって他にも強いのがゴロゴロいるからな。
「君、冒険者か? よかったら俺達のパーティに入らないか?(ラッキーだぜ。ちょうど荷物持ちが欲しかったんだ)」
「オレが? なんでオレ?」
「見たところ、相当腕が立つだろ。その年齢で大したものだよ(テキトーだけどな。こんなガキどもが強いわけねぇわ)」
「こんなに多くの冒険者がいる中でオレ?」
うわぁ、なんかこういうの久しぶりだよ。
ていうか王都に来てまで必死すぎるだろ。
これだけの冒険者がいるのに、どれだけ勧誘できなかったんだ?
「見たところ、将来有望って感じだよ。あ、俺達はイエローファングって名前で活動してるんだ(そこそこ名が通っているからな。驚くかもな)」
「イエファン? 知らないなぁ」
「そうか、そうか。でも実力には自信があるぜ(いきなり略しやがったぞ、こいつ)」
「そうなんだ。でも荷物持ちなら、そっちのつるつる頭の人にやらせればいいんじゃない? 余分なものを持っているみたいだからさ」
イエファン達が凍り付いた。
オレに指されたつるつる頭が、なんのことだとばかりに口を開けている。
「に、荷物持ちだなんて人聞きが悪い。それにこのゲハンはうちの斬り込み役だからな(な、なんだよ、こいつ? いや、偶然だ。バレてない)」
「えぇ? でもお酒を隠し持ったまま斬り込めるのか? さっきからそいつの道具袋がタプタプいってるけど?」
「ほ、本当か?」
「確かめてみれば?」
リーダーの男がゲハンの道具袋を漁り始めた。
「ボ、ボグレー! やめろ! 何をする!(うわあぁぁ! やべぇ!)」
「ゲハン。お前、このヒョウタンはなんだ? 酒の匂いがするが?(こいつ……!)」
「そ、それは、狩りから帰ったら飲もうと思ってたんだよ(やばいやばい、うまい言い訳をしないと!)」
「この前もお前が酔っぱらったせいで狩りに失敗したよな? もう酒はやめるって約束したよな?(こいつ、ぶっ殺す)」
こんな内輪もめをしているものだから当然、目立つ。
すっかり見世物になっているな。
一体誰のせいでこうなったんだか。
それともう一つ、気になる音があるんだよな。
それはボグレーとかいうリーダーの道具袋だ。
硬貨とは別の音がする。
「そっちのボグレーさんだっけ? さっきから宝石っぽい音がなってるけど、意外と金持ちじゃん」
「え? は? は? な、何のことかな?(う、ウソだろ)」
その瞬間、ゲハンともう一人がボグレーの道具袋を剥ぎ取った。
そして取り出したのは見事な宝石だ。
あれほどの純度の宝石はなかなかないよ。知らんけど。
「ボグレー! このアレクシアの輝石は数日前に採ったやつじゃねえか! パーティ用の清算用とは別に隠し持ってやがったのか!(怪しいと思ってたんだよ!)」
「お、落ち着け! 後でサプライズする予定だったんだよ!(これでごまかすしかない!)」
「やたら娼館通いが多くなったから、おかしいと思ったんだよ! この前も宿を抜け出して行ったんだな!(オレだって我慢してるのによ!)」
「行ってない! 行ってない!(せっかくキャリーちゃんといい感じになったのに!)」
なんて脆い冒険者パーティなんだ。
こういうことがあるから、オレはあまり集団の中に入りたくない。
人間関係のストレスほど無駄なものはないからな。
親父が無駄に健康的なのも、ストレスを一切感じないからだ。
憎まれっ子世に憚るなんて言うけど、憎まれてる奴は他人に気を使う必要がないから長生きする。
オレも極力、ストレスのない人生を送りたいと思う。
だったらモンスター討伐なんかしないのが一番なんだけどさ。
「ボグレーさん。安心してよ。キャリーさんに会ったら、ボグレーさんは元気にしてるって伝えておくよ」
「なんで知ってんのぉーーーー!(こいつ何者だよ! 関わるんじゃなかった!)」
「ボグレー! ちょっと外で話そうや!(これ以上、見世物になるわけにはいかん!)」
イエファンの三人がギャーギャー言いながら、外へ出ていった。
こうしてオレの平穏は保たれたのでした。
まったく、王都だってのに油断ならないな。
いや、王都だからか。
きっとああいうのは氷山の一角なんだろうな。
オレみたいなのをカモにしようとする連中もいるってことか。
「クスクス……。相変わらずね」
「ネリーシャ、いたんだ」
一部始終を見ていたのか、ネリーシャが楽しそうに笑っていた。
楽しんでもらえたなら、金を払ってもいいぞ。
もうすぐ第一章が終わります(ボソッ
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