旅立って最初に会った人間がこれってさぁ
長年、お世話になった村ということでオレは一日かけて挨拶回りをした。
ラークとの戦いでオレに悪印象を持った人には無視されたけど、概ね気持ちよく送り出してくれたと思う。
意外にもラークの両親はオレに謝ってくれた。
ラークが昔からオレに突っかかっているのを知っていて気にしていたみたいだ。
かといって仕返しにやったと思われるのは不本意だから、きちんと説明しておいたけど。
餞別ということでいくらか持たせてくれたし、サナの両親もなんだか申し訳なさそうだった。
オレがサナのことが好きだったと思っているのかな?
それなのにラークと一緒に王都へ行ってしまったから、何かしらの負い目があったのかもしれない。
村長はお前ならどこへ行ってもやっていけるだろうなんて背中を押してくれた。
というわけでラークとサナの時より少ない人達に見送られて、オレは無事に旅立ったのだった。
旅とはいっても、特に目的があるわけじゃない。
これはオレが生きるための知恵や力を身に着けるための旅だ。
だから今は色々とやってみたい。
オレみたいなのは冒険者に収まるのが無難なのかな?
一応、それも視野に入れている。
だけど冒険者だけで生計を立てるのは危ない。
もし冒険者の仕事がなくなったら、当たり前だけど冒険者なんて成り立たない。
そうなった時に一つの仕事に依存しているのは危険だ。
だからオレは冒険者だけじゃなく、いざとなったら森の中で一人で生きられるような知恵や技術も必要だと思っている。
「ん? あれは?」
旅立ってから三日ほど経った頃、オレは初めて同じ旅人らしき人を見た。
近づくにつれて、その服装や荷物からして行商人だとわかる。
道端に座り込んで、なんだかしょんぼりしているみたいだ。
経験は大切だと思っているけど面倒ごとは避けることにしている。
オレは行商人の前を何食わぬ顔で通り過ぎた。
「あの、そこの君……(やっと来たとおもったらガキかよ……)」
「はい?」
普通に声をかけられてしまった。
しかもなんだこれ。何を待っていたんだ。
無視すればよかったけど、思わず返事をしてしまった。
「私は商人をやっているムスーヌという者だ。王都からこの辺りのカムリア地方を巡っているんだがね。すまないが君、地図を見せてくれないか?(しょうがない、まずは信用させよう)」
「地図、ですか?」
「あぁ、恥ずかしい話なんだが地図をどこかで失くしてしまってね。うっかり落としたのかもしれない……。気づいた時にはもうこんなところまできてしまった(よしよし、我ながら完璧だ)」
「それは大変ですね。それでオレはどうすれば?」
ムスーヌと名乗った男はわざとらしく額に手を当てて困った振りをしている。
旅に出て初めて出会った人間がこれとか夢も希望もないな。
親父に言わせれば人生、良い事も悪い事もあるってことなんだろうけどさ。
「大変申し訳ないんだが、君についていってもいいかな? とりあえず次の町で新しい地図を買いたいんだ(さぁ、ここからが正念場だ)」
「どこの町に行こうとしていたんですか?」
「あぁ、君が行く町でいいよ。さすがに私の目的地につれていけとは言わないさ(ん? ガキのくせにちょっとは疑ってやがるのか?)」
「いや、そうじゃなくて。あなたが目指していた町ですよ。どこですか? オレ、大体の場所はわかるんで方角とか目印だけでも教えますよ」
「こ、こう見えてもおじさんは極度の方向音痴なんだ。だから地図や案内がないと、きっと迷ってしまう(おいおい、めんどくせぇな)」
方向音痴は行商人なんかやっちゃダメだと思うんだけど。
こうなった時の設定くらい考えておけよと思う。
きっとどうあってもこいつはオレについてくる気だ。
どうしようか考えたけど、こんな小悪党に情けなんか必要ない。
どう見てもガキのオレからも何か盗もうとしているくらいだからな。
背に腹は代えられないって感じかな。
「そうですか。それじゃ案内しますよ」
「本当か! いやぁ! 助かるよ!(よし! しょせんはガキだな!)」
「旅は道連れ世は情けって偉い人が言ってましたからね」
「うんうん! あ! もちろん町に着いたら報酬を払うよ!(払うか、バーカ。その前に身ぐるみはいで川にでも捨ててやるよ)」
こうして小悪党とオレは一緒に歩くことにした。
わかっていても、ちょっとハラハラする。
とりあえず絶対に背中を見せないようにすればいいか。
それに長々とこいつと旅をする気はない。
オレを安心させるためか、小悪党はやたらとどうでもいい話をしてくる。
右から左に聞き流しつつ、オレはある場所に目をつけた。
「それでね、ソアリス教の聖女ってのは一説によれば拳で魔物を倒していたそうなんだ(クソでたらめな話だけどな)」
「あ、あそこだ」
「へ?(なんだ?)」
「あの森に続く小道を見てください。実はあそこからキンダケが採れる場所に続いているんですよ」
「キンダケだって!?(マジか!)」
さすがにキンダケは知っていたか。
相場がとんでもないことになっている高級キノコ、キンダケ。
親父に連れ出されてよく探したけど結局、見つけられなかった。
それほど希少なキノコなんだけど、こいつがバカなら食いついてくれる。
「はい。あまり知られてないんですけどね。村でよく採って食べてました」
「む、村で……。それは売ったりしないのかい?(ウソだろ?)」
「誰もこないような辺鄙な村ですからね。ついでだから採っていきましょうか」
「あ、あぁ!(信じられんがもし本当なら、とんでもないことだぞ)」
こんな森の小道なんてオレも知らない。
だけど森を歩くのは慣れている。
この小悪党からしたら、慣れた足取りに見えるはずだ。
適当な場所を選んで、オレは茂みを指した。
「そこの茂みの中にありますね」
「あるのか! どこだ!(マジなのか!?)」
「よく見てください。草をかきわければ、見えます」
「よし! 探してみるよ!(キンダケキンダケキンダケェ~!)」
すっかりオレに背を向けたな。
オレは剣の腹を思いっきり男の後頭部に打ちつけた。
「がはっ……!」
「バーカ」
男はマヌケにも気絶して倒れた。
オレがガキだからって油断したのもあるだろうけど、こんな子ども騙しに引っかかるとはね。
仮に騙されなくても、それなら普通に実力行使に出るだけだ。
だけどそれじゃこの手のアホは懲りない。
だから、こうする。
「衣服を全部脱がして、荷物も集めて……。ん? この音は……」
ヘッドホンから川のせせらぎが聞こえた。
ちょうどいい。どこかに適当に穴でも掘って埋めようと思ったけど、川に流してこよう。
音がする方向に進むと程なくして川を発見した。
「元気でなー」
小悪党の衣服や荷物をすべて川に流してやった。
これであいつは素っ裸でこの森をさ迷うことになる。
下手したら死ぬかもしれないけど、誰も困らない。
何せこっちは身ぐるみを剥がされそうになったんだからさ。
男が目を覚ます前にオレは森を出て、再び旅を続けることにした。
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