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オレの重さを知る

「遅くなってすまなかった。どうしても席を外せなくてね」


 リザードマン討伐から帰ってきたオレ達は、屋敷の応接室でエルドア公爵を待っていた。

 約束の時間より三十分ほど遅れてきたエルドア公爵はきちんと頭を下げる。

 忙しい身だろうし、平民のオレがそれを責められるわけがない。


 今日はちょうど依頼の期日だ。

 半年間、オレはずいぶん鍛えられた。

 初めて屋敷の門をくぐる前とでは体の重さが違う。


 それはきっと自分なりの最小の動きを見つけたからだ。

 ヒドラでは終始、誰それの技を伝授してもらうということはなかった。

 ひたすら基礎の積み上げと自分の戦い方の模索、これが強くなるための近道だ。


 ドドネアさんに教えてもらった魔法の基礎、レイトルさんから教えてもらった戦いの基礎。

 基礎といってもオレは国内でもトップクラスの人間から教わっている。

 それは決して派手な技ではないけど、自信をもって技と言えるはずだ。


 今だからこそわかる。

 エルドア公爵がいかに普段から無駄のない動きをしているか。

 今、暗殺者が現れてこの人を攻撃しても間違いなく返り討ちにあう。


 食事中だろうが入浴中だろうが、リラックスした状況でも動けるような動きをしているからだ。

 咄嗟のことに対応できる動きがあるから、あんなに余裕がある。

 改めて思うけど、この人はどこでその技を身につけたんだろうな?

 

「私が気になるかね?(だいぶ成長したようだね)」

「え? まぁ、そうですね。やっぱり気取られちゃいましたか」

「気にする必要はないよ。私なら相手がレイトルでも、先手で動ける(たぶんね)」

「上には上がいるってレベルじゃないですね」


 あらゆる手段を用いたとしても、この国でこの人を殺せる人間がいるのか?

 オレがこの人より強くなる必要はないけど、敵に回さないようにする必要はある。

 出されたティーカップに口をつけると、すでに飲みきった後だった。

 オレ、緊張してるな?


「先日のリザードマン討伐、感謝する。実を言うと少し早いかなと思ったのだがね。話を聞いてみたら予想以上の立ち回りで驚いたよ」

「結局、オレ達だけじゃどうしようもありませんでしたけどね」

「あれはしょうがない。レイトルは『ドドネアの魔法ならもっと早く終わっていた』と言うが、奴の狡猾さを思い知っただろう?」

「はい。わざわざレイトルさんが出ていったところを狙ってきましたね」

「相手がドドネアなら、もっと狡猾に立ち回っていただろう」


 そういうことか。

 単純に誰が有利とか、強いみたいな結論だけで決まる世界じゃない。

 ドドネアさんがいたら、あのトカゲ野郎はもっと時間をかけて狙ってきた。


 そうこうしているうちにこちらの食料や体力が尽きる。

 あいつもバカじゃないから、誰がどれだけやばいのかを見極めていた。

 つまりオレ達は舐められていたってわけだ。

 

 言ってしまえば、あのトカゲ野郎が油断してくれたおかげで助かったようなものだった。


「君達がいなければ逃がしていたかもしれないとレイトルは言っていたよ(あれもずいぶんとルオン君を気に入ったものだ)」

「レイトルさんに向かってくれて助かりましたね」

「格下の君に手傷を負わされて、頭に血がのぼっていたのだろう。だから双尾の侵緑主を討伐できたのは、君のおかげといっていい」

「ありがたく喜びます」


 ここまで公爵様に褒めてもらったら、オレだって嬉しい。

 確かにレイトルさんはあの後、オレに何度も謝ってきた。

 自分の判断ミスだと、キャラに似合わず自分を責めていたな。


 どちらかというとオレ達に指示を出していたのはマークマンさんだった気がするけど。


「まずはリザードマン討伐の報酬だな(本当はもっとあげたいのだけど、予算がね……)」

「……この重みがすごい」

「それと半年間、ご苦労だった。銀貨五十枚を受けとってくれたまえ(あわよくば、味を占めてヒドラに来てもらえないだろうか)」

「ありがとうございます。大切にします」


 じゃらっと音がした銀貨の重みがオレの成果か。

 自分にそこまでの価値はないと思っている。

 だけどエルドア公爵はエフィにも同じ金額を支払っていた。


 エルドア公爵が人を正しく評価できるんだとしたら、オレ自身にこの重みがあるということ。

 ダメだ。やっぱり実感がわかない。

 オレはこれからもやりたいように生きるし、そんなオレが誰かのためになるとは思えない。


 オレを見て刺激を受ける奴なんてこの世にいるのか?

 だけどこの重みは覚えておこう。

 つまり自分を安く売らない。これができる。


 ネリーシャやエルドア公爵のおかげで、自分への客観的評価の基準がわかった。

 ありがたいことだよ。


「さて、これからの予定だがまず君には」

「おっと、その手には乗りませんよ」

「冗談だよ。君は自由だ(惜しかった)」


 冗談に聞こえなかったが。

 あわよくばの精神がすごかったが。


「それでこれからどうするつもりかね?」

「冒険者ギルドに行ってみます。この王都には色々な仕事があるみたいですからね」

「それはいい。君という存在をこの王都に知らしめるには絶好の場所だ(実に都合がいい)」

「そんな存在感は自覚してませんけど、勉強になることがあればいいなと思ってます」


 それか、まったりと王都観光をしてみるのもいいかもしれない。

 あくせくと働くのもいいけど、休息も必要だ。

 ずっとヒドラの猛者達の中で揉まれ続けるのは精神衛生上、あまりよくない。


「ルオン君、ドドネアさんから教えてもらったんだけどね。王都においしいスイーツの店があるの」

「すいーつ? あぁ、甘いアレか」

「そーそー! 食べにいこ?」

「悪くないな」


 スイーツ、村ではあまり縁がない食べ物だ。

 これも味わっておくのも悪く――


 いや、待て。

 エフィ、こいつまさかオレについてくる気か?

 なんでしれっと誘ってきてるんだ?

 さすがに途中で別れるよな。

 オレについてくるメリットなんてないんだからな。

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[一言] ルオン君、エフィを使いこなすのです…。
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