これがオレの戦い方だよ
翌日、オレ達は指定された場所に赴いた。
オレ達が任された場所はサルクト大森林の中でも比較的、木々が少ないところだ。
確かにここならリザードマンから地の利を活かした奇襲を受けにくい。
倒木がやや目立つけど視界は良好、それに音も拾いやすい。
騎士団のおかげでリザードマンは着実に数を減らしているけど依然、400匹以上いる。
こいつらは頭がよくて狡猾だから、ひとたび人里に出れば町ごと乗っ取られる可能性があった。
持っている武器も人間から奪ったものだ。
それを悠々と使いこなしている時点で、戦闘の適性は人間様より高い。
少なくともオレより素質あるよ。
だってあいつら、生まれた瞬間から誰から教わらずとも戦えるんだからね。
そう考えるとモンスターってやばい。マジでやばい。
「シカ、調子はどうだ?」
「……あんなことをしておいて、よく話しかけられるな(頭がおかしいのか?)」
「誤解を生みそうな発言はやめてくれ。で、調子はどうだ?」
「自分の心配をしろ」
答えてくれてもいいのに。
でも前だったら、もっと辛辣に言い返されてた気がする。
オレも仲良しごっこをしたいわけじゃないから、どうしても無理なら話さなくてもいい。
せめて今回の討伐戦に支障をきたさないでくれたらね。
「ねーねー! ルオン君とシカって仲直りしたんだね!」
「元々ケンカはしてないぞ」
「そっか。シカちゃんが一方的にムキになってるだけだもんね」
「お前、よくそれ言えるな」
ほら、じっとりと睨まれた。
オレも大概、他人のことは言えないけどさ。
でも今は殺意のようなものはこもってない。たぶん。
「下らん話ばかりしていないで、少しは警戒しろ」
「ごもっとも。そろそろ来るな」
複数の独特の音が近づいてくる。
人間の歩幅よりも遥かに広く、爪が地面や木に食い込む音。
数は七匹。いや、多すぎ。
オレが一匹で、エフィが二匹。シカが四匹ってところか。
何の問題もないな。
「フンッ! トカゲが!」
シカが走り出した。
身軽な動きで倒木を踏んでから跳んで、木の枝に飛び移る。
そしてちょうどシカに足場を奪われたリザードマンが短刀によって首元を斬られた。
一瞬の早業だ。
着地と同時に的確に急所を斬っている。
「二匹いったぞ!」
シカがわざわざ教えてくれた。
向かってきたリザードマンはそれぞれ剣と槍を持っている。
その動きは当然、速い。
ブラストベアーみたいな粗暴さもなく無駄もない。
刃速の巨王蛇みたいな不規則な動きでもない。
ただ純粋に目標に向かって刺しにくる。
モンスター版ソルジャーって感じだ。
ちなみに強さでいうと、前に戦った風穴の虎の三人より余裕で強い。
「コールドアローーーーーッ!」
エフィが氷の矢を撃ち出した。
真正面からそれを受けたリザードマンが全身を撃たれて仰向けに倒れる。
氷の矢が刺さり、ピクピクと痙攣して起き上がらない。
魔法とはいえ、刺さった箇所も急所ではない気がするけど。
あぁそうか。いわゆる弱点ってやつか。
モンスターの中にはそういう苦手なものを持つ種族も多い。
だから魔法は強い。
「二人とも、やるなぁ。で、オレはどうするかというと……」
ふぅ、と息を吐いた。
どうもこうも、こうするだけだ。
「ストーン」
「ギギャッ!?」
リザードマンの足元にオレは魔法で石を生成した。
突然の石の出現に対応できず、リザードマンは躓いて転ぶ。
そこへオレが蛇腹剣で首を狙って切断。
ドドネアさんのところでの修行の成果だ。
大した魔力がなくても、できることはある。
エフィみたいに氷の矢を生成できなくても、ほんの少しの質量さえあればいい。
後はどう使うかだ。
「……モンスターに同情するな(呆れてものも言えん)」
「ストレートに褒めてくれ、シカ」
スマートじゃなかろうが、オレにとっては結果がすべてだ。
かっこ悪かろうが、モンスターを討伐できたんだからそれでいい。
今のオレにはリザードマンの動きが手に取るようにわかる。
レイトルさんとの訓練で動きの無駄が減ったおかげで、相手の動きを見たり聞いたりする余裕が生まれた。
つまりヘッドホンで、より深く音を聴きとれている。
続けざまに向かってくるリザードマンがやや遅く見えた。
こいつにはこうだ。
「アイス」
「ギゥッ!?」
リザードマンの首筋に氷の粒を落としてやった。
リザードマンは気温が低い場所で生息できない。
つまり寒さや冷たさには敏感だ。
体をのけ反らせるほど、氷の冷たさに驚いたリザードマン。
そんな隙を見逃すわけない。
「冷たかっただろ、ごめんな?」
蛇腹剣を水平に振って、リザードマンの目を切り裂く。
ヘッドホンが伝えてくれた音でオレは今、こいつらのどこを切れば止めになるかわかった。
蛇腹剣をくいっと動かすと、リザードマンの胴体が切断された。
相手の重心や力の入れ方によって筋肉の繊維が集まる箇所やそうでない箇所がわかる。
脆くなっている部分に刃を入れてやれば、切断するのは簡単だった。
「ふぅ……まさか二匹同時に相手にできるとはなぁ」
「ルオン君、すっごい!」
「オレだってやる時はやるんだよ。さて、シカは?」
シカは残りのリザードマンを相手取っていた。
突如、リザードマンの背後に黒い人影が立つ。
それはシカのシルエットに似ていて、リザードマンの背後から切り裂いた。
なんだ、あれ?
シカは縦横無尽に動くけど、黒いシカは一定の場所から動かない。
よく見ると、黒いシカはリザードマンの影から出てきていた。
「あれってスキルか?」
「スキル【影操】だってー。自分の影を操ることができるけど、影がないと使えないんだって」
「それはシカが言っていたのか?」
「うん」
「いつの間にか、そういうことを話す仲になっていたのか」
エフィにはそういうこと話すんだな。
というかこういうスキルって軽々しく話していいものか?
ましてやエフィだぞ?
オレにすらベラベラと喋ったぞ?
「意外だな。あいつの性格を考えれば、スキル詳細を隠しそうなものだけど……」
「すでに周知だ」
「わお、ビックリした。もう終わったのか」
「貴様のように回りくどい戦いをする必要などないからな(これで少しは実力差を思い知っただろう)」
思い知ったも何も、最初からシカのほうが強いと認めているんだが。
影操は名前の通り、影を操るのか。
うん。どこに追放される要素がある?
全方位から見てもクソ強いじゃねえか。
いや、スキルを活かすために訓練したんだろう。
きっと最初は影をほんのちょっと動かす程度だったに違いない。
だってオレの村に来た神官が言っていた。
サナの回復スキルは成長すれば踊っただけで周囲を癒せるようになる、と。
そう、スキルは本人の努力次第で成長する。
シカの影操も成長したんだろう。
そう思うと褒めてやりたくなった。
「シカ、がんばったんだな」
「なんだ、貴様。今更、ご機嫌取りか?(昨日はしてやられたが、今日はそうもいかん)」
「そうカリカリするなって。お前のほうが努力してるし強いってわかってるんだよ。これでも尊敬してるんだぞ?」
「そ、そんけーだと!?」
いや、なんで急に武器を構え始めるんだよ。
何か裏があるとでも思ったのか?
「シカちゃん。ルオン君はちょっとおかしいけど、ウソは言ってないと思うよ」
「ちょっと? 極限までいかれているだろう」
なかなか信用されないものだな。
だけど最初の時よりは少しだけまともに会話をしてくれるようになったと思う。
仲良しごっこをしたいわけじゃないけど、誤解は解いておかないとな。
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