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ラークの友人

「ラーク! 立てぇ!」


 王国騎士団第三部隊に配属されてからのオレは、ほとんど気が休まらない。

 早朝からオレは部隊長のビルクさんのしごきを受けて、立ち上がることすら困難になっている。

 

 足腰に力を入れて立て、ラーク。

 そうしないと、またぶん殴られるぞ。


「くっ……! も、もう一回、お、お願いします!」

「よし! では行くぞ!」


 部隊長のビルクさんはめちゃくちゃ厳しい人だ。

 俺達、騎士は善良な王国の民を守るために訓練を欠かさず行っている。

 俺達は王国の盾であり、顔だ。

 他国の重鎮が真っ先に目をつけるのが騎士達だとも言われた。

 騎士の素行一つでその国の品位がわかるというんだ。

 そういった精神を日頃から叩き込まれている。


 一日の始まりはこうだ。

 日が昇る前、早朝の鐘が鳴ったと同時に起床。

 布団を手早く畳んで正座、そのまま小隊長が点呼を取る。


 朝食を三十分で食べ終えて、早朝の訓練が開始。

 柔軟運動の後、走り込みと素振り五百回。


 あらゆる筋力トレーニングを終えた後は模擬戦だ。

 ランダムで互いに模擬戦を行って、勝ったほうも負けたほうも反省会をさせられる。


 皆の場で発表をした後、ビルク隊長がダメ出しをするんだ。

 その中で特によくなかった人間はビルク隊長自らがこうやって相手をしてくれる。


「貴様、毎度のことながら軸足がぶれている! 力任せに動くなと何度言えばわかるッ!」

「すみませんッ!」

「貴様が後れを取るたびに民が一人死ぬと思え! 貴様は今、一人殺したのだ!」

「はいッ! 肝に銘じます!」


 そう大声を出しつつ、オレがふらついたのをビルクさんは見逃さなかった。

 ギロリと睨まれた時にはもう遅い。


「この程度で立っていることすらできんのかッ!」

「す、すみませんッ!」

「貴様の今の油断で民が一人死んだ! 何人、死なせれば気が済むッ!」

「すみませんッ!」


 こんなに罵声を浴びせられている俺を同僚達は黙って見ている。


 なんて不甲斐無い奴だと思っているんだろうな。

 全員、俺より年上で実力もある。

 だからどんな風に思われても構わない。


 だけど最近は――ちょっときついかな。


「いいか! 貴様のエクスカリバーなど添え物だ! 私もスキルに頼り切った戦いはあまりしない! 最後にものを言うのは己の精神と体力だ!」

「はいッ!」


 こうして訓練日は朝から日が落ちるまで、ずっと怒鳴られてヘトヘトだ。

 騎士団の宿舎にある自室のベッドに倒れ込んだ俺はしばしば自分の人生について考え直す。

 

 俺は今、何をしているんだ?

 エクスカリバーを授かって出世するんじゃなかったのか?

 村を出る前の俺なら今頃、とっくに騎士団内で確固たる地位を築いていたはずだ。

 ふらふらと立ち上がって俺は鏡を見た。


 ひどい顔をしてやがる。

 こいつ、確かルオンになんて言ってたっけ?

 お前は一生を村で終えるとかなんとか言ってたよな。

 

 果たして俺は出世なんて出来るのか?

 これなら村でバンさんに褒められながら、剣を振っていたほうがよかったんじゃないか?


「クソッ……!」


 あのルオンの野郎が鏡の向こうで笑った気がした。

 今の俺を見て、あいつはなんて言うかな。


 そもそも俺はあいつに負けたんだ。

 あの戦いこそがあいつそのものなんだろうな。

 目標のためには手段を選ばない。


 プライドもクソもない。

 周囲にどう思われようが気にしない。


 それこそがルオンの強さだ。

 俺はそんなルオンの実力に薄々気づいていた。

 だから悔しかったんだ。


 あいつならその気になれば、出世でも何でもする。

 それでいてあいつに大した欲はない。


 剣の腕じゃ確かに俺のほうが上だった。

 言ってしまえばそれだけだ。

 だから俺は負けた。


 じゃあ俺もあいつみたいにえげつない手を使うか?


「へっ、冗談だろ」


 あんなのは剣で勝負できない負け犬がやることだ。

 俺はあんな奴とは違う。

 ああいう手を使ってくる奴も圧倒してやる。

 俺はそう思い直した。

 

「ラーク、ちょっといいかい?」

「アストンか。どうした? 入っていいぞ」


 俺の部屋を訪ねてきたアストンは二つ上の先輩だ。

 二年前に騎士団の入団試験に合格して俺と同じようにしごかれている。

 そこそこの家柄みたいで、村出身の俺にはない品格がある気がした。

 村の田舎者とはいえ、ルオンと一緒に村長に礼儀を叩き込まれている。

 最初は敬語で話したものの、歳は大して変わらないから普通に話していいと言われて以来の仲だ。


「体は大丈夫かい?」

「なんとかな。お前こそ、今日の模擬戦の相手はニケルさんだっただろ? あの人も容赦ないだろ」

「ビルク隊長よりはマシだよ。それに昨日は深酒をしたみたいで、ちょっと調子がよくなかったみたい」

「それビルク隊長にチクったらとんでもないことにならないか?」


 俺とアストンはニヤリと笑う。

 俺を心配して、時々アストンが来てくれていた。

 いいところのお坊ちゃんだから嫌な奴かと思ったけど、ルオンとは違って不思議と対抗意識が湧かない。

 貴族なのに何かと世話を焼いてくれる奴だ。


「ビルク隊長はたまにやりすぎるからね。奥さんの尻にしかれていて、その鬱憤もあるんだろう」

「奥さんが後方支援部隊の衛生班だろ?」

「知ってたんだね。悪鬼みたいな人だって有名だよ」

「そりゃ後方支援部隊も穏やかじゃねーな。前衛の悪魔、後衛の悪鬼で俺達の逃げ場ないじゃん」

「アハハハッ!」


 アストンは入隊した頃、誰とも話せる奴がいなかったそうだ。

 その心細さを知っているから、俺に接してくれる。


 こいつがいなかったら俺はどうにかなっていたかもしれない。

 俺が踏ん張れているのは結局、他人のおかげなんだな。


 エクスカリバーだの、神器一つで人生が決まるほど甘くない。

 こうしている時間が唯一の癒しだった。


 だからこそ、サナの奴にこいつだけは絶対に紹介しない。

 いいところのお坊ちゃんなんて聞いて、あいつが何もしないわけがないからな。


「ラークはさ。もっと俺以外の人と話したほうがいいよ。俺も入隊した頃は怖そうな人達ばかりだと思ってたけどさ。意外とそうでもないんだ」

「そうかぁ? いっつもうんこ踏ん張ってそうな顔してるようなのしかいないじゃんか」

「皆、ああ見えて心配してるよ。ビルク隊長だって不器用だけど、ラークに期待しているんだよ」

「ウッソだろ?」

「中隊長のグレイさんと小隊長のディッシュさんも昔はあの人にしつこく模擬戦をさせられたらしいよ。何度も泣かされたってさ」


 ここに来てから、俺はプライドなんてバッキバキにへし折られた。

 今更、見込みがあるなんて言われても実感が湧かない。

 だけどアストンにそう言われると少しは気が楽になる。

 

「そうだ。今度、ビルク隊長に頼んで飲み会をしよう」

「はぁ!? 冗談だろ!」

「大丈夫だって。ビルク隊長だって普段は意外とひょうきんなおじさんだからね。だけどあの人は仕事に徹するあまり、そういう新人のケアみたいなのが苦手なんだよ」


 俺は少しの間、考えた。

 こいつがそういうなら、と思えてくる。

 そして何より俺が驚いたのはこいつだ。


「お前さ、おっさんみたいに大人びたものの見方してるよな」

「家を出る前は両親や親戚達のつまらない酒の席に座らされていたからね。あれのせいで二十歳くらい老けたんじゃないかな?」


 さすが家柄が違えば考え方も違う。

 貴族ってやつはこういうところも平民と違うのかと勉強になった。

 おかげで元気をもらってるけどな。

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― 新着の感想 ―
[一言] 最近の1番のお気に入りです! 更新も早く、読みやすいのでとても良いです! ただシカに主人公が言われっぱなしなので見ていてモヤモヤします… もっとガツンと言ってやればいいのに( ´Д`)
[良い点] ラークが成長してるところ この手の踏み台キャラって 「俺のエクスカリバーは最強なのにぃ!」 「確かにお前のエクスカリバーは最強かもしれないがお前は別に最強でもなんでもないだろ?」 っ…
[一言] >あんなのは剣で勝負できない負け犬がやることだ。 >俺はあんな奴とは違う。 >ああいう手を使ってくる奴も圧倒してやる。 その手の人種にとって、そういう考えのやつほどカモだったりする
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