人間性と人気は別物ってやつ
サルクト森林。
王都より南西に位置する熱帯林で、劣悪な環境もあって全体の半分以上が未踏破地帯になっている。
魔物が繁殖しやすい場所でもあり、特に寒冷地では生きられないリザードマンにとっては快適な場所みたいだ。
刃速の巨王蛇がいた森とは比較にならない規模で、ここに討伐隊として派遣されるのを嫌がる騎士が多い。
と、たっぷりと怖いことを聞かせてくれたエルドア公爵には頭が上がらなかった。
帰ろうかな。
ようやく森林の中にある野営地に到着した時点で、汗がダラダラだ。
一方、レイトルさんとシカは涼しい顔をして歩いている。
本当に同じ人間か?
レイトルさんが野営地に入ると騎士達が気づいて一斉にやってきた。
「まさかレイトルさんか!(勝った!)」
「やったぁーーー!(出たな! 女ったらし!)」
「誰が来るのか心配だったけど、レイトルさんでよかったよ!(媚び売って女を紹介してもらおう)」
「レイトルさん! 今度、手合わせお願いしますッ!(素行は悪いけど実力はヒドラ一だと思ってる!)」
レイトルさん、人気なんだな。
過酷な状況下にいる厳格な騎士達が揃って群がっている。
ちょっと雑音もあるけど、大半はちゃんと慕っているみたいだ。
男の嫉妬は怖いね。
「どぅどぅ、オレが大好きすぎるのはわかるが気を抜くなよ。リザードマンは俺でも油断できない相手だからな(ちょっと盛って脅そう)」
「は、はいっ!」
「ところでマークマン隊長は奥のテントか?(最後に会ったのはいつだったか)」
「はい! 奥へ案内します! ところでシカちゃんはわかりますが、その二人は……?(シカちゃんかぁ。女の子でも子どもはちょっと……ドドネアさんがよかったな)」
「後で紹介する(ここで説明しても面倒なだけだからな)」
おい。この部隊、大丈夫か?
厳格な騎士とあろうものが、戦力よりも女の好みを優先するのか?
いや、ドドネアさんのほうが強いのかもしれないけどさ。
一応、聞かなかったことにしておこう。
ここにいるのは王国の精鋭部隊だからね。
奥のテントに案内されると、中年の隊長らしき人が地図を片手に考え事をしていた。
レイトルさんに気づくと、表情が明るくなる。
「マークマン隊長、久しぶりだな(老けたなぁ。確かバツイチだったか?)」
「おぉ! レイトルか! 君が来てくれたのか!(彼の槍さばきがまた見られるとは!)」
「オレの他にはシカがいる。それとこっちはルオンとエフィ、冒険者にも来てもらった。まだ若いけど実力はオレが保証する(確か子どもの親権は奥さんに取られたんだよな)」
「冒険者? まぁ、き、君が言うなら……(いやいや、レイトルとシカだけでいいのだが……)」
心の声で個人情報がだだ漏れです。
そんなレイトルさんに、マークマンという中年隊長がペコペコしている。
結構な年齢差なのにフレンドリーで尚且つ敬意を表しているように見えた。
騎士達からも歓迎されていたし、ヒドラのメンバーが来るだけで息を吹き返したみたいだ。
まるで英雄を迎え入れたかのような賑わいだよ。
「それでマークマン隊長、挨拶は程々にして状況はどうだ?」
「今のところ膠着状態です。こちらは負傷者64人、幸い死者はまだ出ておりません。残存戦力は232人。対してリザードマンの数は双尾の侵緑主を含めておおよそ400匹以上かと……」
「おおよそ二倍近くの戦力差か。よく戦っているよ」
「リザードマンの中には保護色で潜む個体もいて、今この瞬間すら油断できません……」
マークマン隊長がリザードマンの特徴について話してくれた。
あいつらはオレ達、人間と違って森の中を高い木の上だろうが、自由自在に移動できる。
厄介なのが保護色で、木の上に潜まれたまま矢で攻撃されることだ。
まとまって行動していたら矢の嵐に見舞われて小隊が壊滅したこともあったらしい。
負傷者の中には戦線復帰が難しい人もいて、ジリ貧の戦いを強いられている。
それからマークマン隊長はオレ達を部下の騎士達に紹介した。
案の定、なんだこいつら的な雰囲気がオレ達を襲う。
そりゃそうだ。ヒドラに救援を頼んだと思ったら、変な小僧と小娘がついてきたんだからな。
同じ小娘のシカが歓迎されているんだから、大したものだよ。
(なんだ、あの軽そうな兜は……)
(あれでは耳兜ではないか)
(レイトルさんが連れてきたんだから信じたいがな)
ここでも耳兜で定着したみたいだ。
ていうか大半の感想がオレに集中してるんだけど、なんでエフィはスルーしてるんだ?
他人にどう思われようと気にしないけど、エフィだってでかい本を持った変な女の子だろう。
「うるふっ!」
「いや、呼び出さなくていい」
子犬みたいなのが野営地に現れたんだから、厳格な騎士達はさぞかし怒るだろう。
なんだそのふざけたものは、なんて怒り出す人が出てきてもおかしくない。
知らないぞ。
「きゃんきゃんっ!」
「か、くぁわいい!」
「わぁんっ!」
「なぁにわんちゃん、かわいいでちゅねぇ~!」
「わんっ!」
「もふっとしまちょうね~」
いい歳したおっさん達が子犬みたいなのに群がって、でちゅねとか言い出してる。
そう、この世において重要なのは見た目だよ。
かわいければ、ただそこに存在してるだけで人間が勝手に世話をしてくれる。
これに比べたらオレが求めた一人で生きる力なんて微々たるものだ。
あと前から思ってたけど、あれウルフじゃなくて犬だろ。
なんでしれっとウルフ呼ばわりしてるんだ。
「すっかり蚊帳の外だな、ルオン。いい気味だ(思い知っただろう?)」
「シカ。オレはお前がそういうことを言う奴だとは思わなかったぞ」
「悔しいか? 貴様の存在など、屋敷を出ればただの耳兜でしかない(しょせんはただの見世物、実力もない腐れ三流のド素人め)」
「お前の中でも耳兜で定着してくれたか。嬉しいよ」
心の中でひどい言われようだ。
今は日が傾きかけているし、本格的な決戦は明日になると言っていたな。
いい機会だから今夜あたり、シカに思い知らせよう。
オレが言われっぱなしの腐れ三流のド素人じゃないってことをね。
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