オレでもやればできるんだ
ドドネアさんから魔法を教わることになってから数日が経った。
どうも魔法というのはオレがイメージしていたものと大きくかけ離れている。
なんか念じてイメージを具現化する、みたいなものを想像していただけに苦戦中だ。
まずは魔力の意識、魔力の理解、魔力の操作。
これらを順にマスターしてようやく次は基礎魔法の構築だ。
人には魔力が宿っていて、常に体を巡っている。
体調不良の時には流れが弱くなることもあって、生命活動と密接な関係があるとのこと。
高位の魔道士となれば、遠くから魔力の動きを感知するというのだから果てがない。
「ルオン君、できたー?」
「むずい」
「ルオン君の魔力はなんかふわっとしていて、うねってしてるね」
「捻くれてそうだな」
エフィに助言をもらっているんだが、高度すぎて活かせないのが現状だ。
人によって魔力の流れや質が違うから、自分の魔力の特徴を捉えないといけない。
まずはひたすら目を閉じて瞑想、これをやることによってそのうち魔力に対する気づきがあるらしい。
オレは言われた通りにやっているんだが、依然としてふわっとしてうねっとしたものを感じられない。
「少年、捗っているか?(捗っていないな?)」
「思った以上に厳しいですね」
「それはそうだ。少年に魔法の才能などないからな(その魔力では身体強化すらままならんだろう)」
「でしょうね」
お前には才能がないと告げられたくらいでやめるわけにはいかない。
追放されるわけじゃあるまいし、めげずにやっていくさ。
これが実現できれば、戦いの幅がグッと広がる。
「エフィ、少年の魔力はどんな感じだ?」
「ふわっとしてうねっとして、ぐりゃってなってる」
「捻くれてそうだな」
なんか付加情報が増えたんだが。
こんな日々を送りつつ、オレはレイトルさんとの訓練も怠っていない。
訓練当初は、レイトルさんの技を教えてもらうつもりだった。
だけどレイトルさんはオレに自分独自の技や動きを教えない。
最初こそ不思議だったけどレイトルさんにこんなことを言われたことがある。
「お前の場合、今の状況なら体を左に傾けつつ回避して、新しい位置取りをしたほうがいい。お前は蛇腹剣の手数に頼りすぎだ。俺クラスになると、普通に対応できる」
最適な動きは個人によって変わるからだ。
例えばオレとレイトルさんじゃ体格や戦闘スタイルが違う。
だからレイトルさんにとって最適なポジションや動き方があるように、オレにとって最適なポジションや動き方があるということだ。
重心のかけ方、間合い。それらをオレがオレなりに見つけなきゃいけない。
ヒドラ戦闘部隊の技をいただくみたいな感覚だったオレが馬鹿だった。
戦いにおいてもっとも重要なのは自分なりの基礎だ。
それを自分でもがきながら見つけて、体に染みこませる。
人の数だけ戦い方がある。
それに気づいた時、レイトルさんはこう言った。
「ヒドラには一人として同じ動きや戦い方をする奴はいない」
たぶん町の道場に通っても、全員に一律同じ基礎を教え込むんだろうな。
剣の型、足取り。一列に並んで一斉に同じように素振りをする。
自分の体格に合った力の入れ方なんかがあるのに。
レイトルさんに言わせれば、その程度の連中が相手なら武器を使うまでもないそうだ。
怖いね。
そんなことを思い出しつつ、オレは魔力の感知に挑んでいた。
オレにはオレのやり方がある。
心を無にするより、オレの場合は都合のいい将来を思い描いた。
要するに妄想だ。
すると、どうだろう?
より集中できて、ついに変化があった。
抑え込まれるようにして心を無にするよりも、こっちのほうがリラックスできたのかもしれない。
なんともオレらしいと言えばオレらしい。
「ん、なんかふわっとうねっとぐりゃっとしたものを感じた気が……」
「やっと掴んだな、少年。それがお前の魔力だ(こんなひどい魔力もなかなかないな。面白い。実験に参加してもらうかな?)」
「次は魔力の理解か……」
不穏な心の声をスルーしつつ、オレは魔力の理解を深めた。
これについては簡単だ。
ひたすら魔法に関する本を読めばいい。
不思議と内容が頭に入ってくる。
魔力を感じる前なら何を書いてあるのかさっぱりだったんだろうな。
魔力というものを肌で感じたからこそ、わかることがある。
ドドネアさんの部屋で読書をしていると、隣でエフィが寝息をかいていた。
こいつ、本当に上達しているのか?
次は魔力の操作だ。
うねっとぐりゃっとしたものの形を少しずつ変える。
意識できたものを動かす訓練だ。
ドドネアさんは、魔力はイメージで動かすと言った。
なるほど。ここでようやくオレが想像していたように、魔法はイメージで動かすってわけか。
「エフィ、手本を見せてみろ」
「てりゃっ!」
エフィが火の球を周囲にいくつも出現させて、回転させた。
意思があるかのように火の球が踊っている。
更に途中から水しぶきに変化して虹を作った。
すごすぎて参考にならない。
「魔力の操作は言うまでもなく簡単ではない。例えるなら、首輪をつけた犬に紐をつけて自由に操るような感じだ(今のは伝わらなかったか?)」
「不可能では?」
「その不可能を可能にするのが魔道士だ。魔力を躾するという感覚に近いかもしれないな」
「魔力って自分のものなのに難しいんですね」
「体内に流れる血だって自由にコントロールできないだろう?」
しっくりとくる説明、ありがとう。
血の例えをヒントに、オレはまた魔力の感知を深める訓練をした。
血の流れを操ることはできなくても、心臓の鼓動を感じることはできる。
そう意識することで、魔力の鼓動というものを感じ取れるようにがんばった。
毎日、寝る前に瞑想を欠かさない。
どうぐりゃっとするか、次はどううねっとするか。
それが少しずつ頭の中でわかるようになってきた。
理解を深めれば深めるほど、こいつは捻くれてる。
オレが歩み寄っても、こいつらはそっぽを向く。
オレが躾しようとしても逃げる。
まるでオレみたいな動きをしやがるんだ。
他人から見たオレってこんな感じなんだなとしみじみと思う。
魔法の修行を始めてから三ヵ月が経った頃、オレはロウソクに火をつけられるようになった。
「アッハッハッハッハッ! ようやくかい! がんばったねぇ!(基礎でこんなに時間かかる奴なんて初めて見た!)」
「なんか嬉しくない」
「いやいや、こう見えても私はあんたを認めてるんだよ。普通、挫折して投げ出すだろ? すごい精神力だよ(実験に相応しいな)」
「正直、ここまでしてやるほどのものかと思いましたよ。でもここで投げたら台無しですからね」
この頃にはエフィが派手な攻撃魔法を使えるようになっていた。
魔法の仕上がりだけなら魔法学院の卒業生と遜色ないとドドネアさんは評価する。
それから見たらオレは確かにしょぼい。
でもそんなことは関係なかった。
この魔法でオレが何をどうするか。
だから他人は関係ない。
それに完全に無駄じゃないと証明されたことがある。
レイトルさんとの木偶訓練で、オレはついにやった。
「うへぇ、髪の毛の先にかすっちまったなぁ」
「レイトルさん、オレやりましたよね?」
「いや、もう少し嬉しそうにしろよな。それにしても、まさかあんな魔法の使い方をするとはな(こいつの成長は楽しみだが、怖いとも思うな)」
「まだまだ練れますよ」
かすり傷とまではいかなくても、レイトルさんの髪の毛にかすらせることはできた。
髪の毛だろうが体の一部だ。
これって一応、かすらせたことにならない?
と、ポジティブに捉えている。
そんな日々の中、オレはいつも通り起床して着替えるとドアがノックされた。
開けると立っていたのはシカだ。
「エルドア様がお呼びだ。貴様に新たな依頼がある」
「ごめん、間に合ってる」
と、思わずドアを閉めようとしたけど足を入れられて阻止された。
顔が怖いって。ちょっとした冗談でしょ?
オレとシカの仲じゃん?
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