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これがオレ的訓練

 あれからオレは日常の動作にも気を使った。

 メシを食ってる時や入浴中、少しずつ意識して動くようにしてる。

 最初は煩わしくてやめようなと思ったけど、一ヵ月もするうちに不思議と慣れてくる。

 動きがあまりに不自然だったせいでエフィには笑われたけど、少しずつ改善できているように思う。


 日常だけじゃなく、自主的な訓練も始めた。

 例えば床のタイルを一つ飛ばしで歩く。

 自分で決めた床のタイルしか踏まない。

 走ってひたすらタイムを縮めようとした。

 屋敷のホールで汗まみれになっていると、使用人達に変な目で見られるけど気にしない。


 いや訓練場でやれよと思うけど、あっちはプロ達の邪魔になると思った。

 あそこはプロ同士のドンパチ訓練用であって、オレの訓練なんて外で出来る。

 今日も自主訓練に励んでいた時のこと。


「何をしている?(理由によっては不審者として叩き出す)」

「自主訓練だよ」


 シカが汚物を見るような目をして立っていた。

 見ないと思ったら、ひょっこり現れるんだな。


「そんなものが訓練になるものか(まだその段階とはな)」

「訓練になるかどうかはオレが判断する。というかお前、エルドア公爵の護衛はどうしたんだよ」

「休暇をいただいている。あのお方を見くびるな(だからこそ尽くしたい)」

「ふーん、そうか。じゃあ、がんばれよ」


 オレはシカに構わず、タイル踏みを続けた。

 すぐ立ち去ってくれるかと思ったけど、なんかずっと見られている。


「見てるならアドバイスくらいほしいんだけど?」

「誰が貴様などにそんなものをくれてやるか(左足に重心がかかりすぎている。踏む直前が隙だらけだな)」

「お、サンキュ!」

「なに?(なんだ、こいつ?)」


 オレがシカの心の声のアドバイスを参考にすると、かなり楽になった。

 さっきよりも息切れを起こしにくくなっている気がする。

 それを見たシカはだいぶ困惑しているみたいだ。


「ふ、ふん。とにかく、そんなものをいくらやっても無駄だ(よく見れば最初に会った時より動きに無駄がなくなっている。やはりこいつは怖い……)」

「そうかな? だいぶ効果を実感してるんだけどなぁ? どう? ねぇ?」

「ま、まとわりつくな!(気持ち悪い!)」


 シカの周りをステップして回ってやった。

 からかうと腕をぶんぶん振り回されて、かなり危ない。

 訓練前なら当たっていたな。


「よし。回避も上達している、と」

「私で試すなッ!(もう我慢ならん!)」


 シカがいきり立った時、レイトルさんが派手な格好をした女性と一緒に屋敷に入ってきた。

 あの人だけで屋敷全体の風紀を乱してないか?


「よう、ルオン。精が出るな」

「レイトルさん。今度また木偶訓練してもらえる?」

「木偶訓練ってお前、いつの間にそんな名称つけたよ(その木偶にすら当てられないんだけどな)」

「シカが意地悪して相手してくれないから助かるよ。エルドア公爵に言いつけていいかな?」


(こ、こいつ!)


 怒ってる、怒ってる。


「まぁー、シカもお年頃だからな。同じくらいの歳の男の子には素直になれないもんさ(やべ、シカをからかうのってマジで楽しいんだよな)」

「へー、シカって何歳なんですか?」

「14って言ったかな? シカ?」


(ああぁぁぁぁ! うっとおしい!)


 シカが顔を真っ赤にしている。

 ちょっとからかいすぎたかな?

 シカがなぜかレイトルさんに挑む。


「き、貴様ら! あまり私を怒らせるなっ!」

「お、相手してやるぞ」

「たぁぁぁーーー!」

「うまい! うまい!」


 おぉ、レイトルさんがシカの攻撃を完全にあしらっている。

 こうして見るとちょっとスッキリするな。


「はぁ……はぁ……」

「シカ、呼吸が乱れてるぞ。無駄な動きが多いんじゃないか?」

「さ、させておいて何を……はぁ……はぁ……」

「それがわかれば上出来だ」


 シカは諦めたのか、ふらふらと歩いていなくなった。

 せっかくの休日にちょっと申し訳ないと思うけど、先に絡んできたのはあっちだからね。

 それから連れている女性がレイトルさんに拍手をしている。


「レイトル、つっよぉーい!」

「オレはこんなもんじゃないぜ? すぐに思い知ることになる」

「やぁーだー! もぉー!」


 レイトルさんの強さを見た女性が甘ったるい声を出している。

 これ以上は見ないほうがいい気がしてきた。


「ルオン。お前、シカにめっちゃ絡まれてるだろ?」

「今更?」

「エルドア様がお前を気に入ってるものだから、内心穏やかじゃないのさ」

「知ってる。すげぇ迷惑してる」

「しょうがない……で済ませたらお前に悪いけどな。あいつ、家を追放されてるんだよ」


 オレは思わずシカが歩いて行ったほうを見た。


「あいつは元々名家の娘でな。これがまたスキル至上主義で家族間でも差別がひどいんだと。で、あいつは親が望まないスキルを授かったものだから散々虐げられた挙句、追い出されてるんだよ」

「追い出されるくらいひどいスキルだった……?」

「そんなシカをエルドア公爵が引き取ったんだよ」

「なるほど。そりゃエルドア様にべったりするか」


 スキル一つですべてを判断して追放?

 バカじゃないのか?

 金持ちのお家騒動には疎いけど、シカを活かすノウハウがない無能ですと言ってるようなものだ。


 金持ちで権力があっても、そんなことすらできなかったのか。

 うちの飲んだくれ親父でさえ、俺に背中を見せてくれたというのに。 

 おっと、柄にもなく熱くなりそうだった。


「仕事柄、こういうのを知ってるんだけどな。シカってのも本当の名前じゃないぞ(俺は本当の名前を知ってるけどな)」

「そっか。あいつ、すごい奴だったのか」

「え? まぁ、そりゃな(なんだ? 急に雰囲気が変わったぞ?)」

「嫌な奴だと思ってたけど、あいつを気に入ったよ」

「そ、そうか。だがあいつは手強いと思うぞ? ああいうガードが固い女にはコツがあってな(こっちの手ほどきもしてやらないとな)」


 何の話をしてるんだよ。

 頭の中まで派手色に染まってるんじゃないか?


 どんなスキルか知らないけど、シカは体一つであの強さを身に着けた。

 クソみたいな仕打ちを受けても、自分の生き方や目標を決めている。


 それだけでも人として尊敬できると思う。

 今度会ったら、ちゃんと言葉にして伝えてみよう。

ブックマーク、応援ありがとうございます!

おかげ様でジャンル別の5位に入ることができました!

感謝します!


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― 新着の感想 ―
何か作者さんをイラつかせてしまったようですね。 すいませんでした。 ちなみにコミックは読んでいません。
[一言] >>自主訓練 小学生が下校途中によくやるアレですな
[一言] れ、恋愛フラグが… ただのライバルキャラかと思ったらツンデレ彼女候補に…!?伏線か!?
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