戦場はオレに戦いを教えない
「ハッハッハッハッハッ! ヒーヒヒッ! く、苦しい!」
俺が見せた醜態でレイトルさんが笑い転げていた。
エフィも床をバンバン叩いて楽しそうだ。
確かにこれはオレが悪い。
でもね、それしか思いつかなかったんだよ。
「お、お前さぁ! 自分から訓練をお願いしておいて、逃げるってどういうことだよ! ヒヒヒッ……!(今年一、笑えるわ!)」
「いや、だって……。戦っても絶対に勝てないし殺されるって思ったから……」
「そうかもしれねえけどさ! さすがにタマなさすぎだろぉ!(エルドア公爵、あんた、なにを連れてきたんだよ! 面白すぎる!)」
「なんていうか、すみません」
レイトルさんと対峙した時、オレは逃げた。
そりゃもう脱兎のごとく逃げたさ。
だけど絶対に勝てない相手が逃がしてくれるわけないんだよね。
ものすごい速さで捕まった後、床にねじ伏せられてエンドだ。
あれで一回、オレは死んだ。
「お、お前さ。何のためにここに来たんだよ(これ以上、笑わせないでくれ)」
「ヒドラの訓練を受けたいから」
「ヒドラの訓練ねぇ。エルドア様、漠然としすぎだろ。面白かったけどお前の判断は間違ってなかったと思うぞ」
「訓練なのに?」
「実戦訓練としちゃ最低だがな」
しっかり最低いただきました。
レイトルさんは立ち上がってからもう一度、槍を構える。
もう一度やるってことか?
正直、マジで怖いんだけど。
「オレのやり方が悪かった。オレからは絶対に手を出さねぇ。回避か防御の二択だ。これならどうだ?(先輩の俺が譲歩してやらんとな)」
「絶対に?」
「絶対にだ」
「本当に?」
「どんだけびびりなんだよ(こんな奴、初めてなんだが……)」
さすが人生の先輩。
オレみたいな若輩者にきちんと道を示してくれる。
レイトルさんの言葉を信じて、もう一度やってみることにした。
オレは蛇腹剣を駆使して攻め立てるけど――
「ひゅうっ! 面白い武器だな!」
始まって一分、オレのほうが息を切らしていた。
かすり傷どころか防御どころか、レイトルさんはまるでその場から動いていないかのように見える。
でも当たらない。かすりもしない。
何より音だ。最適解を示す音を聞いても、攻撃がまったく届かない。
最適解が間違っているか、オレに問題があるのか。
挙句の果てにレイトルさんは槍を置いて、口笛を吹きながら無防備のポーズをとる始末だ。
なるほど。いわゆる舐められてるってやつか。
「んー、それ面白い武器なんだけどな。俺らクラスになると、割と早い段階で慣れちまうんだよ(どんな鍛冶師が打ったんだよ。異次元すぎるぞ、その武器……)」
「ハァ……ハァ……あー、疲れた……」
「なんでこうなるか、わかるか?(昔のオレを見ているようでなつかしいな)」
「わからん……」
少なくとも賭け事と女に溺れた将来は嫌だ。
「端的に言えば動きに無駄が多すぎる。だからそうやって無駄に体力を消耗しちまうんだ。お前、攻撃のルートは正しいんだよ。だけど届かないだろ?」
「確かにもどかしい感じがするかな」
「まぁオレがお前にそう攻撃を仕向けるように誘っているんだけどな。わざと隙を見せるってやつ? まんまと食いついてかわいいもんだよ」
「あぁー……」
つまりオレが聞いた音のいくつかはレイトルの罠だ。
わざと隙がある動きをすれば、その隙への道を音が示してくれる。
そしてオレは罠の道を進んで引っかかるわけだ。
これはヘッドホンが悪いというより、オレが未熟なのがいけないと思っている。
前にも感じたけど、強い相手の音を深く聞こうとするほど負担がかかる。
刃速の巨王蛇の弱点を見つけた時がそうだ。
つまりレイトルさんへの真の攻撃ルートを示す音を聞くには深く集中しないといけない。
より真剣に聞くべき音を聞かなきゃいけないんだ。
だけど御覧のあり様で、レイトルさんがオレにそんな余裕を与えてくれるわけがない。
刃速の巨王蛇の時だってネリーシャ達がいて、ようやく聞けたからね。
だからオレが未熟なのは明らかだ。
「まー、オレからお前に課題を与えるとすればまずはひたすら基礎トレだな。日常でも極力、必要最小限の動きですませろ。まずは癖をつけろ」
「基礎トレって体力トレーニングじゃないの?」
「お前、体力はかなりあるんだよ。町でのんびりと暮らしてる奴じゃないだろ?(オレの見立てでは田舎者だな)」
「あぁ、バレたか。山のほうにある村出身の田舎者だよ」
「オレは町っ子だけどな(ふふっ)」
今、マウントとられた?
ふふっじゃないんだわ。
つまりオレは体力を無駄に使っている。
レイトルさんが言う通り、改善すべき点はまずそこだ。
言われてみればレイトルさんの動きは確かに無駄がない。
ほとんど動いてないように見えたのは、最小限の動きしか見せていないからだ。
「日常でも動きに気をつける、ですか。難しいですね」
「いきなり習慣化は難しい。例えばトイレで用を足す時やメシを食ってる時とか、少しずつ意識してみろ(俺はアレしてる時も最小限よ。体力勝負だからな)」
なんかよくわからないけど、クッソ最低な心の声な気がしてならない。
でも確かにレイトルさんの言ってることは理にかなっている。
下手に小手先の戦闘技術を身に着けるよりも、よっぽど為になりそうだ。
「お前のその武器なら、オレの槍なんかよりもよっぽど最低限の動きができるぞ(見ていてあまり気持ちのいい武器じゃないけどな)」
「でも、どうしても動かなきゃいけない場面ってあるよね?」
「そりゃな。だったら最大で動きつつ、最小の動きでいい(我ながらわかりやすいな!)」
「え?」
「だーかーら! 大きく跳ぶ場面にしても、高さを最小まで押さえるとか! そういうの!(わからなかっただと!?)」
そういうことか。
最初からそう言ってくれたらよかったのに。
と、色々と教えてもらったけど本来は自分で考えつかなきゃいけないんだよな。
でもオレに戦いの才能がないのは明らかだし、教えてくれる人がいるのはありがたい。
戦いがオレに戦いを教えてくれる、みたいな素質があればよかったんだけどさ。
とにかく今日からがんばってみるか。
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