初めての王都は新鮮さで溢れていた
エルドア公爵が言った通り、魔道馬車なら約二日で王都に着いた。
魔道馬車は王都の正門の隣にある門から入ることになっている。
いわゆる魔道馬車専用の門だけど、要するに貴族専用だ。
オレは初めて見る王都にただただ圧倒された。
道の広さ、人の多さ、建物の多さと高さ。
これから祭りでも始まるのかと思うほどの人の多さだ。
国中からいろんな人達が訪れるから、服装の違いを見ているだけでも飽きない。
「見事に開いた口が塞がらないね、ルオン君(田舎の純朴な少年を王都に連れてくる快感はいつになってもやめられん)」
「こんなに人がいたら、ストレスが溜まりそうですね」
「ハハハ! 王都暮らしから離れる者もいるくらいだからね!(言うねぇ。普通はそれ言わんよ)」
「遠くに見える城とか、あんなに大きくしてどうするんですかね? 建築費の無駄じゃ? もぎゅっ!?」
オレがあまりに言いたい放題だから、ネリーシャに口を塞がれた。
そうそう、相手は公爵なんだよね。
なかなかフレンドリーだから、すっかり忘れていたよ。
「ルオン君! 余計なこと言わないで!(ハラハラしてストレスが溜まるのはこっちよ!)」
「悪い、悪い。でもこのくらいで不敬だなんて騒ぐ人とは思えないけどな」
「そうだけど、本来なら私達が一生会う機会がないほどの人よ」
「オレよりエフィに気をつけたほうがいいんじゃないか?」
昨日、エフィがずけずけと王宮の権力争いについて聞いてたからな。
不敬どころじゃないだろ。
質問内容がぶっこみすぎなんだよ。
のほほんとした顔して、えげつないことを聞きやがる。
「エフィ、本当にそういうのやめてね(成り行きで一緒にきたけど、そろそろ離れたほうがいいのかしら?)」
「わかった! 今度から騎士団のパワハラ事情にとどめておくね!」
「やめなさいって!(やっぱり私が一緒にいて止めないとダメっぽい!?)」
「ねー、ルオン君!」
何が、ねーだ。
こちとら、これから仕事だっての。
王都の大きさに圧倒された後で、オレはこれからエルドア公爵が指揮するヒドラの本部へ向かわなきゃいけない。
魔道馬車が王都の大きな道を進み、オレは窓の外を眺める。
王都の人達も魔道馬車は珍しいのか、立ち止まって注目していた。
そして到着したのは平べったく大きい屋敷だ。
高い壁に囲まれた広大な土地は全部、ヒドラの敷地かな?
敷地内に止まった魔道車から降りると、オレは王都の空気を吸った。
なんだか独特な匂いだ。埃っぽいような香辛料の匂いのような、色々と混ざってカオスだ。
これは田舎者が慣れるには少し時間がかかるかもしれない。
「ではルオン君、エフィ君。行こうか。ネリーシャ君は所用があるらしいので、ここでお別れか」
「は? なんでエフィが?」
「見学を希望したのでね。ルオン君と一緒なら問題ない(二人を引き離すのは少しかわいそうだからな)」
「いや、待ってください。見学とかできるくらい緩い施設なんですか? あとオレとエフィってどう見られてるんですか?」
「友達ではないのかね?」
オレが知らないところで交友関係が広がっていた。
どうせエフィが適当に吹き込んだんだろ。
実害がなければ別にいいけど緩すぎだろ、ヒドラ。
なんで見学とかできるんだよ。
「友達でも何でもいいので行きましょう」
「では案内しよう。あそこに見える屋敷が私の住居兼本部だ(どうだ、あれも驚くだろう?)」
「住居と一緒なんですか?」
「あぁ、ご先祖様達がいちいち行き来するのが面倒ということでね(あれ? 反応が薄いぞ?)」
だって遠くに見える城のインパクトに比べたらね。
あの屋敷だって、たかが暮らすのになんであんなに大きいんだろう?
金持ちの考えることはわからん。
それから屋敷まで徒歩で向かった。
歩くこと数分、遠くない?
屋敷の前で待ち構えていたのは白髪のじいさんだ。
「旦那様、お帰りなさいませ(はて、見慣れない子どもが? もしや隠し子が!?)」
「バルトラ。私が留守中の間、ご苦労だった。何か変わったことはないかね?」
「いえ、特段変わったことはございません(か、隠し子なのか!?)」
「そうか。では中に入らせてもらおう」
おい、執事らしきじいさんが内心穏やかじゃないぞ。
まずオレ達を紹介したほうがいいんじゃ?
「おっと、忘れるところだった。こちら、ルオン君とエフィ君だ。少しの間、ヒドラで預かることになった」
「ほう、旦那様が直々にスカウトとは珍しいですな。一体、どちらの少年と少女で?(まずは探りをいれねば……)」
「出身は……はて? とにかくルオン君はヒドラで一定期間、訓練をしてもらうことにした。事情は改めて後ほど説明しよう」
「かしこまりました(出身をごまかした!? まさか、旦那様……!)」
出身地を教えてなかった弊害が出てしまった。
これは素性も知れないガキを連れてきたエルドア公爵が悪い。
ていうかなんでこんなに疑われてるんだ。
普段からそういう素行なのか?
オレ達は屋敷の奥にあるエルドア公爵の執務室へと案内された。
大きいデスクの向こうの椅子に座ったエルドア公爵が改めてオレ達を品定めするように見る。
「ようこそ、我が屋敷へ。ルオン君、君の耳兜は神器だったか。神器持ちはヒドラ内でも大変珍しい(そういえば騎士団に配属された少年も神器持ちだったか)」
「そうなんですか。ヒドラには何人くらいいるんですか?」
「それは君の目で確かめてみたまえ(こればかりはあまり喋るわけにはいかん)」
「なるほど」
オレが少し攻めるとエルドア公爵が自嘲した。
今更に思えるけど、ここはヒドラの腹の中。
いつ消化されてもおかしくない。
そう思えないほど、室内には上品な調度品が飾られていて厳かな雰囲気がある。
「さて、これからの話をしよう。ルオン君。最初に話した通り、これからの世界には君のような人間が必要なのだ」
「お言葉ですけど、オレは自分のことしか考えてない人間です。オレみたいなのが世界に溢れたら、それこそ滅亡しますよ」
「もちろん全員が君を見習うわけではない。一部の有能な人間が少しでも気づけばそれでいいと思っている」
「有能……」
ますますオレとはかけ離れた話になってきたな。
とにかく、今日からオレはヒドラで訓練をするわけだ。
こんな機会は滅多にない。
チャンスだと思って、できるだけ得るものを得よう。
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