ゲームは皆で楽しくプレイしようね
初日を終えて、俺は風呂にゆったりと浸かっていた。
まさか移動中にこんな風呂に入れるなんて、夢にも思わなかったよ。
何より湯船で足を伸ばせるのが最高だ。
オレの家の風呂は一人分しか入れないほど小さい上に、親父が強引に入ってこようとして壊れたっけ。
何が親子のスキンシップだ。
「いやぁ、いい湯だった。エルドア公爵、ありがとうございます」
「気に入ってもらえたなら嬉しいよ。お金があれば、いつでも大きな風呂に入れるんだよ(こういう時も揺さぶりをかけておこう。ヒドラに入りたくなーる、入りたくなーる)」
「そうですね。でも不便な環境には慣れてます」
何のまじないだよ。怖いわ。
エルドア公爵は本気でオレを引き入れたがっている。
最初はヒドラ人材不足かよって思ったけど、シカを見ているうちにそうでもない気がしてきた。
これはあくまでオレの妄想だけど、シカは護衛訓練をさせられてるんじゃないか?
ヒドラのメンバーは不明だけど、オレとそう年齢が変わらないシカが上位の実力者とは思えない。
エルドア公爵ならシカが万が一、護衛で至らない点があってもいくらでもカバーできる。
攻める戦いの訓練があるなら、守る訓練があってもいい。
シカがそこに気づいてないのは明白だ。
「エルドア公爵。ルオンの入浴後、浴槽などの確認を行いましたが怪しい点はありませんでした」
「そうか。でも次からはやらなくていいからね」
何の確認してんだよ。きもいわ。
「ではネリーシャ君やエフィ君、シカ。女性陣も入ってきなさい。私は後でいい」
「エ、エルドア公爵を差し置いて、ですか?(そもそもなんでルオンが一番風呂なの?)」
「ネリーシャ君、君達は客人だ。ルオン君同様、客人をもてなすのは当然だよ(私は風呂場で寝てしまうことがあるからね。迷惑になるだろう)」
「エルドア公爵……」
風呂場で寝たら最悪、死ぬぞ。
その時は護衛として責任とれよ、シカ。
「では先に……。エフィ、行くわよ」
「うんー! ルオン君、覗いちゃダメだよー?」
「オレの名誉を何だと思ってるんだ」
お前、ほら。
エフィがそんなこと言ったもんだから、猛獣みたいなのが目を光らせてるじゃねえか。
なんで刃を研いでるんだよ。何を斬るんだよ。
「エルドア公爵。常に油断せず、風呂場に不審なルオンが近づいたら仕留めます(やりかねない、あの顔はやる顔だ)」
「そうか。でもルオン君はそんなことしないと思うよ(彼にはまだそういうのは早いだろうね)」
アホらしい。
風呂も入ったし、もう寝るか。
うっかり風呂に近づいて暗殺者みたいなのに殺されちゃ敵わん。
* * *
「おい、貴様」
翌日、朝食をとっているとシカが何か言い出した。
誰に向かって話しているんだろうな。
それよりこのベーコンエッグとピザトーストがうまいのなんの。
村じゃ野菜中心の地味な食事ばかりだったから、このチーズのおいしさがたまらない。
「おい」
「うんまい」
「貴様!」
「うるさいな」
おいとか貴様とか、昨日から無礼なやっちゃ。
他人に話しかける時は丁寧に名前を呼べって親に教わらなかったのか?
オレは教わらなかったけど。
「何の用だよ。オレは今、チーズのうまさに感動しているんだ。これって馬車に常備しているのか?」
「あぁ、冷蔵庫に常に……じゃない!」
「だから何の用だよ。エルドア公爵もいるんだぞ。粗相のないようにな」
「私と勝負をしろ(エルドア様の言いつけにより、決着をつけねばならん)」
「嫌です」
清々しい朝食の席で、オレは爽やかに断った。
会って間もないのにいきなり勝負しろだなんて、どういう教育を受けてきたのか。
今のオレはあくまで冒険者で、戦いが本業じゃないって理解してくれ。
「ルオン君。何も戦えと言ってるんじゃない。君じゃシカには勝てないからね(そう、試合形式じゃ君の真価は発揮されないだろう)」
「エルドア公爵、悲しいフォローありがたいです。じゃあ、何で勝負するんです?」
「カードゲームだよ。ババ抜きって知ってるかい?」
「いえ、知らないですね」
話によるとシカがあまりにオレに拘るものだから、エルドア公爵は一つの提案をした。
ここは一つ、白黒つけようということで選ばれたのがババ抜きだ。
一応、筋は通っているけどババ抜きとやらでシカは納得するのか?
オレは別に負けても一向に構わないんだけどさ。
というわけでルールを教えてもらってさっそくババ抜きとやらを始めることにした。
まぁルールを聞いて思ったんだけどさ。
「はい、シカの負け」
「ううっ! うううぅ! ううぅくっふぅぅ……!」
シカが大粒の涙をこぼして泣き崩れた。
このゲーム、オレが負けようないだろ。
心の声もそうだけど、このシカはめっちゃ顔に出る。
オレがババ以外のカードを取ろうとすると、万力の力でカードを押さえつけるんだよ。
もちろん反則らしいから、しっかり取らせてもらったけどね。
「ルオン君、強いねー! 一回も勝てないよぉ!」
「エフィもなんだかんだで2位をキープしてるじゃないか。どこかの最下位とは違ってさ」
「貴様ァーーーー!」
ババ抜きごときでキレるなって。
「さすがルオン君ね。こういうのいかにも得意そう」
「ネリーシャも少し顔に出すぎなんだって。エフィなんか常にニコニコしてるから逆に読めないんだよ」
エフィは心の声でまったく動揺しないから、やりにくいあったらありゃしない。
世の中にはこんなにも楽しい遊びがあるのか。
今度はヘッドホンなしでやってみるのも、ん?
「ルオン……! やはり貴様とは直接、戦わねば気がすまん!(勝算は確実にある!)」
「ババ抜きで負けてそこまでキレ散らかす奴ってそんなにいるもん?」
「黙れ! 表に出ろ! 戦いなら負けん!」
「なんでオレがお前と戦わないといけないんだよ」
「怖いのか?」
はぁ、さすがにオレもここまで絡まれるとうんざりする。
貴重な人生の時間をシカのために費やせと?
そろそろ本気でこいつの対処を考えないとな。
「一応、俺に敵意を持っているようだから言うけどさ。何かしてきたら殺すからな」
オレはあらゆる手を使ってこいつを殺す。
(ル、ルオン。なんて殺気なの……)
(なんだ、こいつ……。なんで私の体が動かない? 実力は間違いなく私のほうが上だ、なのに……)
この場が静まった。
「オレにはオレの人生がある。お前の邪魔をする気はない。だけどオレの邪魔をするなら、必ず殺す」
(つ、強さならネリーシャとかいう女のほうが上だ。だけど、なんで……こんなにも震えが止まらない?)
オレはカードをまとめてエルドア公爵に手渡した。
こういうゲームは笑って楽しまないとな。
といっても、オレにはこの人が何をやりたかったのかわかってるけど。
(ルオン君にとって、あの耳兜は添え物だ。彼の真価はやはり単なる戦いの場にないとわかった)
この分だとヘッドホンの本当の性能にも気づいていそうだ。
シカはともかく、この人だけは敵に回さないようにしよう。
シカにカードゲームの入れ知恵をしたのも、このためだろうな。
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