田舎者だから魔道馬車とかいうものに驚く
「なんだ、この馬……」
エルドア公爵が言っていた魔道馬車なるものが町の北に待機していた。
民家一つ分の四角い建物に車輪がついていて、外装が金属でめちゃくちゃ頑丈そう。
そんな重そうなものを引いているのがグレイトホースという二匹の馬だ。
通常の馬の数倍ほど大きい。
「驚いたかね? グレイトホースは見た目に反して温和な魔物だが、怒らせると手がつけられない。そこだけ注意だね(驚いてる、驚いてる)」
「その辺の魔物なら相手にならなそうですね」
「本気になれば刃速の巨王蛇にも勝てるだろうね。ただ自分から戦いを挑むことはほとんどない(魔物討伐に向かないのが惜しい)」
「でかい建物を引いてますね。あの中には何が?」
「じゃあ、お友達と一緒に招待しよう」
お友達。そう、オレの傍らにはネリーシャとエフィがいる。
この二人も王都に向かうついでに乗せてくれるそうだ。
「ねーねー! あの馬に乗れないの?」
「乗ってどうするんだよ」
「風になる?」
「そうか」
あれに乗ったら風どころか突風になってしまうだろうな。
何せこんなに大きい建物を引くくらいの怪物だ。
魔道馬車から階段が出てきて、俺達は中に入る。
実際に内装を見ると、思った以上に居住性が高くて驚いた。
リビングだけで俺の家より広く、ふかふかの絨毯とソファーが置いてある。
ほぼベッドしかないけど小さい部屋がいくつかあるだけじゃなく、キッチンや風呂が完備ときた。
この魔道馬車は魔石を利用した魔道技術が使われている。
魔道エンジンで馬車全体の推進力をあげて、グレイトホースに補助してもらっているとのこと。
キッチン、風呂の水回りや火元も魔道具で動いている。
「こ、これはさすがエルドア公爵といったところね……」
「オレの村じゃ考えられないな。王都の民家では標準装備らしいけど、それを移動時にも使えるようにしているとはね」
「私が住んでいた町は井戸から水をくみ上げていたわ」
「そうそう、俺の村でも水汲みがだるくてな」
ただ水汲みをさぼると、親父がいつまでも風呂に入らないからやらないわけにはいかない。
この魔道馬車こそが貴族様の力だ。
これを見て、この世は金と権力だよなぁと思う人が出てくるだろうな。
確かにこんな便利なものに囲まれて生活していたら、もう二度と不便な生活には戻れなさそうだ。
動力源となる魔石が発掘されなくなったら?
食糧危機に陥ったら?
そうなった時に生きられるかどうか。
エルドア公爵はそういうことを言っていた。
「ね! ね! これどうやって動かすの?」
「では運転席に案内しよう」
偉い公爵様にタメ口で話しかけている命知らずがいるんだが。
さすがに俺も敬語くらいは使うぞ。
運転席を見ると、一人の男が頑丈そうな紐を手に持って挨拶をしてきた。
「これはこれは。私は運転手のライドです。短い旅ですが、よろしくお願いします」
ライドさんによれば、ここから王都までは二日ほどかかるらしい。
歩いていけば一週間近くはかかるというのだから、魔道馬車の利便性がよくわかる。
「ではルオン君。私は少し雑務があるから自室に失礼するよ。何かあれば遠慮なく声をかけてほしい」
「わかりました。少しここで休ませてもらいます」
エルドア公爵は自分の部屋に戻っていった。
ネルーシャも部屋で休むといっていなくなったし、エフィはライドさんの隣でワクワクしている。
で、この場に残されたのは俺とエルドア公爵の護衛であるシカだ。
あの、護衛はいいんでしょうか?
「……すごい馬車だな」
(妙な動きをしたら殺す)
あのな。
心の声じゃ普通は誰にも届かんのよ、シカ。
いや、口に出すような内容でもないけどさ。
「エルドア公爵の護衛をしなくていいのか?」
(張り付くだけが護衛だとでも? 浅はかだな)
俺じゃなかったらこれ会話になってないぞ。
ひたすら対面のソファーに座って俺を睨み続けてるだけなんだからな。
エルドア公爵はオレと歳が近いからこいつと仲良くできるとか寝言ほざいてたけど、無理に話す必要あるか?
嫌いなら嫌いで俺は一向に構わないんだけど。
もういいよ。俺も部屋に戻ろう。
「逃げるのか?」
「はい?」
「私に臆した。だから貴様はこの場から逃げようとしている」
「なんて?」
ちょっと何を言ってるかわからない。
「取り繕うな。貴様は私と対峙するのがつらくなった」
「そうだよ。なんで意味不明に睨んでくる奴と一緒にいなきゃいけないんだよ」
「ハッ、その程度か。エルドア様もこんな奴のどこを気に入ったのか」
「それ散々説明してたよね?」
この子、アホの子かな?
でもシカは本気で勝ち誇っている。
敬愛するエルドア公爵が一生懸命、説明していたのに聞いてなかった?
それもう不敬だろ。
「私には理解できない。あのお方が貴様のようなだらしなさそうな奴に興味を抱くはずがない」
「でも実際に興味を抱いてるんだから、それが現実だろ。お前、そのうち不敬罪に問われるぞ」
「ふ、不敬だと?(こ、こいつめ!)」
「そうだろ。お前さ、エルドア公爵の前でまた同じことを言ってみろよ。愛想をつかされるかもしれないぞ」
「そ、そ、そんな、そんなこちょはない!(やだ! かんじゃった!)」
噛むなよ。
なんか一転して面白くなってきた。
「あのお方はヒドラの中で私をもっとも信頼してくださっている! だから専属護衛を任せていただいたのだ!」
「それが引っかかるんだよな。あの人、超強いだろ。俺がどうがんばっても敵わないくらいにさ」
「当然だ。あのお方はヒドラの創始者である伝説の騎士の直系。貴様のような田舎者とは血筋が違う」
「なんで田舎者って知ってんの?」
田舎者オーラでも出ていたか?
俺、名前しか名乗ってないよね?
別にどうでもいいんだけどさ。
「とにかく、あのお方は私を認めてくださっている。妙な勘ぐりはやめろ(私の護衛はお前しかいないと言ってくださったのだ!)」
「でもお前って俺よりは強いけど、エルドア公爵より弱いだろ。あの人は何か考えがあってお前を傍に置いてるだけなんじゃないか?」
「貴様ァーーーー!」
おっと、煽りすぎたか。
こいつにガチで襲いかかられると、生き残れる自信はあまりない。
「悪かった、謝る。ごめんなさい」
「誠意が感じられん!」
「大変申し訳ありませんでした」
「わざとらしい!」
どうしろと?
親父が悪さをした時もオレが散々村人に謝ったけど、こんなの初めてだよ。
オレが呆れているとエルドア公爵が戻ってきた。
「やぁ、すっかり仲良くなってるね(私が予想した通りだ)」
「エルドア公爵、この子がオレをいじめるんです」
「貴様! 嘘を吐くな!」
エルドア公爵、どこまでが予想通りなんですか?
明らかに嫉妬に駆られてオレに憎悪を抱いてるんですけど?
もっとこの子のことを知ってあげてください。
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