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本気を出せと言われてもな

「そのヘッドホンという兜は本当によく聞こえるだけか?(こいつ、マジでクソ効果しかない神器を授かってしまったのか?)」


 神官がそんなことを聞いてきた。

 あなたが言い出したことでしょと喉まで出かかってしまう。

 そして本当のことを言うつもりはない。これが神官の心の声だとしたら尚更だ。


 そう、このヘッドホンは本当によく聞こえる。

 聞きたくないことまで聞こえてしまうほどに。

 他にも風や虫の音みたいな細かいものまで拾っているみたいだ。


 神官が持つ鑑定スキルは凄まじいけど、あくまで表面的な部分しか知ることができないみたいで助かる。


「そうですよ。だけど、そう遠くまで聞こえるというわけではないですね」

「すまないが検証させてくれないか?(もう少し見極める必要があるな)」


 それから神官はありとあらゆる方法で俺達を試した。


 さすがにこんなヘッドホンなんて珍妙なもの、ろくに確かめずに帰るわけにはいかないんだろう。


 兵士との模擬戦をさせられたし、音がよく聞こえるならどこまで聞こえるか。


 一方でラークは剣術だけで神官達を唸らせたし、サナもちょっとした回復だけで大喜びさせている。


 よし、いいぞ。

 これだけで一日の終わりが近づいてきた。


「ううむ、剣術の腕は悪くないがヘッドホンの効果は残念ながら……。申し訳ないが王都行きは見送りだ(もしかしたらと思ったんだがなぁ)」

「いえいえ、行きたかったですけどそちらの事情もわかります。こちらこそお手数をかけてすみません」

「いや、こちらも仕事としてやっただけだ。こんな仕事をしておいて何だが、スキルや神器だけで人生が決まるわけではない。だから落ち込まないようにな(まぁ二人も当たりを引いたんだ。贅沢は言ってられんな)」

「はい。前向きに生きたいと思います」


 もちろんウソだ。

 オレは出世や地位に興味がない。

 ラークみたいに一度しかない人生ならでかくなるべきという志もない。


 サナみたいにいいお嫁さんになりたいという目標もない。

 そのサナは出世しそうな男にしか興味がないことがわかってしまったが。

 オレの迫真の演技でなんとか神官と兵士達を騙せたみたいだ。


 オレのヘッドホンの検証が終わって夜、ラークとサナは村長や村人達に囲まれて大はしゃぎだ。


「ラークよ。村長としてお前を誇りに思う。しかしだな、その神器をどう扱うかはお前次第だ」

「わかってるって! もし俺が出世したら、この村のことを広めてやるよ! この村の野菜はとびっきりうまいってな!」

「それは助かるが……」


 村長としても心配だろうな。

 確かにラークはオレより剣の腕が立つし、村の仕事を積極的に手伝う。

 大人達からも評判がいい。


 昔、年下の子どもが川で溺れた時に真っ先に助けに行くほどの無謀、いや。勇敢野郎だ。

 誰がどう見てもラークは頼りになるし、人当たりがいい。オレ以外には。

 だけどあいつはどこか危なっかしい。頭で考えるより体が先に動くような奴だ。


「サナもだな。ワシらに止める権利はないが、くれぐれも悪い男には引っかからんようにな」

「わかってるって! こう見えても男を見る目はあるつもりよ!(少なくともルオンはないわねー)」


 下手したら人間不信になるな、これ。

 だけどサナに関しては心のどこかでわかっていた。

 いつもラークからオレを庇うけど、それ自体がわざとらしく感じたこともあった。


 オレはあくまで婿候補の一人だったというだけなんだろう。

 神官が村長と挨拶をして話を終えた後、再びラークとサナに向き合った。


「わかっていると思うが、君達に王都行きへの拒否権はない。そのための我々の遠征なのだからな」

「はい! わかってます! なぁ、サナ!」

「そうよ。神官さん、私はどんな仕事をするの?」

「それはわからん。急で申し訳ないが出発は明日だ。当分は村に帰ってこられないから、今日のうちに挨拶を済ませておくようにな」


 いきなりすごい神器やスキルをもらって王都へ来いだなんて、オレだったら絶対に嫌だ。

 オレがほしいのは生きる力だ。そこに出世や地位なんて必要ない。

 

                * * *


 村長は難色を示していたけど、村人の大半はラークとサナの旅立ちを喜んでいた。

 夜の宴では常に二人が中心だ。


 将来は王国騎士団のトップか、はたまた爵位を与えられて領地をもらうか。

 そんな話題が尽きない。


 畑以外何もない小さな村から大物が出るとなれば、大半の大人達が喜ぶのも当然だ。

 一方でオレに話しかけてくる人はいなかった。


 ヘッドホンなんて珍妙なものを授けられてしまったオレにかける言葉なんてないということだろう。


 何人かが気の毒そうにちらちらとこっちを見てくる。

 オレはおいしいものが食べられるなら、どうでもいい。

 このまま静かに終わってくれたらよかったんだけど、ラークの奴がこっちに来た。


「よう、ルオン。お前さ、そんな神器でこれからどうするんだよ。なぁ?(冴えねぇ野郎だな。少しオレが発破をかけてやるか)」

「どうもしないよ。オレはオレの生き方を見つけるだけさ」

「剣術勝負でオレに一度も勝てない奴がどこにいって何ができるってんだ。お前さ、マジで危機感くらい持てよ(これで少しは火がついたか?)」

「危機感ねぇ」


 思うところはあるが、ここで言い返してもマウントを取られて終わるだけだ。

 要するにこいつはオレを本気にさせて自分と同じ舞台に立たせたいのか?

 だから昔からオレに絡んできたのか。


「ラーク。王都にいけば、すごい奴なんかたくさんいる。オレのことなんか忘れてしまうくらいにね」

「な、なんだって?(クッソ! こいつマジでムカつくな!)」

「じゃあな。オレはもう帰って寝る。お前も明日は早いんだろ」

「あーあ! まーた逃げやがった!(いつもこうだ!)」


 帰るついでに酔っぱらって下品な歌を大声で歌っている親父を捕まえた。

 どうせ放っておいてもその辺で寝るから、ちょうどいい。

 さて、今日はもう寝よう――


「おい、待てよ!(もう我慢ならねぇ!)」

「なんだよ、ラーク。明日は早いぞ」

「俺と勝負しろ。お前に勝って景気よく王都に行きたいからな。ザコのお前でも、せめて俺の役に立たせてやるよ(最後ってんなら、何としてでもこいつを本気にさせてやる)」


 こいつ、どこまでオレに執着するんだ。

 とにかく勝負なんてしたくない。

 このまま帰らせて――


「よし、やってみろ」

「バンさん?」


 村の警備を務めるバンさんが勝負を後押ししてきた。

 オレ達は子どもの頃からこの人に剣術を教わってきた。

 物腰が落ち着いていて、親父なんかより尊敬できる大人だ。


「もうラークとは会えないかもしれないだろ? 最後くらいやってみろよ。一度くらいラークに勝ちたいとは思わないのか?」

「最後……」


 オレ達の様子を見た村人達がやってきた。

 ワイワイと騒ぎ立てて、すっかり対決する流れだ。

 大人達の酒の肴にでもなれと?


「おう! やれやれ!(面白くなってきたぁ!)」

「ルオン! お前が勝ったら秘密の釣り場を教えてやるぞ!(ホントは知らんけどな)」

「こっちは一年分の干し肉だ!(仮に勝っても三日分くらいでごまかせるだろ)」


 大人達のウソがひどい。

 が、それとは別に最後と言われて少し思うところがある。


 何よりお世話になったバンさんの言葉だ。

 オレも非道な人間じゃない。きちんと決着をつけてやらないとな。


「ラーク、やろう」

「そうこなくっちゃな! お互い神器はなしにしてやるよ!(よぉぉし!)」

「ただし、オレが勝ったらお前はオレのことなんか忘れて王都で出世していい暮らしをしてくれ。いいな?」

「はぁ? 言われるまでもないが?(つまりやっとやる気になったってことか?)」


 オレとラークが向かい合って構えた。

 そして勝負は白熱。なんとオレが十秒近くもラークと戦えたんだ。オレはあっさりと勝った。

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