自分の人生は自分で決める
オレが命がけの戦いに勝利したことによって、ガントムさんに無料で武器を鍛えてもらえることになった。
刃速の巨王蛇から採取できた刃を使うことによって、蛇腹剣を強化することができる。
いい冒険者は相応の武器を持つものだと聞いたけど、果たしてこれがオレに相応しいのだろうか?
あんなもんオレ一人じゃ絶対に討伐できなかったから、長い人生の中で拾えるラッキーの一つかもしれない。
そして、そのラッキーを拾ったのはオレだけじゃなかった。
「風穴のなんとか、お前らの武器も作ってやった。お前らは武器が合ってなかったんだよ(ルオンのおかげで知ることができたんだけどな。頑固な鍛冶屋その十一。都合が悪いことは語らない)」
「ありがてぇ……」
「ルオンに感謝しろよ。あいつがその気になったらお前ら、死んでいたんだぞ」
「俺達があんなルーキーに……ん? あの耳兜はまさか?(冒険者ギルドで噂になっている奴じゃ?)」
まさかも何もない。
受付嬢を辞めさせたのがそんなに偉大な功績なのか?
いや、普通に考えて刃速の巨王蛇討伐の噂だろう。
猛者の中に一人だけ耳兜がいたら目立つに決まっている。
だとしたら今の段階で気づかれるのは遅すぎると思うけど。
「お前、まさか刃速の巨王蛇を討伐した耳兜じゃないか? だとしたら、俺達が負けたのも納得できる」
「人違いだよ」
「刃速の巨王蛇を討伐した上に俺達三人がかりで敵わない冒険者……間違いない。こんなに子どもだったのか……。ますますヘコむわ」
「人違いだから落ち込まないでくれ」
純粋に剣の勝負をしたら、あなた達のほうが強いよ。
そうフォローしようかと思ったけど、そんな義理もないからやめた。
負けるたびにいちいち落ち込んでいたら人生やっていけない。
大切なのは人生を楽しむこと。なんて言ったらラークあたりはぶちぎれるかもしれない。
「ルオン、蛇腹剣の切れ味は更に増したはずだ」
「ありがとう、ガントムさん。こいつ、使いやすくて気に入ってるよ」
「それはよかった。しかしお前、これから先はどうするつもりだ? 冒険者として生きるのか?」
「冒険者でも何でもやって、なるべく人生を楽しむよ」
最終的な目標を考えれば、どこか自然の中で暮らそうかと考えている。
だから実はオレにはそこまでお金は必要なかったりする。
あくまで最終的な目標だから、力をつけるためにはお金が必要になると思う。
こんな感じだから、身を粉にして稼ごうって意識があまりない。
それでも今回の鍛冶代無料はありがたかったけどな。
「お前がその気になれば、どこに行ってもやっていけるだろうな(だがどこか危なっかしいというか……自覚なくやらかすタイプだな)」
「今はひとまず王都を目指そうかと思ってます」
「それはいい。この町にはない大きな仕事もあるだろう。が……いや。なんでもない(こいつは良くも悪くも目立っちまうだろうなぁ。人生を楽しむ余裕があるかどうか)」
ヘッドホンがなかったら、言いかけてやめないでくださいと突っ込んだ場面だ。
目立とうが目立たなかろうが、オレは方針を変えない。
周囲を気にしすぎることほど人生においてバカらしいことはないと思っている。
自分が楽しめたり正しいと思えば、周りなんか関係ない。
だって自分の人生だから。行き過ぎると今頃、村で飲んだくれてる奴みたいになるけど。
* * *
ネリーシャのアドバイス通り、オレは今日もそこそこの宿に泊まっている。
こうしてくつろいでみれば確かに快適だ。
村の家の薄壁は隙間風がひどかったし、親父が酔っぱらってぶっ壊すもんだから修理が面倒だった。
この部屋は風どころか、ヘッドホンさえなければ外の音さえ聞こえない。
そう、ヘッドホンさえなければ。
「誰ですか? 暗殺者じゃなければどうぞ」
「……だったら入らせてもらおうかな(おやおや、気配を消したはずなのだがね)」
静かにドアを開けて入ってきたのは訓練場にいた紳士と黒装束の女の子だ。
うわっ、暗殺者っぽい。約束を破らないでくれ。
しかもなんだこれ。
昼間は気にする余裕があまりなかったけどこの紳士のおっさん、クソ強い。
ネリーシャよりもグラントさん達よりも、刃速の巨王蛇よりも。
隣の女の子はおっさんよりマシだけど、ガチでやって勝てるかどうか。
「自己紹介をさせていただこう。私はエルドア、爵位は公爵だ。こちらの子は私の専属護衛、シカ。年齢は君と同じくらいなので仲良くしてやってほしい」
「はぁ……」
うん、オレも自己紹介をすべきなんだろう。
でもさ、いきなりやってきたのが王族とかさ。
ド平民のオレにどう対応しろと?
これって下手なこと言ったら不敬罪とかになるんだよね?
待て待て待て、どうしてこうなった?
こうやって気を使うのが嫌だから、オレは権力者から遠ざかった人生を送りたいんだ。
「この町には所用で来ていたのだがね。何やら面白い冒険者がいると聞いた。それが君だとわかって、こうやって会いに来たというわけだ(近くで見れば本当に子どもだ)」
「昼間、訓練場にいましたよね?」
「たまたま鍛冶屋で揉め事が起こっているのを見てね。面白そうなのでつい見にいってしまったよ(やはり気づいていたか)」
「それはよかったですね」
心の声も無難なものばかりだ。
これから休もうと思っていた時にとんでもないのが来たな。
王族じゃなかったら追い返していたけど、さすがのオレもリスクというものは知っている。
ここはおとなしく話を聞こう。
それより。それより、だ。
(エルドア様がなんでこんな奴に……腹立つ)
隣にいる女子が殺気立っているから、なんとかしてもらえないか?
なんでも何も、こっちのセリフだよ。
エルドア様、護衛の躾くらい頼みますよ。
ていうかあんたの強さで護衛なんかいらんだろ。何考えてんだ。
「君の戦い、見せてもらった。とてもずる賢くて陰湿、見ている人間を不快にさせる戦いだった(だが、それがいい)」
「ありがとうございます」
「怒らないのかね?(ふむ、思ったより冷静だな)」
「自分の利益や命より他人の目を優先する必要はないと思ってます」
オレがそう答えると紳士はクツクツと笑い出した。
オレを評価してくれているのに、わざと怒らせるような言い方をしているのは心の声がなくてもわかる。
というか、その程度で怒るくらいならあんな戦い方はしてない。
「いやぁ面白い。君をぜひ我が部隊に迎えたい」
いきなりぶっこんできたな。
それが目的だから訪ねてきたんだろうけどさ。
ブックマーク、応援ありがとうございます!
「面白い」「続きが気になる」と思っていただけたなら
ブックマーク登録と広告下にある☆☆☆☆☆による応援をお願いします!




