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飲み会はどちらかというとオレも苦手です

 刃速の巨王蛇討伐の話はオレが思っている以上に町を騒がせるかもしれない。

 冒険者ギルドに帰ってきたオレ達に対して、冒険者達が目を丸くしている。


(ウソだろ? 絶対死んだと思ったんだが……)

(虚偽報告でもする気か? バレたら大変なことになるぞ)

(騎士団に続いて三十人くらいの冒険者討伐隊が返り討ちにあっているんだぞ?)


 誰一人として欠けることなく生還したオレ達に冒険者達が圧倒されているみたいだ。

 そう考えるとオレ以外のメンバーは軒並み化け物揃いってことになるな。


 エフィは例外としても、単独だとこの町じゃ敵はいないように思える。

 新しい受付嬢に討伐証明である鱗や欠けた刃を提出した。


「お、おめでとうございます! これであの魔物に壊滅させられる村もなくなるでしょう!(怖いよー! まだ新人なのにすごい人達と話してるぅ!)」

「緊張しなくてもいいわよ。私達だってあなたと同じ平民だからね(新人ちゃんならケアしてあげないとね)」

「は、はいぃ!(お姉様、優しい! 好き!)」


 ネリーシャ、マジお姉様。

 強さってのはこういう人間性も関係しているんだろう。


 オレも見習いたいけど、こういうのは年季もあるんだろうな。

 オレより数年長く生きているだけはある。


 その後も慣れない新人ちゃんにネリーシャが手取り足取りサポートしてあげた。

 新人のうちから刃速の巨王蛇の討伐報告や素材の受け取りを経験できたんだ。

 あの子にとっても人生において貴重な糧になると思う。


                * * *


 報酬の分配を兼ねた祝勝会は酒場でやることにした。

 冒険者ギルドだと変に注目を浴びてしまうし、やっかんで絡んでくる輩がいるかもしれないということだ。

 オレもそれには賛成した。


 羨望や嫉妬が入り混じった心の声がうるさくてしょうがない。

 特に妬む暇があったら鍛錬でもしてろ。


「ルオン君、何にする? お酒は……まだ早いわね」

「個人的に酒は嫌ですね」


 飲み物を頼む段階になってオレとエフィ以外は酒だ。

 オレは年齢的なものもあるけど、親父の飲みっぷりを見て胸やけしているから今後も酒は飲まないと思う。


 親父の血が流れているオレだから、もし飲めば酔っぱらって隣の家に入り込んで寝るかもしれない。

 なぜか裸になったまま畑で寝ているかもしれない。


 今にして思うけどよく村を追い出されないな、あの親父。


「さ、約束通り報酬の分配よ。ルオン君は銀貨二枚……といきたいところだけど、銀貨三枚ね。武器代は私の奢りよ」

「……どういうこと? 武器代との差し引きで銀貨二枚じゃ?」

「野営の時、ルオン君が寝た後で皆で話し合ったのよ。ルオン君がいなかったらあのままジリ貧で負けていたか誰かしら死んでいた。ここで評価しないのは冒険者として目が曇っているってことよ」

「こんなに……」


 初めて手にした銀貨が重く感じた。

 銀貨一枚あれば村全体の数か月分の生活費を賄える。

 村暮らしは王都暮らしと違って水洗や下水道なんかの設備がないから、大したお金はかからない。


 夜は早々と寝るから灯りに使うランプの消耗も少ない。

 不便さと引き換えに安く済んでいるとはいえ、それでもそんな暮らしの数か月分だ。


 とは言ってもオレは村に生活費全般を送ることを村長に禁じられていた。

 お前が稼いだお金は自分の未来に使え、だそうだ。


 それに送金したところで親父の酒代に使われるのが癪だとも言っていた。

 それはオレも同意する。


「ルオン、改めて礼を言うよ。そして突っかかってごめんな」

「サーフ、戦ったのはあんたを含めて全員だよ。突っかかってきたのは猛省してくれ」

「そうだな。ルオン、俺は気づいたんだよ。俺はお前に対してあまりに誠実じゃなかった(そう、お前の気持ちを軽んじていた)」

「嫌な予感しかしないから、それ以上喋らなくていいよ」


 あぁ、わかってる。何が言いたいのか、よくわかる。

 サーフ、それは口に出すな。


「ルオン、お前とオレはライバルだ。お前を対等な恋敵として認める」

「だから喋らなくていいっつっただろ」

「お前の年齢だとそういうのはちょっと照れ臭いよな。わかるぜ、俺も初恋の時は認めたくなくて、つい意地悪な態度をとっちゃったからな」

「口を閉じろよ、めでたい席だぞ」


 あぁもうめんどくさい。

 あのまま死んでくれたほうがよかったんじゃないか?


「ルオン君、サーフの戯言はいつものことだから気にしないでね(後で七、八発くらい殴っておこうかしら)」

「ネリーシャとサーフは常に一緒に行動してるわけでもないんだろ? なんでこんなに惚れられているんだ?」

「それが私の行く先々になぜかいつもいるのよ」

「こわっ!」


 それは話に聞いたストーカーってやつだろ。

 七、八回くらい殺してやれ。


 しかもオレを巻き込みやがって。オレは面倒ごとは嫌いなんだ。何が恋敵だ。

 サナといいこいつといい、恋愛をやりたいならグループを作って勝手にやってくれ。


「ネ、ネリーシャ。俺は確かに不甲斐無い男かもしれない。でも君を想う気持ちは本物なんだ(見捨てないで見捨てないで見捨てないで)」

「前の町で断ったはずよ。腕が立つからあなたとパーティを組むことはあるけど、それ以上でもそれ以下でもない」


 ここまで拒絶されたら、オレなら自分から離れるけどな。

 たぶんサーフみたいな人間とは一生分かり合えないんだろう。

 オレがドリンクを飲んでいると、グラントさんが俺を凝視してくる。


(このルオンは末恐ろしいな……。俺はこいつが怖い)

「グラントさん、あの時はフォローありがとうございました」

「お、おぉ。飲んでるか?」

「酒以外をね」


 オレが怖いなんて、グラントさんも酔っぱらっているんだな。

 あれは皆の勝利だし、オレより強い奴なんていくらでもいる。


 オレ自身は誰それより強くなりたいとかそんな願望はない。

 生きていければそれでいい。


 それよりドウマさんが今考えている切実な悩みのほうがよっぽど親近感がある。


(さっきから誰とも話せていない! 酒をちびちび飲んでごまかしているだけの時間だ! 冒険者は好きだが、こういう場はどうしても慣れん!)


 オレもどちらかというと苦手だ。

 おいしいものが食べられるなら話なんて適当にスルーするけどね。

 戦っていた時は大声を出せていたのに不憫な人だ。


 今日は銀貨の他に刃速の巨王蛇の鱗や刃をもらった。

 強い魔物から採れた素材で武器や防具をパワーアップするのが冒険者の定石らしい。


 だから強い冒険者ほどいい装備を身に着けている。

 オレは明日、ガントムさんのところに行く予定だ。

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