表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/85

冒険者っていかれてるな

 出発前夜、オレ達は冒険者ギルドに集まって最後の会議をしていた。

 オレ、ネリーシャ、エフィ、サーフ、グラントさん、ドウマさん。

 ネリーシャによると、どうやらこのメンバーがこの町の冒険者ギルドで一番強いらしい。


 そういえばグラントさんが言ってたな。

 他の冒険者のほとんどはろくに訓練もせずに駄弁ってばかりだって。

 他人の生き方にケチをつける気はないし、それでオレ達に仕事が回ってくるなら素直に喜ぼう。


 刃速の巨王蛇の生息地はこの町の東にある森林地帯だ。

 全長だけでも民家数軒に巻きつけるほどで、巻き付かれたらブラストベアでも絞め殺される。

 一度、国の気まぐれで討伐隊を派遣したけど半壊してからは失態ごとなかったことにしたらしい。

 国の討伐隊ってことは騎士団だろ? それを半壊ってどんな化け物だよ。

 と、誰もが思うから討伐しなきゃいけない。


「ネリーシャ、こういうのって国は永遠に放置するのか?」

「騎士団も常にカツカツだし、予算や人員を回せないって話よ。だから私達が儲かるんだけどね」

「だったら国は冒険者に頭が上がらないな」

「国は冒険者にあまり感謝なんてしてないと思うわよ。むしろ目の上のたんこぶくらいに思ってるんじゃないかしら」


 そりゃ冒険者ギルドなんて一大組織が国内で成果を上げてるんだからな。

 だからたまに優秀な冒険者を引き抜こうとするらしい。


 神託の儀もその一環だろうな。

 予め優秀なスキルや神器を与えられた人間を引き抜いていく。

 ラークやサナみたいに喜ぶ人間ならいいけど、オレみたいなのはたまったものじゃない。


 神託の儀をやらなければ自由にさせてくれるというなら、オレは迷わずそっちを選ぶ。

 結果的にこの耳兜が神官達のお眼鏡にかなわなかったから助かったけど。


 最後の作戦会議はほとんど決まっているポジションと役割の確認だ。

 ドウマさんやネリーシャが先行で仕掛けて、サーフが別方向から奇襲。

 オレはというと、蛇腹剣の特性を考慮してダメ押しの止め役だ。


 ヘッドホンで敵の弱点を知ることができるとは伝えたから、出番は最後になった。

 つまり俺は皆が戦っている間にできるだけ早く弱点を見つけ出さないといけない。

 この場合は聞き出さなきゃいけない、か。

 ふむふむと考えていると、サーフが俺の肩に腕を回してきた。


「お前はそんなに身構えなくていいよ。気持ちはわかるんだけどな(わかってる。こいつはネリーシャにいいところを見せたいんだろ)」

「それはよかった」

「俺はハッキリ言ってネリーシャにあんな勝ち方をしたお前が許せないが、共闘に私情は持ち込まない。ただお前にいい恰好をさせる場面がないってことを明らかにしてやる(俺は大人だからな、大人だ大人だ大人だ)」

「いいよ。その代わりオレは割のいい仕事をさせてもらうからね」


 つまりそういうことだ。

 サーフがネリーシャにいい恰好を見せるということは、それなりに活躍するはず。

 じゃあオレは大して苦労せず銀貨三枚、いや。武器の立替金を差し引いて銀貨二枚をゲットできる。


 なんだ、お互いの利害が一致してるじゃないか。

 サーフって実はいい奴だったんだな。

 めっちゃ私情を持ち込んでるけど。


「サーフ、下らないことでルオン君に絡まないで」

「ネリーシャ、これは下ることだよ。あのね、君はあんな勝ち方をされて納得しているのかい?」

「下ることってなによ。むしろ感心したわ。あれはルオン君の『まいった』を確認しないで油断した私が悪いのよ(つまらない男ばかりだったからね。いい刺激になったわ)」

「卑怯な手を使うことに感心しないでくれ。それにあの場面、まだ挽回の手はあっただろう?(俺ならできた!)」


 オレのために争わないでくれ。

 もう作戦はきっちり決まったんだから、後は明日に備えて寝るだけだ。

 今日はネリーシャが特別に宿代を出してくれるというから、少しだけ気分がいい。


 いびきや呪文が聞こえてくる激安宿なんかじゃ疲れがとれないというんだ。

 しかも呪文が聞こえてきたオレの隣の部屋は使われてない空き部屋らしいじゃん。

 世の中、不思議なこともあるもんだね。


「サーフは気にしないでね、ルオン君。なんか私に惚れてるみたいだけどまったく眼中にないからね」

「後半の情報って必要?」

「今日はあの激安宿に泊まっちゃダメよ。誰もいない部屋から死にかけた小動物の鳴き声みたいないびきが聞こえてくるとか、色々言われてるからね(無料でもあんなところお断りよ!)」

「呪文だけじゃないの? まさかのサイドアタックかな?」


 不思議なことはさておき、今日はふかふかのベッドで寝られる。

 オレは極論、床と地面さえあればどこでも寝られるけどたまにはいい宿で寝るのもいいか。

 宿代を節約していたとネリーシャに言ったら、睡眠の質が落ちると戦いのコンディションにも関わると言われた。

 先輩の助言はありがたく受け止めて、お金に余裕ができたら少し宿のグレードを上げようと思う。


「それよりネリーシャ。討伐戦だけどさ、本当にオレはエフィを守りながら後方待機でいいのか?」

「そうね。極端な話、エフィさえ生きていればある程度の立て直しはできる。そのために逃走経路も打ち合わせしたからね」

「逃走も視野に入る化け物かー」


 改めて考えたけど、オレはとんでもない化け物を相手にしようとしてないか?

 実はちょっとだけ後悔してるけど、引くに引けない。


 今のオレは経験と引き換えに命を差し出そうとしてるに等しいわけで。

 冒険者っていかれてるな。

ブックマーク、応援ありがとうございます!

「面白い」「続きが気になる」と思っていただけたなら

ブックマーク登録と広告下にある☆☆☆☆☆による応援をお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] >> しかも呪文が聞こえてきたオレの隣の部屋は使われてない空き部屋らしいじゃん。 え…、こわっw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ