面白い武器だ
「蛇腹剣?」
ガントムさんから渡されたのは、蛇腹剣という武器だ。
名前を知らなかったら鞭剣と呼んでいたと思う。
一見して普通の剣だけど、長さは二倍近い。振ると鞭状に変形する。
うん、口で説明できる自信がない。
「耳兜、持ってけ(頑固な鍛冶屋その七。説明は手短に、だ)」
「いや、説明してくださいよ。これ、どういう武器なんですか?」
「簡単に言うと剣と鞭の性質を併せ持つ。特別製のワイヤーが通ってるから、お前が思った通りの変幻自在の軌道を実現できる(説明できてるか自信ないわ)」
「なるほど。わからん」
自分で作っておいて自信がないってどういうことだ。
この人、本当に腕がいい鍛冶師なんだろうな?
てっきり槍だの弓を渡されると思っていたから、どう事実を受け止めていいかわからない。
実際に手渡されたら、刃が鞭みたいにだらりと下がってめっちゃびびる。
「うおぉっ!」
「いや、作った本人が驚かないで下さいよ。これ本当に大丈夫なんですか?」
「俺には扱えないしこんなもん渡されたらたぶんキレるが、お前のために作った(俺は間違ってないっ!)」
「オレもキレるかもしれませんよ」
改めて手にもってじゃらじゃらと動かすと、不思議な心地がある。
確かに異質な武器だし誰がこんなもん使うんだと思うけど、手に馴染む感覚があった。
手首を軽く動かすと、その鞭みたいな揺れで発生した空気の動きが音として伝わってくる。
不思議と頭の中にその軌道が思い描かれた。
文句を言ってしまったけど、これもしかしてとんでもない武器なんじゃ?
普通の剣と違って気をつけるべきことはあるけど、メリットのほうが多い。
「耳兜君、それ見てるとちょっと怖くなってくるよぉ」
「あぁ、確かにそれはある。普通の剣よりも、より殺傷力を高めているせいだろうね」
エフィの言う通り、こいつで斬られたらかすり傷でも危うい。
刃が続け様にヒットすれば二重、三重にもなって傷口がえぐられる。
なかなか自然治癒もしない負傷の仕方をするから、武器というより処刑道具といったほうがしっくりくるな。
それを考えるとこのガントムさん、腕がいいどころか奇天烈すぎる。
なんでオレを見てこれを作ろうと思ったんだ?
もしかしたら、そういうスキルを持っているのかもしれない。
「ルオン君、どう?」
「ネリーシャさん、これ悪くないよ」
「その形状の武器を持たされてそう答えるのね。やっぱりガントムさんは天才よ(それにしても見れば見るほど寒気がする武器ね)」
「討伐までまだ余裕があるから、こいつを使いこなせるように訓練するよ」
オレは蛇腹剣を鞘に納めた。
通常の真っ直ぐの剣にもなれるし、鞭にもなれる。
癖しかないけどワクワクしてきた。
* * *
蛇腹剣を買った日からオレは冒険者ギルドの訓練場で訓練に明け暮れた。
この蛇腹剣、振ってみると予想以上にしなる。
弧を描く軌道がすごく綺麗で、それでいて荒々しい。
油断しているとこちらに刃が跳ね返ってくるから、手なずけるのに苦労する。
オレは毎日、ひたすら蛇腹剣を振っていた。
いわゆる剣術でいう素振りだ。
基本の型を自分なりに作りつつ、応用にも発展させる。
通常の剣じゃあり得ない動きで攻撃範囲が広がるのがたまらなく楽しい。
そんなオレを奇異な目で見る冒険者達がいるけど気にしない。
(気持ち悪い武器だな……)
(あんなもん実戦で使いものになるかよ)
(そういやあいつを相手にした受付嬢いなくなったなぁ)
あの受付嬢は今頃、どこで何をしてるんだろう?
どうなっていても自業自得だし、オレには関係ない。
「ルオン君! おはよっ!」
「エフィ、やっと名前で呼ぶ気になったのか」
「ネリーシャさんがちゃんと名前で呼べっていうからぁ」
「お前は暇そうで羨ましいな」
オレが行くところにエフィあり。
いつもこうだ。最近は常についてくる。
しかもこのエフィ、ネリーシャとパーティを組んでいるわけじゃない。
たまたまこの町で知り合っただけと聞いて驚いた。
「鞭蛇どう?」
「鞭蛇言うな。蛇腹剣はいい武器だよ」
「いいなぁ。私なんか未だに神器すら使いこなせないんだもん」
「その本か?」
「うん」
エフィのサモンブックには様々な召喚獣が書かれているけど、ほとんど呼び出せていない。
つい最近になって回復をもたらすケットシーを呼び出せるようになったみたいだ。
だから神託の儀では子犬みたいなウルフを呼び出して失笑されたらしい。
「うるふ!」
「いや、なんでここで呼ぶんだよ」
「わんっ!」
エフィがペットと戯れ始めた。
邪魔になるから端に寄ってくれ。
再び一心不乱に訓練しているとグラントさんがやってきた。
「やってるな。やけにがんばってるじゃねえか(意外と根性ありそうだな)」
「グラントさんも訓練?」
「まぁな。何せでかい討伐があるんだ。四六時中、冒険者ギルドで駄弁ってる奴らにゃ任せられねぇ仕事がな(あいつらマジでやる気ねぇわ)」
「楽しそうで何よりだよ」
最初はオレを煙たがっていたグラントさんも、最近はこうやって声をかけてくれる。
冒険者ギルドのテーブル席でのんびりしている人達とは違って、よくここで訓練をしていた。
「そろそろオレが模擬戦の相手をしてやるよ(お手並み拝見だな)」
「頼むよ」
「もちろん目つぶしとかはやめてくれよ?」
「わかってるよ」
オレは毎日のようにグラントさんと模擬戦をした。
歳は離れているけどお互いにいい汗を流せている。
そして嬉しいことに蛇腹剣のおかげでグラントさんといい勝負ができていた。
「ま、まいった! そいつはやばすぎる!(このオレがぶるっちまったよ)」
「対戦ありがとうございました」
それどころか一勝をもぎとったこともあった。
さすがにこんな年下の小僧に負けて穏やかじゃいられないみたいで、グラントさんはかなりショックを受けている。
それでも観念したように笑って握手をしてくれた。
これが大人って言うんだろうな。
トイレ掃除ジャンケンで負けたからって、ふてくされて半日くらい家出するどこかの親父とは大違いだ。
訓練後の夜は討伐会議。これが何日も続いた。
刃速の巨王蛇はブラストベアが抵抗できずに切り裂かれる災害みたいな魔物と聞いてオレもぶるった。
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