自己紹介とオレの新武器の提案
オレのせいで冒険者ギルドの空気がかなり悪くなったから、場所を変えた。
一応、申し訳ないという感情はある。
比較的静かな町の広場にて、オレ達は改めて自己紹介をすることにした。
討伐するにも、お互いのことを知らないと作戦も何もないということだ。
「私はネリーシャ。スキルはアクセラレイター。一瞬だけ速度を爆上げできるの(昔はなぜかクソスキル扱いされたっけ。なつかしいわ)」
「なるほど。そりゃ速いわけだ」
もちろんネリーシャの強さがすべてスキル依存とは思わない。
速さだって裏打ちされた経験がなかったら宝の持ち腐れだ。
オレは素直にネリーシャを認めている。あんな勝ち方をした分際だけどね。
「私はエフィ! スキルじゃなくて神器! サモンブックに載っているいろんなのを召喚できるの! あと魔法が少し使える!」
「召喚……」
「でもなんか全部が召喚できるわけじゃなくてね。理由はわかんない」
「そうか」
そんな珍しい神器がありながら冒険者を?
よくラークとサナみたいに王都に召集されなかったな。
今は少なくともウルフ以上のものを召喚できないってことか?
オレが疑問を抱いていると、エフィがサモンブックを開いた。
「さもんっ! うるふっ!」
「きゃんきゃん!」
エフィがサモンブックから呼び出したのは子犬だ。
うん、かわいい。どう見ても強そうには見えないな。
だけどこれで討伐隊のメンバーなのか?
だとしたらオレの頑張りはなんだったんだ?
「エフィは他にも回復できる生き物を呼び出すことができるの。いわゆる後方支援ね(はあぁわあわん! いつ見てもかわいいっ!)」
「あ、そういうことか」
子犬をもふりながらネリーシャは真面目な顔で解説してくれた。
あの、もしかしてだけど。そのせいでエフィだけ贔屓してるってことはない?
でもサナもそうだったけど、回復系のスキルはマジで貴重らしいからな。
やっぱりエフィが召集されなかった意味がわからん。
「次は俺の番か。俺はグラント、スキルは剛力だ。人よりちょっとだけ強い力が出せるってだけだな。だが俺はこれだけで今まで生きてきた(クソッ! 犬かわいいな!)」
「グラントさんは十六年間も冒険者として戦ってきた猛者よ。頼りにする人は多いわ(かわかわかわいい)」
「よく言うぜ、ネリーシャ。今のお前の実力はオレと大して変わらんだろ(もふもふさせてくれぇ)」
「そうかしら?(もふもふもふもふ!)」
エフィ、うるさいからその犬をしまってくれないか?
どいつもこいつも心ここにあらずじゃねえか。
確かにかわいいけどさ。
「俺はサーフってんだ。スキルは気配減少。ほんの少しだけ存在感を薄めることができる斥候向けのスキルだね(あぁぁネリーシャ今日もかわいいなぁ終わったらデートしてくれないかなぁ)」
「サーフのスキルは応用が利くから頼りになるわよ(もふもふもふ)」
「俺の中ではネリーシャの存在感がやばいね(もういっそ結婚してくれないかなぁ)」
「そう、よかったわね(男よりうるふちゃんよねー)」
こっちはこっちでうるさいな。
しかも心の中で振られてんじゃねえか。
あんた、犬に負けてるぞ。
これで自己紹介は終わりか? いや、一人いたわ。
「……ドウマ。スキルは堅牢(ネリーシャ! フォローを頼む!)」
「ドウマさんの堅牢は守りに特化しているの。戦いではいい壁役になってくれると思うわ(この人、強いんだけど口下手なのがねぇ)」
やっとまともな人が出てきた。
余計なことは言わないその姿勢がかっこいい。
親父があんな感じだったから、どうもオレはこういう無骨な人に憧れる節があるな。
「じゃあ、最後はルオン君よ」
「え? あぁ、そうだね。名前は知っての通り、ルオン。神器は耳兜。なんか音がちょっとだけよく聞こえる」
「それだけ?」
「はい。ひどすぎて王都からの使者達にも呆れられました」
「音ねぇ(それで私の動きにかろうじて反応できたのかな?)」
よかった。誰も疑っている様子がない。
しかも耳兜で通すことに成功したよ。オレ、やったよ。
「おう、耳兜の小僧。ネリーシャに勝ったつもりかもしれんが、お前はこの中で一番弱い。それを忘れるな(見所はある。あるが、なんというか……こいつは……)」
「グラントさん、わかってますって」
グラントさんからの好感度は今一か。
まぁそれはどうでもいい。問題はこっちかな。
「ルオン君よ、俺のネリーシャにクソみたいな手を使って勝ったのは生涯忘れないからね?(それでなくてもネリーシャがこんな子どもに惚れるわけがない)」
「そ、そうっすか」
危うく俺のネリーシャ発言に突っ込むところだった。
本人もスルーしてるから、オレも黙るべきだろう。
「さ、あらかた自己紹介が終わったところで次の話よ」
「作戦とか?」
「それもあるけどまずはルオン君、あなたよ」
「オレ?」
「あなたの武器の新調よ。そのままだと確実に死ぬわ(それだけじゃないけどね)」
おおう、それは盲点だった。
これはバンさんからもらった剣で、ずっと使っていたからな。
刃こぼれもあるし、確かに疎かにしちゃいけなかった。
「じゃあ、武器を買いにいく?」
「そうじゃなくて。あなたと戦ってわかったけど、武器と人が合ってない(そう、この子は普通の剣以外の武器を使うべきよ)」
「じゃあ、普通の剣以外の武器を使ったほうがいいと?」
「物分かりがいいわね。そういうこと。だから今から鍛冶屋に行くわ」
そりゃ物分かりがいいさ。
でも意外なことを言われたな。オレと剣が合ってない?
言われてみれば、なんとなくで使っていた感じはある。
「なるほどな。確かに耳兜の小僧には剣は合っていないかもしれんな(ふむ、さすがネリーシャだ)」
「グラントさん、普通にルオンって呼んだほうが短くないですか?」
余計な突っ込みを入れてる場合じゃない。
剣じゃない武器って例えばなんだ? 槍? 斧? 弓?
「この町にとびっきり腕がいい鍛冶師がいるの。私の武器も作ってもらったのよ(ちょっと偏屈だけどね)」
「その鍛冶師って頑固でいかにも職人って感じじゃないか?」
「よくわかったわね」
そりゃわかるさ。
職人ってやつは仕事に打ち込みすぎて、それ以外のコミュニケーションが疎かになった奴らだって親父が言ってた。
とんでもない偏見だなと思ったけど、やっぱりそうなのか。
職人達も親父に言われたくないだろうけどな。
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