表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/85

神器、その名はヘッドホン

 今日は神託の儀。

 オレ、ルオンは十三歳になった時に神器を授かるかスキルが芽生えることになっている。

 人は生まれた時に神から贈り物をもらっているんだけど、それが13歳になるまで眠ったままなんだとか。


 今年の対象者はオレ―ルオンを含めて三人。

 オレと幼馴染の二人、ラークとサナだ。

 この人口五十人にも満たない村にもわざわざ国の神官と兵士達はやってくる。


 遠征費も税金が使われているのかなとか余計なことを考えながら、始まるのを待っていた。


「ルオン! 俺にすげぇスキルか神器が与えられたらどうする?」

「すごいなって思うよ」

「事と次第によっちゃお前は一生、出世できずにこの村に骨を埋めることになる! ざまぁねぇな!ギャハハハハ!」

「おう、お前は立派になれよ」


 ラークは昔からオレによく突っかかってくる。

 こいつが俺に話しかけてくる動機は九割九分マウントだ。


 最初はむきになって言い返していたけど、今は軽く流せるまで成長した。

 言い返すよりも適当に煽てたほうが面白いと気づいたのが八歳の時だったかな。

 そしてこんな流れになると必ず止めに入ってくるのが――


「ラーク! やめなさいよ!」

「おいおう、お熱いことで! ルオン! お前、女に庇われて情けない奴だな!」


 サナはいつもオレを庇う。

 サナは大人達からも将来は美人になると褒められている。

 村人の中でサナの結婚相手はオレかラークかで派閥があるほどだ。

 正直、どうでもいい。

 この物臭な性格はたぶんだけど、こんな時ですら酒を飲んでいる親父に似たんだと思う。


「ルオン! 酒製造スキルを頼むな!」

「もしそんなスキルだったら親父に酒を売りつけて暮らそうかな」

「おぉ、そりゃナイスだな! 最後は息子の酒で死ぬのも悪くねぇ!」

「この飲んだくれが」


 自分が死ぬ時は酔っぱらって崖に転落するか、アルコールに殺されるかだと豪語するだけある。


 品性も遠慮もない親父は村中から白い目で見られているし、もちろん城から来た公務従事者達からも同じ目で見られてる。


「こ、こほん! ではさっそく神託の儀を執り行う! ルオン! ラーク! サナ! こちらへ!」


 この神託の儀、大層な力が芽生えると思いがちだけどそうとは限らない。

 少し考えれば分かる通り、そんなにすごいものならこの村の大人達はとっくに畑仕事なんか止めている。

 つまり大半がしょうもないスキルが芽生えるだけだ。

 ちなみに神器はほぼ見ないらしい。


 隣の家のノビンさんは「鼻食」スキルだ。鼻で食事ができるスキル。以上。

 鼻でスパゲティをすすって幼少のオレを笑わせてくれたいいおじさんだよ。


 そんな惨状なのに国はお金をかけて、わざわざこんな村にまで神官と兵士達を送り出す。


「じゃあ、最初は俺だ!」

「ラークか。では始めよう」


 堂々と立つラークの前で神官が呪文を唱えた。

 ラークの体がカッと光って思わず目を閉じてしまう。


「ビ、ビックリした……ど、どうなったんだ? え? なんだこの剣?」


 大剣がラークの手に握られていた。

 いつの間に?


「か、鑑定しよう」


 神官が剣に手を当てた後、驚いたようにして目を開く。

 護衛の兵士達も動揺しまくっていた。


「し、神剣エクスカリバー! 万物を切り裂くことができる! しかも絶対に盗まれないし壊れない! こ、こんな村の子どもが、伝説の剣を!」


 よくわからないけど、ラークの奴にとてつもない神器が与えられたらしい。

 まさに神から与えられた剣というやつか。


 でも神器は心と書いて心器とも言うらしい。

 この場合、心の剣というほうが正しいのかな? どうでもいいか。


「ラーク! すごいじゃない!」

「ありがとな! サナ! お前はあまり気負うなよ!」

「えぇ! でも私もそんな神器がいいわ!」


 次はサナの番だ。

 そしてサナには神器じゃなくて「回復」スキルが芽生えた。


「回復スキル! 高位の回復魔法と同等でありながら、魔力を一切消費しない! しかも成長すれば踊っただけで周囲を癒せるようになる!」


 スキル。ものによっては魔法を凌駕するものもあると聞いた。

 今回のサナの回復スキルは、あらゆる回復に関するスキルが使えるようになるんだと思う。


 それならラークの言う通り、こんな村で骨を埋めるべきじゃないのかもしれない。

 というか神官達はそういうスキルを待っていたんだと思う。


「サナにラークといったか。城へ来てもらいたい。陛下のお眼鏡に敵えば、いい役職が与えられるだろう」

「望むところだぜ! なぁサナ!」

「もちろんよ!」


 神官や兵士達、ラーク、サナ。村人達が大騒ぎだ。

 二人を取り囲んでちやほやして、今夜あたり宴でもやるかもしれない。

 おいしいものが食べられるならオレとしては大歓迎だ。


「神官。あと一人、残っていますよ」

「ん? おぉ、忘れていた」


 いや、面倒なら別にやらなくてもいいんだけど。

 消化試合と言わんばかりに神官がオレに手をかざす。

 ラークの時と同じように一瞬だけ光った。光ったけど微弱だ。


「……む? レオンだったかな。何か頭に身に着けているな」

「ルオンです。名前まで忘れないでください」

「すまない。で、それは?」

「あ、これなんですかね?」


 気がつけば頭に何か被っていた。

 これは兜か? だけどそれにしては貧弱だ。

 耳の部分が丸く保護されているけど、それ以外はほとんど守られていない。


 耳を守っている円形部分は布か何かで出来ているのかな?

 これが薄くて細い弯曲した板で繋がっているだけだ。


「ひとまず鑑定してみよう。はぁ……」

「露骨にため息つくほどだるいなら別にやらなくても」

「……ヘッドホン」

「はい?」

「ヘッドホン。音がよく聴こえるようになる。絶対に盗まれないし壊れない。以上」


 そうか。それはよかった。

 神官含めてモチベーションなさそうだし、これで神託の儀は終わりだ。

 元々期待してなかったし、スキルや神器なんかよりも生きていく力があればそれでいい。


 あそこで鼻をほじってなんか飛ばしている親父から教わったことだ。

 今日はこれでお開きお開き――ん?


「ギャハハハハハ! ルオン! なんだそりゃ!(ルオン、マジかよ。だけどお前はそこでへこむような奴じゃないだろ?)」

「ル、ルオン。落ち込まないでね。私は笑ったりしないわ(あーあ、キープしておいたけど無駄だったかな?)」


 オレの聞き間違いか?

 いや、こいつらの声は確実に聞こえている。

 じゃあ、今のは一体?

主人公最強とか最強無双みたいな作品ではありませんが

面白そうと思っていただけたら

ブックマーク登録と応援ptのほうを入れていただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ