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調子に乗ってやらかす少年

(12)調子に乗ってやらかす少年


武は二度目のテロリストの捕獲に成功して喜んでいる。

一方、お菊さんは武を見ていて気になることがある。


― この子は倫理観と危機感がない・・・


この年代の子供に『命を大切に!』と言っても響かないのだろう。

それに、今日も前鬼を2回殺しかけたのだから人の事は言えない。

倫理観に関してはこれから学んでもらうことにしよう。


確かに、新しいスキル(原子の操作)が使えるようになって武が嬉しいのは分かる。

でも、好奇心が危機感を大きく上回ってしまい、危険を顧みず実験しようとするのはさすがに良くない。

お菊さんが小言を言っても武は聞きそうにない。

だから、今回のテロリストとの戦闘で気付かせる方がいいのだろう。

武には、死なない程度にピンチに遭ってもらわないといけない。


お菊さんは武が次のテロリストに仕掛ける時に、こっそり後ろからついて行くことにした。


***


武は二度の成功体験から強気になっている。


これならレールガン(電磁砲)も出来るんじゃないか?

そう武は考えている。


レールガンは正確には『電磁レールガン』と言って、電力と磁力を使って弾を撃つ技術だ。

つまり、磁場のなかで電気を流すと力が発生する『フレミングの法則』を応用して弾を動かす。


武は原子から自由電子を取得できるかを試してみた。こっちは問題なくできそうだ。

磁力に関しては、磁石を使うか、電流を利用して磁力を作るかどちらかだ。


武は初歩的なことに気付いた。


― あっ、磁石がない・・・


磁石が無い場合は電流を流して磁力を作るしかない。

代表的なのは伝導体に電流を流して磁力を発生させる方法だ。


レールガン(電磁砲)は比較的単純な構造をしている。

伝導体2本とその間に飛ばす弾(弾も伝導体)を用意して電流を流す。そうすると、磁場が発生し弾に力(ローレンツ力)がはたらく。『フレミングの法則』と同じ原理だ。

だから、磁石を用意しなくても電源と伝導体を用意すればレールガンは作れる。


【図3-2:レールガンの仕組み】


挿絵(By みてみん)



レールガンを作ろうとして、武はまた気付いた。


― あっ、伝導体がない・・・


道端に都合よく長い針金が落ちているわけないし、道端に都合よく磁石が落ちているわけがないのだ。


針金と磁石はコンビニに売ってないだろう。

ホームセンターに買いに行くべきだろうか?

そんなことをしていたら、ピーチ・ボーイズが逃走してしまうかもしれない。


原子を合成して金属をつくるべきか?

レールガンを飛ばす量を作るのは時間が掛かりそうだ。


自力でレールガンを作れるか、武は試案している。

そして武は一つの結論に達した。


― レールガンを用意するのに時間が掛かり過ぎる!


レールガンでなくてもテロリストを倒す方法はあるはずだ。

武は単純な解決方法を思い付いた。


― 感電させればいいのではないか?


武はテロリストの一人をターゲットに絞った。そいつは窓に手をついて外を眺めている。

窓枠は鉄の柵と繋がっているようだから、近くまでいけば感電させることができそうだ。


武はテロリストの死角から鉄の柵まで移動した。

安全に配慮しながら、少しの電子を鉄の柵に流し込んだ。


「痛!」

武とテロリストは同時に叫んだ。


武は危うく意識を失いそうになった。テロリストもフラフラしているが体が大きいためダメージは武よりも少なそうだ。


武はすっかり忘れていた。

電気は絶縁体を持っていないと感電する・・・。


武に気付いたテロリストは自動小銃を武に向けた。


― やばいっ 撃たれる・・・


武はリチウム弾をテロリストに撃ち込もうとするが、テロリストの方が一瞬早かった。


“ドドドドドドドドド”


武が目を瞑った瞬間、武の周りに水の膜が飛んできた。

テロリストの撃った弾はその膜に遮られて軌道が逸れた。


― 助かった・・・


武は無事を確認するとリチウム弾をテロリストに撃ち込んだ。

すると、テロリストは壁まで吹っ飛んで動かなくなった。


武が後ろを振り向くとお菊さん立っていた。少し怒っているみたいだ。


「だから、危ないって言ったでしょ」


「ごめんなさい・・・」

武は反省しているように見える。


「自分の実力を過信したらダメよ。確実に敵を倒せる準備をしてから、一撃で倒しなさい」お菊さんは優しく言った。


「分かったよ。助けてくれてありがとう」


「さっきは何をしていたの?」お菊さんは武に聞いた。


「レールガンを試したかったんだ。だけど材料が足りなかった・・・」


「レールガン・・・。ホームセンターに買いに行く?」


「ピーチ・ボーイズが逃げちゃうでしょ。仕方ないからテロリストを感電させようとしたんだけど、自分も感電した・・・」


「危ないことするわね。電子は気を付けないとダメよ。気絶するわよ」


「気を付けるよ・・・」

武は小さく言った。


― 反省したのだろうか?


お菊さんは不安を感じながらも、武が無事だったことに胸を撫で下ろした。


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