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ベイロンドの魔女  作者: 路地裏の喫茶店
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第二十五話



 

 何時間が経っただろうか…日は既に傾き、もう少しでその姿を隠そうとしている。私達はもう無言でシェナをひたすら目指していた。初めてシェナに徒歩で来た時も随分時間がかかった。ほうきの魔法といってもそれなりに時間がかかる。


「――もう少し…ね」


 前を飛ぶリィディが後ろを向かずに呟いた。遥か前方にスターク峡谷が見える。あの峡谷を越えればシェナはすぐだ。


 シェナについたらどう行動するか――。それは私達が既に練り、話し合った事であった。


 そもそも事の始まりは急すぎる町長さんの変貌ぶりだ。意志の強そうな人ではあったけど、私が見た時は魔女狩りだなんて事を考える人のようには思えなかった。あのミシェランの凶行を精霊や魔法の存在を知らない普通の人間が見たら、そう考えるのは当然なんだろうか…。

 

 でも遠目に見ただけだけど、セラノやアバンテも何だか人が変わってしまったようだったと強く主張していた。私とリィディ…つまり魔女としてはその話に何か暗い影、気配を感じるような気がしてならなかったのだった。


 もっと詳しい町長さんについての情報が知りたいと思った。それに町長さんの魔女狩りの決行を阻止しようとした少年団の皆がどうなったのかが、非常に気になる。彼等は話を聞き入れてもらえなかった。それだけで済んだのだろうか?


 秘密裏に決行を決めた有志の人達を除けば、変貌した町長さんと近しく話し合いをしたのは彼等だけだ。だからまずシェナに着いたら彼等に会って、実際に町長さんがどのようにして変わってしまったのか聞き出す必要があるという事に決まったのだった。




 日が落ちきって街は家々の灯すランプに染まった。久しぶり、そんな感じのするシェナの夜。ミシェランに火をつけられた建物も修復が始まっていて、何もかもが紅く染まったあの悪夢の面影を、少なくとも建物だけは拭い去ろうとしていた。


 セラノはまずセラノのお父さんとマンカートさんに事の次第を話すつもりだった。私とリィディもいくら夜とはいえ、魔女がシェナの街をうろうろしていてはあの惨劇を私達のせいだと思っている人達に何か危害を及ぼされる可能性もあるので、一旦セラノの宿屋に身を寄せる。


 明るいメインストリートから逃れ暗い路地裏を通り、遠回りしてセラノの宿屋に着いた。入り口に入りカウンターまで来たが、人はいない。カウンター奥の宿主部屋から部屋の明かりが洩れ、奥の食堂からは何人もの人達の話し声が響いていた。


 セラノは私達を振り返り口に人差し指を立てると、黙って着いてくるように促した。部屋の中に入るとこちらを背にして椅子に腰掛けている大柄な女の人――マンカートさんがいた。


「母さん」


 ふいに名前を呼ばれたマンカートさんは、少し驚いた様子でこちらを振り向き、そしてあっと驚いた顔をした。


「ラ…!」


 慌ててマンカートさんの口をふさいだセラノは、そのまま彼女の耳に口を近づけささやいた。


「母さん、大事な話があるんだ。食堂にいる父さんも連れてきてくれないかな」


 マンカートさんは驚きの様子を隠せないままセラノのお父さんを呼びに消えた。




 部屋に入ってきたセラノのお父さんは、私を見るなり無言で手を握り締めた。力強く暖かい手がしばらくの間何度も手を握り返すと、お父さんは深々と頭を下げた。


「…ランちゃん…君のお陰でセラノが助かった。何度お礼を言っても言い足りないよ」


「あたしもずっとランちゃんにお礼を言いたかった。…本当にセラノの為にどうもありがとう」


 マンカートさんもお父さんの後ろからそう言った。私は何と言っていいのかわからず、少し気恥ずかしかった。


「…父さん、母さん、よく聞いて。ランが再びシェナに来てくれたのは訳があるんだ」


 セラノは説明を始めた。







「なんだって?町長が魔女狩り…ランちゃんを?」


 セラノのお父さんは信じられないと言った顔でセラノと私の顔を交互に見た。町長さんの魔女狩りの件はセラノ達少年団がこっそり手に入れた情報であって、一般のシェナの人には知らされていないから当然の反応ではあった。


「何てことだ…いや…しかし…最近の町長の様子は私も変だと思っていたんだ。もしかしたら…やりかねん…。実はランちゃんには言いにくい事なんだが街の人間にも半分ほど、あの火災はランちゃん達魔女のせいだと主張する連中がいるんだ。

 町長はそう強く主張する者をこっそり集めて扇動したんだろう…何故あんなに町長は人が変わってしまったんだろうな」



「その事なんですけど」

 後で話を聞いていたリィディが言った。


「私やランは魔女ですから、万物を司る精霊の動きなどを感じる事ができるのです。また五感が普通の人間よりも少しだけ発達していて、明確には言えませんが漠然とした感覚で、ものの変化を感じ取る事もできます。


その…私達は最近シェナに再び何か悪意のある何かを感じて(もちろん魔女狩りを止めてもらう為にも)やってきたのです。私一人ならあるいはそれは勘違いですむかもしれませんが、ランやもう一人の魔女もそれを感じるというのです」


「……そ、そうなんですか?」

 セラノのお父さんは話を聞いたものの今ひとつわからないといった表情。


「…つまり…例えば町長さんの変貌ぶりにもその感覚が関係しているかもしれないっって事かい…?」

 マンカートさんも口をはさむ。


「そうです、マンカートさん」

 私はマンカートさんに頷いてみせた。


「私も話に聞いていて、町長さんが魔女狩りだなんて強攻策を、しかも町民には秘密で行うなんて事が最初信じられなかったんです。だから…もしかしたら町長さんは例えば…何か悪い精霊にとり付かれていたりするのかもしれません」


「なんだって!そんな事がありえるのかい」


「ええ…ありますよ。精霊の中には悪意のある精霊というのも存在しますから」


「だから私達、町長さんが実際にどんな風に変わったのか、魔女狩りの件で町長さんに嘆願に行った少年団の皆に聞いて情報を集めてみようと思ったんです。あるいはその情報から、町長さんがとり付かれてしまったのかどうか判断できるかもしれないから」


 私がそう言ったとき、セラノは隣でぎょっとした顔をした。そのセラノの顔を見たセラノのお父さんは、


「嘆願?セラノ、少年団の皆とニ、三日キャンプに行くんじゃなかったのか?」


「い、いやその、それは…」


 後から聞いた話だったのだがセラノとアバンテは、少年団の皆が町長に嘆願しにいくという計画を、両親にはキャンプに行くと言う事で隠していたらしい。

 子供達だけで嘆願などと言う事を親達が許す筈がないと思ったからだという。その事を聞いてなかった私は、その事をうっかり口走ってしまった。しどろもどろになるセラノ、しかしそこに――。



「セラノ――!」


 ドアの開く音がすると、そこには少年団の一員である二人の少年――ユンとキリルがいた。


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