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0009.幹部クラスが序盤に単騎で襲ってくる

「残党狩り?」

 翌朝。

 俺達のテントにやって来たアインゼルは、そんな話を始めた。

「ああ。昨夜、山賊の生き残りを見かけたという報告があってな。我々はしばらくここに留まり、山賊の残党を捜索しなければならない」


 願ってもいない展開に、俺とソフィアは目を見合わせた。

「城まで送ってやりたかったが、そうもいかなくなった。申し訳ない」

「いえいえ! 助けてもらったうえに、こんな大金まで頂いたのですから! もうここまでで十二分でございます!」

 アインゼルに平伏し、俺はそう言った。

 こちらで適当な言い訳をしなくても憲兵隊から離れられるのだ、このチャンスは逃せない。


「ここからなら、半日程で城に着くだろう」

「それでは、我々はすぐに出立させて頂きます」

 言うや否や、俺とソフィアはそそくさと荷物をまとめ始めた。




 兵士達の歓声に手を振りながら、俺達は憲兵団の野営地を後にした。

 野営地の外れには、台車が何台も並んでいた。

「おう、昨日の芸人じゃないか! もう発つのか?」

 台車の見張りについていた兵士が、声をかけてくる。

「ええ。大変、お世話になりました」

「いやいや、久々に楽しかったよ。いつかその剣、本当に抜けるといいな」

 冗談か本気か分からない口調で、兵士が笑う。

 俺とソフィアは、適当な愛想笑いでお茶を濁した。


 その時ふと、台車の中身が目についた。


 積まれていたのは、山賊達の死体だった。


「しかし、お前さん達も災難だったな。しばらく前から、この辺りで被害が相次いでたんだが……なかなか尻尾を捕まえられなくてな。アインゼル隊長が手を尽くしてくださって、ようやく退治できたのさ」

 そう言って、手に持った槍で死体の頭を小突く。

 叩かれた死体は、牢に食事を持ってきてくれた、あの男だった。


 俺は、言葉に表せない気分になった。


 悪事を成した者が処罰されるのは当たり前のことだ。

 憲兵団は正義を成した。そこに、疑問を挟む余地は一切存在しない。


 ただ、それだけでは割り切れない思いが、心の中に溢れていた。

「……行こう」

 ソフィアにそれだけ声をかけて、俺は歩き出した。




 木々の中を歩き続けて、二時間ほどが経った。

「そろそろ、一休みしましょうか?」

 ソフィアが休憩を提案してきた。

「ああ、そうしようか」

 同意して、俺達は近くにあった岩に腰を下ろす。


「トウマ様、山歩きには慣れましたか?」

 言われて気付いた。

 確かに、数日前よりはずっと疲れが少ない。

「うん。この世界に来てから、ずっと森か山の中だからな。さすがに、身体が慣れてきたみたいだ」

「そのうち、私が置いて行かれてしまうかもしれませんね」

 微笑むソフィアに、俺は頭をかいた。

「いやあ、ソフィアの方がまだずっと体力あるよ。だって荷物もほとんど持ってもらってるし。せめてその魔剣ぐらい、俺が持とうか?」


 男として恥ずかしく思うが、荷物を背負いながら山道を歩くのは、まだまだ無理そうだった。


「でも、魔剣を持ったら、また激痛を受けてしまうかもしれませんよ」

 ソフィアの言葉に、俺の中でふと疑問が生じた。

「……ちょっと、魔剣を貸してくれないか?」

 あの激痛は、果たしてどのタイミングで生じるものなのか。

 恐る恐る、ソフィアは鞘に収まったままの魔剣をこちらに差し出してくる。

 俺はその鞘を掴み、腰のベルトに差した。


「……痛くない」

 宝玉も輝いてはいない。

 どうやら、装備しただけでは魔剣の力は発動しないようだ。


「なら、これは?」

 次に俺は、剣の柄に手をかけた。

 まだ、痛みはない。

 初めて魔剣に触れた時は、柄を握っただけで宝玉が輝いていたが、その時点で痛みはなかった。

 あれは、俺を持ち主と認めた証に光っただけか。


「じゃあ――」

 俺は更に、ゆっくりと剣を引き抜いていく。

 剣先が完全に鞘から離れた瞬間、宝玉が光り輝き――あの激痛が、また俺を襲った。

「い゛っ、でででででででで!!!!!」

「と、トウマ様っ!」

 俺は慌てて剣から手を離す。


 涙目になりながら、俺は今の情報を脳内で整理した。

 魔剣は、鞘に収まった状況では無害。

 鞘から完全に引き抜いた瞬間から、力を発揮する。


 だとすれば――


「……もしかしたら魔剣、少しは使えるかもしれない」

 俺の呟きに、ソフィアが目を見開く。

「本当ですか!?」

「ああ。ソフィアも協力してくれれば、だけど」

「もちろん協力します! それで、私はどうすれば?」

「えっと、まず――」


 その瞬間、背筋が凍るような震えが走った。

 俺達は、弾かれたように立ち上がり、辺りを見回す。

 この世界に来て間もない俺でも感じた、全身が総毛立つような感覚。


 間違いなく、出会っちゃまずい奴がこの近くにいる。


 俺は必死に記憶を手繰った。

 元々のストーリーでは、山賊との戦闘の後、そのまま城へと到着する。

 すると俺達が山賊を倒したことが既に知れ渡っており――何でだかは聞くな。つい流れでそう書いてしまっただけだ。

 

 ともかく。山賊を倒した功績を認められた俺は、更にこの魔剣を目に留めた王に、自分が勇者だと明かす。そんな展開だ。


 ……駄目だ。何度思い返しても、ここで強敵と闘う流れなんか存在していない。

 完全に、俺の物語から乖離した展開。

 だとしたら、この気配の正体は予想がつかない。


「……とにかく逃げよう!」

「はい!」

 俺達は、とにかく城がある方向へ全速力で走り出した。

 しかし、その足はすぐに止まることとなる。


「よお。ちょっと面、貸してくれるか?」


 この悪寒の原因が、俺達の正面に立っていた。

 遠目に見れば、普通の人間と思うかもしれない。

 しかし、頭から生えた二本の角。耳まで裂けた口と、その中から突き出た牙。全身に刻まれた入れ墨のような魔法の紋様。

 どれも、普通の人間に備わっているものではなかった。


「はじめまして、だな。俺は幻王配下のオグマってんだ」

「オグマ……っ!?」

 ソフィアが、その身体を硬直させる。

 俺も、その名前を聞いた瞬間、意識が飛びそうだった。

 この見た目からまさかと思ったが、こいつは幻王軍の最高幹部、四天王の一人だ。


 え、どうして? 四天王と闘うのはもっとこう、仲間も増えて装備も充実して、いよいよ本格的に幻王軍と激突するって状況になってからだったはずなのに。

 ちょっと強めの魔物を順々に倒していって、遂に――っていう流れにしてたのに。



 何と言うか、その…………泣きたい。


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