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25/25

0025.村人も主人公を全肯定してくれる

「勇者様と巫女様は、ご無事だろうか……」

 オークスの村。

村長ロホスは、洞窟のある方角を見つめながら、そんな声を漏らした。

 勇者と魔剣の巫女が村を出てから、もう半日が過ぎようとしていた。

 夕日はもう、ほとんど山の向こうに落ちかかっている。

 隣の村人も、不安そうに呟いた。

「もし、勇者様でも敵わなかったら……」

 村人は全員、今か今かと勇者の帰りを待っていた。

 しかし相手は伝説の魔物、ドラゴン。

 皆、両手を合わせて勇者と巫女の無事を祈る。

 その時。

 ずしん、ずしん、と地響きが聞こえてきた。

「この音は……っ!」

 村人達は、絶望に肩を落とした。

 間違いなくこれは、ドラゴンの足音。

 ドラゴンが動いているということは、つまり。

「勇者様は、もう……」

 村人達が嘆いている間にも、足音は少しずつ大きくなっている。

 こちらに近付いているのだ。

「シノ……こちらに来なさい」

 ロホスは、近くにいた幼い孫娘に声をかけた。

「うん!」

「おお、神よ……」

 笑顔で駆け寄って来た少女を抱き締めながら、ロホスは天を仰ぐ。


 きっと今日で、この村は終わりだろう……


 涙が、とめどなく溢れてくる。

 やがて木々の中から、あの忌々しいドラゴンの姿が見え――

「あれ、皆さんお揃いで」

 勇者と巫女が、ドラゴンの脇に立っていた。




「やっぱり皆、驚いてるな」

 村人達は、ぽかんと口を開けて一様にこちらへ視線を向けている。

 俺は頬をかきつつ、村長の前に進み出た。

「すいません、驚かせてしまって。ちょっと、皆さんにお話、いいですか?」

「は? え、ええ。はい」

 混乱しながら、村長が首を縦に振る。

 俺は、こほんと咳払いをすると、その場の全員に聞こえるように声を張り上げた。

「えっと、ドラゴンには勝ちました! なので、もうこのドラゴンは村を襲ったり、生贄を求めたりしません!」

「な、何ですと……!」

 村長は孫娘を抱き締めたまま、信じられないとばかりにドラゴンを見つめた。

「た、確かに……あのドラゴンが、傷だらけだ!」


 俺とソフィアは、互いに目配せをする。

 もちろん、この傷は偽物だ。

 インプを、傷付いたドラゴンに化けさせているだけだ。

「で、ですが……ここまでドラゴンを追い詰めておきながら、どうしてとどめを刺さなかったのです!?」

 まあ、そう来るだろう。予想の範疇だ。

 

 俺は、ドラゴンに化けたインプに視線を向けた。

 重々しい声で、奴は声を発する。

『勇者トウマとの激闘で、我はほとんど全ての力を失った。我にはもう、闘う意思はない。あの洞窟でただ、静かに暮らしていければそれでいい』

「という訳で、もうこのドラゴンは無力です。ここでこいつを殺しても、また別の魔物が棲み付くかもしれませんし、このまま、あの洞窟に住まわせてやってもらえませんか?」


 村長は、うむむと唸りを上げた。

「しかし、勇者様が旅立たれた後、ドラゴンの気が代わってしまったら……」

 そこに、ソフィアが荷車を引いてきた。

「ドラゴンが、お詫びの印として、これを皆さんにと」

「それは、勇者様が持って行かれた酒ではありませんか」

 訝しむ村長に、

「ちょっと、呑んでみてください。よろしければ、皆さんも。大丈夫、俺も味見をしましたから安全です」

 そう、促した。


 恐る恐る、人々は樽の酒をすくって口に含む。

「こ、これは……っ!」

「まあ、何これ!?」

「う……美味い!」

 そして口々に、驚きの声を上げた。


『我が秘術により、変化させた酒だ』

「な、何と……ドラゴンには、こんな能力があるとは!」


 まあ、インプの能力なんだけどな。

 それはともかく。

 村人が驚いている間に、『ここで畳みかけろ』と俺は手振りで伝える。


 ドラゴンは頷き、

『あの洞窟に誰も近寄らぬと誓うなら、これからもお前達の酒を同様に変えてやろう。朝、洞窟の入口に一樽の酒を置き、夕方に取りに来い』

 そう、泰然自若とした様子で静かに言った。


 それでいい。

 変に媚びるような真似をするより、こっちの方が上手く行くはずだ。


 村人達は、酒を手に話し合いを始めた。

「……ここからは、運次第だな」

 俺は、小さな声で囁く。

 と、ドラゴンが身を震わせているのに気付いて、その足を蹴った。

 ドラゴンがビビってんじゃねえ。


 会議を終えると、村長がこちらに進み出た。

「勇者様、魔剣の巫女様。本当に、ありがとうございます。ドラゴンの脅威を打ち払って頂くだけでなく、まさか我々にこんなお恵みまでくださるとは……」

「じゃあ、このドラゴン、あの洞窟に住まわせても構いませんか?」

「ええ。どうぞ、お使いください。誰一人、あの洞窟には入らぬよう、皆にはきつく言っておきます」

 俺は、深く息を吐いた。

 どうにか、丸く収まってくれた。

『礼を言う。それでは、我はあの洞窟にて、静かに休むとしよう』

 ドラゴンは、くるりと向きを変えて、再び地響きと共に歩き出した。

 しかし、数歩進んだところで、その動きが止まる。

 そして奴は、こちらを振り向かず、

『勇者よ。そなたにも、礼を言わせてもらおう』

 それだけ言うと、今度こそ足取りを止めず、森の中へと消えていった。


 俺とソフィアは、互いに頷き合う。

 そこに、

「ゆうしゃさま。あのどらごんと、なかよしになったの?」

 確か、シノと言ったか――村長の孫娘が、そんなことを訊ねてきた。

「……どうかな。まあ、意外と悪い奴じゃなかったけど」

「ええ、そうですね」


 そこに、割れんばかりの拍手と叫びが聞こえてきた。

「勇者様、ばんざーい!」

 村人総出で、俺達を祝福してくれている。

「勇者様! 急いで宴の席を整えます! さあさ、是非、お礼をさせてください! お二人は、この村の救世主です!」

 村長にぐいぐいと手を引かれ、俺達は慌てて歩き出す。

「ゆうしゃさま! シノともおててつないで!」

「う、うん。いいよ」

「トウマ様、シノちゃんに気に入られちゃいましたね」

 正直、小さい子供はあまり接したことがないので、ちょっと苦手なんだが。

 村人達の歓声が湧き上がる中、俺達は村長に連れられて、屋敷の中へと入った。


 一晩明けて、朝。

 出発する俺達を、村人はまた総出で見送ってくれた。

「勇者様、万歳! トウマ様、万歳!」

「魔剣の巫女ソフィア様! どうか勇者様にご加護を!」

 照れ臭くなった俺達は、挨拶もそこそこに村を出た。




「今回も、どうにか生き残れたな」

「ええ。村も守れて、あのインプも住処を追われずに済みました。さすがトウマ様です」

「よしてくれよ、ソフィアまで」

 恥ずかしさに、俺は顔を背けた。

「でも、どうしてあのインプまで救おうとなさったのです?」

「あー、そうね。まあ、他人と思えなかったからかな」


 勇者としての使命。責務。

 正直ここに至っても、逃げ出したいと思う気持ちはなくならない。

 それでも踏み止まっていられるのは、俺がこの世界の『作者』だから。そして――

「勇者から逃げ出して、静かに生きていきたいって思いは、まだ消えてない。……でも、ソフィアがいるから、俺は勇者から逃げ出さずにいられるんだ」

 俺の言葉に、ソフィアは顔を赤らめた。

「も、勿体ないお言葉です。私なんて全然、お役にも立ちませんし……」

「そんなことない。それに、役に立つかどうかなんて関係ないよ。俺はただ、ソフィアが隣にいてくれるから、こうして旅をしてられるんだ」

 そう、笑いかける。

「トウマ様……」

「だから、これからもよろしくな。一緒に、生き延びよう」

「はいっ!」

 俺の差し出した手を、ソフィアはしっかりと握った。


 そう。俺は、この少女と絶対に生き延びる。

 そしていつかは、本当の勇者になって、この世界で幸せに生きるんだ。


 胸の誓いも新たに、俺達は再び、旅路を歩き始めた。


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