魔人“土壁” “蟷螂” “虎”
魔人“土壁”
“土壁”はラーシャの治める街に時を同じくして現れた三体の魔人のうちの一体だ。
ぎょろりとした目の、天を衝くような大男で、土気色の肌をしていたのが名前の由来だ。その拳の一撃は、地面に大きな穴を穿つほどであった。
ほかの能力はこれといってなかったようだが、その巨体からも分かる通りの旺盛な生命力で、ユリウスの剣を何度受けてもなかなか倒れなかった。あのユリウスが、この魔人にとどめを刺すまでにかなり消耗して、肩で息をしていたほどだ。
そういう意味でも、強敵であった。
魔人“蟷螂”
“蟷螂”も、“土壁”らと同時に現れた三体の魔人のうちの一体だ。
こいつのことを語るのは、あまり気が進まぬ。というのも、俺の片目を奪っていったのは、この魔人だからだ。
小柄だが、両腕が硬い鎌のような刃物と化している異形であった。
両腕を振るって相手を切り刻むのがこいつの戦法だが、魔人のくせに二刀を操るのと変わらぬからな。言いたくはないが、変幻自在な、相当の腕前であった。
そのうえ、かなり動きも素早かった。俺とは実に相性の悪い相手であった。
それでも落ち着いて太刀筋を見極めれば、どうとでも対処できたはずなのだ。だが俺はまだ姿を見せぬ残り一体の魔人を気にして、それを怠った。代償は大きかったと言わねばならぬ。
今でもこいつとの戦いは、時々夢に見るよ。
魔人“虎”
“土壁”“蟷螂”とともに現れた三体の魔人の一体で、この三体の中では格上といったところか。
取り立てて虎に似ているわけではないが、獰猛な獣を思わせるしなやかな四肢に、恐るべき敏捷性を備えていた。得物は両手の鋭い爪だけだったが、戦い方が理知的で、相手の動きを見定めてじわじわと弱らせていく戦法を取ってきた。
負傷していたとはいえ、俺とユリウスという二人の騎士をぎりぎりまで追いつめたのだ。ここに挙げている魔人たちの中でも、魔王に次ぐ実力者であったと言ってもよいだろう。
だが、ユリウスを見くびったのがこいつの運の尽きだった。こいつはユリウスを翻弄しているつもりでいたが、その実、ユリウスが望みの場所へ誘導していることに気付かなかった。
結局、仲間である“土壁”のあけた穴に足を取られたところを、ユリウスに斬られた。