魔人“地虫” “蜘蛛” “石工” “黒犬”
魔人“地虫”
“地虫”は、ユリウスの斬った魔人の一人だ。
平凡な中肉中背の男の姿だが、その両腕から無数の触手が生えている。
この触手が実に厄介でな。それぞれの先端には鋭い牙の生えた口があって、なおかつ伸縮自在、一本一本が別々の動きをして相手に喰らい付く。
上下左右、あらゆる方向からいっぺんにこの触手に襲い掛かられてみろ。普通の人間なら誰でもたちまち、虫に食われた林檎のようになってしまうであろうな。
ユリウスと戦ったときには、触手の何本かを地中に潜らせておいて不意を衝くという小賢しい戦法まで見せた。
とはいえ、ユリウスにはまるで通用しなかった。触手を斬り落とされて間合いを詰められ、地中からの不意打ちもかわされて、一刀のもとに斬り捨てられた。
魔人“蜘蛛”
“蜘蛛”も、ユリウスの斬った魔人だ。
蜘蛛という名前を与えられてはいるが、その能力は実際の蜘蛛とは程遠かった。
下腹部が膨らんだその姿が、直立した蜘蛛のように見えるというのが名前の由来だが、実は腹の中に無数の毒針を溜め込んでいた。
敵と対峙した時は、力を込めて腹を破裂させて、毒針をばらまくのだ。
実にうっとうしい能力だが、一回限りではない。破裂した腹はまた勝手に再生して、針を撃ち出せるようになる。
ユリウスは、「蜘蛛というよりは蠍だな」などと言っていたが、蠍だって針を撃ち出したりはしまい。
街で多くの人々を殺した恐ろしい能力の持ち主で、並大抵の騎士では太刀打ちできなかったかもしれぬが、ユリウスは針をそのまま相手に撃ち返して斬り込むと、とどめを刺した。
とはいえ、かわし損ねた一本の針の毒が、ユリウスをその後危うく人事不省にさせかけたのだから、恐ろしい魔人であったことに間違いはあるまい。
魔人“石工”
“石工”は、駆け出しの騎士であったユリウスが、初めて独力で討ち取った魔人だ。
鍛え抜かれた戦士のような肉体を持ち、素手で岩を砕くほどの怪力も備えていた。
能力と言えばその怪力と、岩のように硬い身体だけ。実にシンプルな魔人よ。
だが、掛け値なしに強かった。
若きユリウスは小細工なしで真っ正面からこの魔人戦士に挑み、肋骨を折るほどの大けがをしながら、最後にはその頑丈な身体を打ち砕いてみせた。
応援に駆け付けた俺に見せた、ユリウスの誇らし気な笑顔を今でも覚えている。
思うに、初めての対戦相手がこの魔人であったということも、その後の騎士としてのユリウスの成長に大きな意味を持っていた気がする。
魔人“黒犬”
“黒犬”は、騎士テンバーの討ち取った魔人だな。
ユリウスの討った魔人ばかりではつまらぬから、一応この魔人も挙げておこう。
直立した黒い毛皮の犬のような外見を持ち、人をはるかに超える跳躍力と敏捷性を有していた。武器は、牙と両手の鋭い爪だ。
犬のような遠吠えもしたという。
テンバーは、さして苦戦することもなくこの魔人を倒したという。決して弱かったわけではなく、魔人として平均的な強さは持っていたと見ていいだろう。
それを苦も無く捻ってみせたテンバーの強さをこそ誉めるべきであろう。