騎士リラン
俺のことについて、さすがに自分で書くのは面映ゆいので、これくらいはせめて貴公が書け、とユリウスに言ったところ、またおかしな文章を書いてきた。
だがまあ、こんなものでも自分のことを自分で書くよりは遥かにましだ。これをそのまま載せておくことにする。
以下は、ユリウスの書いた文章である。
リランは騎士である。
ナーセリには騎士が多い。シエラにも多いが。リランはナーセリの騎士の一人で、優れた騎士だ。
背は高くない。ややずんぐりしている。
口も悪い。皮肉を好む。いつもにやにやと笑いながら酷いことを言う。
だが、リランが第一級の騎士であることは疑いようもない。
その口の悪さは、リランが目指している理想の崇高さと表裏一体だ。
だからこそ、魔人“蟷螂”に片目を奪われた時、リランは引退を決めた。己の剣が、目指す高みにもう届かぬと思ったからだ。
それでもナーセリとシエラの危機に際して、リランは再び戻ってきた。変わらぬずんぐりとした体形と、変わらぬ口の悪さのままで。
最も厳しき戦いを、私とともに戦うために。
リランは自分の背格好と似たような、ずんぐりとした幅広の剣を使う。
それ一本で、岩でも叩き割るのだ。
ずんぐりとした岩のような体形だからこそ、打ち込む隙がない。対峙して、これほど攻撃するところに困る騎士も他におらぬ。いや、過去にいたかもしれぬが私の記憶にはない。
リランの奥方のラーシャ殿は、おきれいな方だ。
いつか奥方に、リランのどこが良くて夫婦になったのか聞いてみたい気がする。そのときは、私もリランの良いところをいくつも挙げるつもりでいる。
私の覚えているリランの言葉を以下に綴る。
「分かってはいたつもりだったが。一線を退くというのは、こういうことか。貴公の言葉で実感したよ」
一度は引退したリラン。立ち止まった自分と、歩き続けるかつての仲間。
もはやともには歩めぬ自分を許せ、と言ったのは魔騎士ブラッドベルであったか。
「騎士は皆、ばかなのだ。心配が尽きぬであろうが、許されよ」
その通り、騎士は皆ばかだ。ばかでなければ務まらぬ。
だから文章もうまくは書けぬのだ。
「俺には分からぬ。自ら戦わぬ男の気持ちなど、斟酌に値するとも思わぬ」
リランは強い。本人が何と言おうとも、この男は強い。
「決まらぬ時は、一番年長の人間の言葉に従え。そのためだけに年を食ったようなもんだ。俺が先頭だ、いいな」
この言葉の後で、ずんぐりとした岩のような背中で私とコキアス殿を先導してくれた。あれほどに頼もしい背中を、私は見たことがない。
以上が、ユリウスの書いた文章だ。
この男、人のことを何回、ずんぐりと書くのだ。他に言葉を知らぬのか。
言うに事欠いて、剣までずんぐりとは何だ。もはや、そう書いておけばいいとでも思っているのではないか。
それと、俺の良いところがあったら、ここに書け。ラーシャに話してどうする。
ああ、まだあった。文章が上手く書けぬのは貴公だけだ。しれっと何を書いているのだ。他の騎士まで巻き込むな。
まあ、とはいえこの男にしては頑張って書いたほうであろう。
カタリーナ嬢とルイサ嬢に免じて許してやろう。
だが、カタリーナ嬢との婚礼では、これ以上に頑張ってもらわねば許さぬからな。