騎士ラザ 騎士コキアス
騎士ラザ
ナーセリのベテラン騎士、ラザについて書くこととしよう。
ラザは俺やアーガよりもさらに年長の騎士だ。武術大会では決勝まで残ったことこそないが、連続で八回以上は出場していたのではないか。正確な回数は記録を確認してくれ。
ラザは、ナーセリ王が魔王“片目”を討った頃にはもう騎士としての活動を始めている。無論、その頃は駆け出しの若手で、魔王討伐に加わってはいないわけだが。
しかしそれから一貫して騎士として、同世代が次々に引退していく中で、武術大会に出続け、魔人と戦い続けた。
直近のシエラでの武術大会には負傷で出られなかったものの、最後は、ナーセリで最も優れた七人の騎士の一人に選ばれ、魔王“詩人”との戦いで胸を砕かれて死んだ。
ラザの戦歴を考えると、これだけ長い間、第一線で魔人と戦い続け、魔王との戦いにまで赴いた騎士というのはなかなかいないのではないだろうか。普通はそれまでに命を落とすか、負傷や力の衰えで引退をしてしまうものだ。
かくいう俺も、一度は引退をしているわけだからな。だからこそ、ラザの凄さが分かる。長い年月、ずっと変わらずに力を発揮し続けるというのがいかに困難なことか。
ラザの二十年近い貢献は、もっと賞賛されるべきものであると俺は思う。
ラザは経験豊富なベテランらしく、力の入れ時と抜き時をよく心得ていた。アーガやユリウスのように先頭に立って若手を率いていくことには向いていなかったようだが、ベテランとしての深い経験からいつでも存在感を発揮することができた。
若手にもベテランにも、立場に縛られず言うべきことは言う。そんな男であった。
ラザには華麗な経歴はない。だが、生涯一騎士として、長きにわたりその責務を全うしたこと、それ自体が最も華麗な経歴と言えるのではないか。
上の息子が間もなく騎士になるのではなかったかな。一年ほど前に会ったことがある。ラザに似て、飾らないが熱い気持ちのある男に見えたな。
ラザの遺した言葉だ。
「おう、いいぞ。ゴーシュも元気が出てきたな。その調子だ」
アーガやユリウスがリーダーとして大局を見なければならない場面でも、ラザはこうやって気楽な言葉で若手を盛り立てることができた。それはアーガたちにとってもありがたいことだったであろう。
「良く戦ったな、ルギウス。魔王と、たった一人で。貴公は勇敢であった。我らには貴公ほどの勇気はない。ゆえに、六人で来たぞ。必ず仇は取るからな」
“詩人”と戦ったルギウスの遺骸を見付けた時のラザの言葉だそうだ。ラザの、仲間の騎士たちに対する熱い同僚愛は、現役であり続けたこの男だからこそ持ち得たものであろう。
騎士コキアス
シエラの勇敢なる騎士コキアスについて語るとしよう。
魔王“北風”討伐の唯一の生き残りにして、現在のシエラ第一の騎士だ。
その剣の鋭さについては、あのラクレウスも認めたほどだ。確かにまだユリウスらに比べれば見劣りはするが、それは若さと経験の不足から来るもの。いずれは第一の騎士という名にふさわしい騎士に成長することは間違いあるまい。
魔王“北風”討伐からたった一人帰ってきた騎士として、相当につらい思いをしたはずだ。仲間を皆失い、戦果も挙げることができなかったのだから。
だが、この男は弱音を吐かなかった。愚痴ひとつこぼさなかった。
残酷な運命も、それを受け止めることがシエラの騎士である己の役目と、黙って受け入れてみせた。俺やユリウスは所詮、他国から来た応援よ。無論、命を懸けてやるべきことをやったが、荒廃する故国を目の当たりにしながら他国の騎士に戦いを託さねばならなかったコキアスの心中はいかばかりであったことか。
コキアスは若手の騎士にしては落ち着いた、老練な雰囲気をもつ男だが、音楽や絵画、花などが好きなのだそうだ。騎士の中にはほとんど話の合うものがおらぬとこぼしておったが、それはそうであろう。騎士は剣の話にしか興味を示さぬ。俺とユリウスも、残念だがこちらの方面ではコキアスの話し相手は務まらなかったな。
今のシエラはナーセリよりも騎士の層は薄いが、コキアスのような男が中心となるのだ。十年後には騎士の層の厚さは逆転しているかもしれぬ。ナーセリの若手にも奮起してもらわねばな。
コキアスの言葉も紹介しておこう。
「いくらラクレウス殿とはいえ、空までは駆けられませぬからな」
ナーセリとシエラの国境で、両国の騎士が共同して魔人討伐を行った際のコキアスの言葉だそうだ。ラクレウスのことを兄のように慕い、尊敬していたことが、こういう言葉からも窺えるな。
「これも何かの縁です、ご紹介を。お名前は何とおっしゃるのです」
これは、あれか。ふふふ。ユリウスの妹御のルイサ殿を紹介してくれと、ユリウスに迫ったときの言葉か。ルイサ殿とであれば、一晩中でも花の話をしていられるのではないか。善は急げだ。次の武術大会に来たときに引き合わせてみればいいのだ。
「ですが私も、シエラの騎士の端くれなのです」
魔王“北風”を再度討伐に行くときに、俺とユリウスを先導していた時の言葉だ。仲間のシエラの騎士は皆脱落してしまい、シエラの騎士の誇りと責務を一人で背負い込むことになった。それでもコキアスは、俺たちの前を歩き続けた。