魔人“踊り手” “鷲” “亀”
魔人“踊り手”
“踊り手”は、国境の街ドルメラに現れた魔人のうちの一体だ。
魔人というのは大抵、人間の男の姿をしているのだが、この魔人は珍しく女の姿をしていた。まあだからといって、どうというわけではないのだが。連中に、人と同じ意味での性別があるとも思えぬ。
長い脚が四本生えており、それが不規則に地面を踏むさまが、まるでダンスのステップのように見えたことからこの名が付いたのだそうだ。
この脚が、実は伸縮自在で、遥かに離れた距離から強烈な蹴りを見舞ってくる。ダンスのような独特の足さばきから、矢継ぎ早に繰り出される蹴りは、なかなかに見定めるのが難しい。
とはいえ、“地虫”の無数の触手を相手にしても一歩も退かなかったユリウスだ。この程度の攻撃はきっちりと捌いて間合いを詰め、斬り伏せてみせた。
魔人“鷲”
“鷲”も、国境の街ドルメラを恐怖に陥れた魔人の一体だ。
猛禽類を思わせる目と、背中から生えた翼がその名の由来だ。翼が生えているとはいえ、空を飛べるわけではなかったようだ。
翼は、主に相手への攻撃に使われた。だが、無数の羽根を飛ばして敵の全身に突き立てるその攻撃は、対峙したラクレウスにはまるで通用しなかった。
ラクレウスは飛来する羽根をものともせず一直線に“鷲”に突っ込むと、一刀のもとにこれを斬り捨てた。
もしかしたら、他にも翼を使った能力を有していたのかもしれぬが、見せる暇もなかった。まあ、相手が悪かったな。
魔人“亀”
“亀”も、ドルメラに現れた魔人のうちの一体だ。
背中に亀の甲羅のような硬い外殻を持っている。
しかし、付けられたその名とは裏腹に、この魔人は地中に潜って隠れ、神出鬼没に姿を現す戦法を得意としていた。
“土竜”という名であったならば、我らとてすぐにその能力を察するのだがな。名前は住民たちが見た目で勝手に付ける便宜上のものに過ぎぬから、仕方あるまい。騎士は魔人の姿形に捉われず、その能力を見定める目を持たねばならぬ。
魔騎士ブラッドベルに皆の意識が集中しているときに、後方から現れた“亀”は鋭い爪で街の兵士たちを殺したものの、駆け付けたユリウスに討ち取られた。
細身に見えて、あの男は馬鹿力なのだ。地中に逃げようとした魔人を、ユリウスは力づくで引きずり出してその首を落とした。