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序文

 序文


 ナーセリの騎士リランである。

 騎士として一度は引退した身ではあるが、魔王“北風”との戦いのため、戻ってまいった。

 戦後、経験豊富な騎士もだいぶその数を減らしてしまったゆえ、しばらくは王都と領地とを行き来しつつ後進の指導に当たることと相成った。

 魔人はしばらく姿を現しておらぬが、そういう時期の人材育成こそが肝要なのだ。

 さて、この記録についてである。

 王より、こたびの二体の魔王との一連の戦いに関連する騎士と魔人の記録を作るようにと仰せつかったのは、ほかならぬナーセリ第一の騎士ユリウスである。

 王は、この厳しい戦いを後世に正しく伝えるためにも、この戦いを最もよく知る騎士であるユリウスが記録を作成するのが一番良い、と仰せであった。

 王のお言葉はごもっともなれど、あのユリウスという男、剣を振るうようにペンを操れるようにはできておらぬ。

 案の定、何日経ってもうんうん唸るばかりで遅々として進まぬ。

 カタリーナ嬢が常に傍らにいるために手紙を書く必要がなくなったせいであろう、多少はましになったはずの文章力もまた元通りになってしまったのだな。カタリーナ嬢には、この記録ができるまではシエラにいていただいた方がよかったかもしれぬ。

 とはいえ、あれの完成を待っていたら、カタリーナ嬢との婚礼まで延期になってしまいそうだからな。ユリウスなどどうなってもよいが、それでは侍女一人だけを連れて隣国より来た可憐なカタリーナ嬢があまりに不憫でならぬ。ナーセリの騎士は薄情だと笑われもしよう。それで、やむなくこのリランが一肌脱ぐこととした。

 正規の文章の記述は、官吏どもに任せた。ここに載せておるのはその元となった、俺の覚書のようなものだ。

 だから、好きに書き散らしたし、体裁も整えておらぬ。

 だがこれを読んだ官吏が皆、面白いのでぜひこれも残しておいたほうが良いと勧める。リランさまにこんな才能があったとは、などとな。ふん。

 恥ずかしいような気もするが、褒められて悪い気のする者もおらぬであろう。もうこの年になると、遠慮もせぬ。図々しく話に乗り、この書架の隅に蔵させてもらうことにする。

 正式な文書ではないゆえ、ゆめゆめこれを何かの参照とすることの無きよう。正史に当たりたくば官吏の作った正規の文書を見よ。


 さて、この覚書では騎士と魔人をそれぞれ章立てておる。

 騎士はこたびの戦いで功績のあった者を中心に13名を、魔人どもは最大の功労者たるユリウスと戦ったものを中心に16体を選んだ。俺とてユリウスに劣らぬ数の魔人を斬ったのだが、あまりに数を増やしても全体像がぼやけるだけだ。そちらの詳細な記録が見たければ官吏の記録を当たるとよい。

 ここはナーセリ第一の騎士にして人の世を救った騎士の中の騎士、ユリウス・ゼルドの顔を立てようではないか。



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― 新着の感想 ―
[良い点] リ、リランだぁああああああ…っ! やまだ様、やまだ様! ありがとうございます……! リランの一人称! いや、もう、かっ……こいい……………っ! 最高です。 ほんのり恥ずかしがりながらも…
[良い点] おお、忘備録型なのですね! これは期待が膨らみます!
[良い点] 待ってました [気になる点] ユリウスの最後の妹宛てのあの手紙を見たらそうなる [一言] ワクワクが止まらない
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