孤児院の子供たち
数話、孤児院の過去話が続いていきます。
子供達の笑い声が響き、孤児院を管理している女性達は可愛らしい子供達を微笑ましく見守りながらも、年々減っていく子供の数に憂いていた。そんな彼女達の心配など知らない子供の一人が庭を駆け回りながら叫んだ。
「あー!また負けたぁ!」
「ふふん。スレイが私に勝とうなんて千年早いんだよ」
少年然とした茶髪の少女は勝ち誇ったように笑みを浮かべると、床に転がっている銀髪の少年に手を伸ばす。少女の片方の手には白い花で作られた花冠があった。
「はいはい、これはあげるから拗ねないでよ。勝者の花冠」
「……ちぇっ!要らないよ!」
「はぁ?せっかくシスターが作ってくれたのに」
スレイと呼ばれた銀髪の少年は差し出された花冠を払い除け、可愛らしい花冠は無残に解けて地面に落ちた。
「キャルに勝たなきゃ意味ないだろ!ふん!」
不機嫌そうに顔を歪めてその場を後にする。スレイの後ろ姿を見つめていた少女は困り果てて溜息を吐いた。
「だいじょーぶ、キャル…?この花冠、ほんとは作ったの、キャルでしょ…?」
とてとてと軽い足音で近づく赤髪の少女。心配そうに地面に落ちた花を拾ってくれる彼女に、キャルは慌てて否定した。
「ううん、違うよ。ありがとリジー」
「でも……」
リジーと呼ばれた少女は眉を下げてさらに悲しそうな表情になる。そんな彼女にキャルは首を振った。
「もー!なんでリジーが泣くの!ほらほらシスターの所で訓練しにいこ!」
「ぐすっ…キャル…分かった」
***
仄暗い孤児院の地下室で二人の男女がいた。一人はこの孤児院を管理する老年の修道女。もう一人は白金の長い髪を靡かせた美青年だった。彼は青いの瞳を愉快げに細めると口を開いた。
「ではそろそろ始めようか。我が愛しき子らよ」
その言葉に子供達は思い思いの武器を構えて返事をする。
「「よろしくお願いします!」」
彼等の名前は孤児達にとって憧れの存在であり、尊敬すべき存在でもある。彼こそがこの国唯一の勇者にして聖剣を持つ、王都アメリア最強と謳われる男、アルフレド=テスタロサだ。彼はニコリと優しげな笑みを浮かべると口を開く。
「今日も倒れるまで行くぞ。まとめてかかってこい」
「「はい!」」
スレイが彼に木の短剣を構えると同時に背後から声がかかる。
「スレイ、あんたは少し休んでおきなよ。昨日も遅くまで起きてたでしょ。目の下に隈がある」
それはいつも通りの光景。けれど僕はキャルの言葉にムッとして言い返す。
「僕だって強くなって早くシスターの役に立ちたいんだ。お前こそ痛いのは嫌なんだろ。大人しく寝てればいいじゃないか!」
「言ってくれるじゃん!いいよ、だったら勝負だ!」
売り言葉に買い言葉で僕らは武器を構えた。
「やぁあああ!!」
「柔いな」
「わあああ!!」
孤児達は次々にアルフレドに向かっていくが、彼の持つ大振りの木剣により薙ぎ払われていく。そして吹き飛ばされて床に転がっていき、起き上がれない者はシスターに傍に寄せられていく。
僕はそれを横目に見ながら、隙を見て短剣を打ち込むがやはり簡単に弾かれてしまう。悔しくて歯噛みしていると、目の前に影が差して、トゲ付きの籠手を着けたキャルが飛び出した。
「はぁぁッ!!」
鈍い音が響き渡る。どうやら彼女の一撃が入ったようだ。彼女はすぐに飛び退いて距離を取る。アルフレドはそれを興味深そうに見つめていた。
「ほう?良い動きをするな。名はなんという?」
「…!っキャルです!」
「年は十か。その才能を伸ばすと良い」
「ありがとうございます!えへへ」
「……くそ…!」
目の前であの英雄に褒められたのが嬉しかったのか、キャルは満面の笑顔で礼を言う。対して僕の方は苛立ちを覚えて悪態をついた。
「スレイ……?」
「……チッ、なんでもない」
不思議そうな顔で僕を見るリジーに思わず目を逸らす。そんな僕らを面白そうに眺めるシスターを睨みつけると再び短剣を振るった。
***
訓練が終わるとみんなヘトヘトになって地面に転がる。それでもなんとか体を起こして座れるようになると、シスターが全員に日替わりで甘いジュースを配ってくれるのだ。これが何よりも楽しみで、子供達は頑張っている。
今日はリジーが好きなストロベリーミルクの日のようで、隣に座っている彼女に声をかけた。
「おい、リジー」
「スレイ、なぁに?」
「今日は僕の分やるよ」
「えぇ!?ほんとう…!?やったぁ!」
「うわっ!ちょ、離れろ!」
リジーが喜びのままに飛びついてくる。慌てて引き剥がそうとするがなかなか離れてくれない。それどころかますます抱きついてくる。
「リ、リジー!もう終わりだ!ほら、帰るぞ!」
「んー……」
「眠いのか…」
リジーは同い年にしては身体が小さく、ひ弱な代わりに魔力が強い。先程の訓練で魔法を使いすぎて疲労したらしく、帰り道ではうつらうつらと船を漕いでいた。キャルはシスターに連れて行かれて居ないので、背負ってやるとリジーは首元に頭を擦り付けてくる。
(……犬かよ)
その仕草に苦笑しながら、近所の子供達が集まっている広間を通って子供部屋に戻ろうとすると、ふと貴族らしき少女が目に入る。平民の子供に紛れているようだが、手入れされた黒髪に高級そうなワンピースは、一目で身分の高い令嬢だと分かる。しかし、周りにいるのは貴族の子弟ではなく平民の子達だ。それが余計に浮いて見えて少し気になった。
「お嬢ちゃん、こっちは危ないから入っちゃダメだよ」
「あら、ごめんなさいね。でも私も混ぜてほしいの」
「わぁ!こちらへどうぞ!」
近くにいた子守の女性が声をかける。すると周りの子供達は大歓迎と言った様子で彼女を囲んで輪を作った。
「この豆菓子美味しいんだよー」
「あっ、それ俺が先に食べようと思ってたやつ!」
「わぁ…!ほんと…!初めて食べたけれど、とっても美味しい!ありがとう」
そう言って優美に微笑む彼女はまるで花のように可憐だった。その子の周りに集まっている他の女の子達が霞んで見えるほど。
(あれが貴族…)
僕は思わずゴクリと唾を飲み込んだ。あのような美しい子は生まれて初めて見た。思わず立ち止まって貴族らしい少女の様子を見ていると、戻ってきたキャルが話しかけてきた。
「スレイ?どうしたの?」
「あ、キャル。いや…見慣れない奴が居るなと思って」
「…ふぅん?あーいう子が好みなの?」
「ち、違う!あんな上品そうなお嬢様、面倒臭いに決まってる。僕はもっと元気で可愛くて…」
「……必死になっちゃってばっかじゃない?」
「なっ!キャルが言ってきたんだろ!」
白けた目をした彼女に、僕は恥ずかしくなって思わず言い返す。起きそうになったリジーを急いで子供部屋の寝床に押し込んで、僕はまたキャルと喧嘩を始めた。




