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協力者には些か不安

 隣で眠っている彼から手を離し、ベッドから起き上がる。


「ルシアさんおはようございます。…体温は…ちゃんとありますね。顔色も良いようです」


「……」


 語りかけるが、やはり彼の反応は無い。自分の口の端を切って、彼の口に血を流し込む。こくん、と喉が動くが…今日もそれ以上の反応は無い。


「…はぁっ、ちゃんと飲めましたね」


 吸血行為では彼には変化がないらしい。しかし、それ以外となると吸精という方法もあるが、こちらは魔力を吸う本人の意識が無いと意味はない。


「……」


 僕はそっと彼の胸に耳を当てた。トクントクンという規則正しい音が聞こえる。


「大丈夫。ちゃんと生きてる……」


 ホッとしたと同時に目頭が熱くなる。僕は泣きそうになるのを堪えて、彼をベッドに戻し布団をかけた。


「ルシアさんのために朝食を取ってくるので、待っていてくださいね。…愛してますよ」


 返事はないけれどそれでいい。だって、聞こえていなくても伝えたかった言葉だから。


 それだけ言って部屋を出る。


 …ルシアさんが起きなくなってから一週間が経つ。初めてルシアさんが眠った日、明け方にぴくりと動いたと思ったら彼はすぐにまた深く眠ってしまったのだ。それからは容体が変わる事は無く、ずっと静かに眠り続けている。


 僕がどれだけ呼んでも反応は無くて、キャルがいくら揺すっても、帰ってきたジルヴァ様やメイド長がどんなに語りかけても、彼の瞳が開くことはなかった。


「ルシアさん。今日の朝食はミルクスープです。料理長が滋養に良い食材を使って作られたんですって」


「……」


 スプーンで口を濡らすようにミルクスープを飲む。うん、美味しい。朝ごはんには少し重い気もするが……料理長の愛だ。仕方ない。


「これもルシアさんの好きな物なのに、食べれないなんて残念ですね」


「……」


 問いかけにも無言のままのルシアさんを見て思わずため息が出る。スープを口に含むと、ひと口ずつ、また吸血と同じ要領で彼の口に移していく。


「…ごちそうさまでした。さすが料理長はお上手です」


 唇の端についた液体を指ですくい取り舐める。傷口に着くが、吸血鬼の唾液には鎮痛効果もあるのでこういう時は便利である。まあ、こういうことをするのはこれからも僕だけですけど。


「ねぇ、ルシア。早く起きてください。でないと僕があなたを襲ってしまいそうですよ?」


 ベッドの上で眠るルシアさんの上に覆い被さり、触れるだけのキスをする。


「……」


 まだ起きる気配は無い。当たり前だ。キスで目が覚めるなんて御伽話は現実にはあり得ないのだから。だけどそれでもルシアさんの手を取り、その手のひらにまたキスを落とす。


「リリアさんもルシアさんに会えなくて寂しがっていましたよ。こんなに眠っていては、泣くほど心配させてしまいますね」


 いつもならここで何かしらの反応があって、世界一可愛い妹語りが始まるはずなのだが、今日は何も返ってこない。


「雪灯祭の後は教会で聖夜のミサがあるので、ケーキを作ってもらえるか頼んでおきましょうか?リリアさん、きっと喜んでくれますよ」


 僕の話に相槌すら打ってくれず、ただ眠っているだけ。そんなルシアさんにまたキスを落として、手を握る。すると微かに握り返すような動きがあった気がして顔を上げた。


 しかしそれは気のせいで、握った手が擦り抜けると、何事も無かったかのようにシーツの上へと落ちていった。


「……それじゃ、僕は学園に行ってきますね。ゆっくりお休みください」


 とても名残惜しいがルシアさんの部屋を出て、他の使用人たちに彼の看病を任せる。


 今日こそ打開策を探さないと……休眠は刻一刻とルシアさんの身体を蝕んでいる。僕たちに残された時間は、あまりにも少ない。



 ***



「あっ、スレイくんだぁ。おはよぉ〜」


「…おはようございます」


 馬車で学園に着くと、朝からすぐにギルバートに見つかってしまった。彼は僕の姿を見つけるなり肉食獣かのように駆け寄ってきた。


「スレイくんは今日の放課後暇かな〜?良かったらお茶でもどお?」


 ギルバートは馴れ馴れしく肩を組んでくる。鬱陶しいが僕はそれに笑顔で応えた。


「すみませんギルバート様。お嬢様の事で調べたいことがありまして、暫くは難しいです」


「……ふーん?でもさぁ〜?スレイくん顔色わっるいよぉ?匂いもあんまり好みじゃ無い感じぃ。ちゃんとご飯食べてるぅ?」


 ギルバートが心配そうな顔をする。確かに最近はまともに食事を取っていないかもしれない。それでも、今は少しでも情報が欲しいのだ。


「大丈夫ですから放っといて下さい」


「うーん、そっかぁ。分かった!じゃあ僕もその調べ物手伝ってあげるぅ」


「はぁ?」


 ギルバートの提案に思わず声が出た。何を言ってるんだこの男は。何か企んでいるのか?


「ほら僕こう見えても優秀だからねぇ?宰相の息子だしぃ、側近としては歴代最高っていうかぁ?情報収集なんてスレイくんなんかより超得意だよぉ?僕に任せてぇ!」


「いやいやいや。気持ちは嬉しいですが。エル…知り合いの魔術師や魔族の専門家にも当たっていますから」


 ジルヴァ様やアレックスなんかの国の権力者も巻き込んで探しているのだから、今更ギルバートという異物…いや、迷惑をかけそうな存在が加わったところであまり意味は無いだろう。しかしギルバートはその申し出を受け入れないらしい。


「えぇ〜そんなの僕の方が早いし確実だもん〜。信じてもらえないならぁ、スレイ君のポエムでも呼んじゃおっかなぁ」


「……」


 なんでお前まで知ってるんだ。そう言われてしまうと言い返せないのだが……


 正直、ルシアさんのことはあまり人には知られたくなかった。特に相手が変態のギルバートだとすれば、ちょっとだけ味見とか言ってルシアさんに何かする可能性が高い。殺すけど。


「…………〜〜僕の匂いは嗅いでいいですが、それ以上何もしないのであれば……」


 結局僕は折れてしまった。ギルバートは変態だが…ルシアさんを助けられる手がかりになる可能性も捨て切れない。そのためだったら仕方ない。


「ほんと?やったぁ!!じゃあさっき言ったようにぃ、放課後に図書館に来てくれるぅ?待ってるね!!」


 ギルバートは嬉々として去って行った。その背中を見ながらため息をつく。


(……これは思ったよりも大変なことになりそうだな)


 この学園に通う下級生の男子にとって、覚えておかないといけない事がある。それは今期の生徒会会計がご機嫌な時は、誰かが犠牲になったか。もしくはこれから誰かが犠牲になるかということだ。


 あれでいて女子生徒に根強い人気があるのは、学園の七不思議の一つと言って良いと思う。

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