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白くてふわふわ?

「これは…魔石?どなたかの忘れ物でしょうか」


 僕が学園の食堂で二人分の席を取ろうと空いている場所を探していると、テーブルの上に何かが置かれている事に気がついた。


 それは掌に収まる程度の赤い石で、何やら魔力が籠められているのか、ほんのりと光を帯びているように見える。


 こんな所にこのような物を置いていくなんて一体誰が……と思ったものの、ほんの少しその石が気になったので、持ち上げて覗き込んでみる。透明度が高いのか、その石は向こう側の景色が見える程綺麗なものだったが、僕にはそれがただの石ころにしか見えなかった。


「後で生徒会にでも届けておきましょうか……っと、すみません!お待たせしました!」


 席を確保した僕は食堂の入り口へと戻ると、そこでようやくルシアさんが不機嫌そうな表情をしている事に気付いた。そして何故か僕の方をジト目で見つめており、どうしたんだろうと思って首を傾げる。すると彼は小さく溜息を吐くと、組んでいた腕を解いて、食堂のメニューが書いてある看板をビシッと指差した。


「悩ましいのですわ!AランチとBランチ、どちらも捨て難い……!」


「はぁ」


 彼の言葉通り、そこにはAランチがチーズハンバーグ、Bランチがビーフシチューと書かれているのだが、そのどちらを食べるか迷っているらしく、何度も視線を行ったり来たりさせている。そんな様子も可愛らしいと思う反面、さっきから妙に睨まれていた理由が分かって少しだけ安心する。


「であれば、シチューの方が腹持ちが良いんじゃありませんか?」


「で、でも、チーズハンバーグは、今日だけの限定ランチなんですのよ…!?」


 確かに今日はその二つしかないようだし、彼にとっては重大な問題なんだろうけど……


「なら、僕が片方を注文するので半分ずつ分けて食べれば良いですよ」


「えっ……なるほど!?そうですわね!それなら大丈夫ですわ!」


 僕が提案すると、ルシアさんは目を煌めかせてこくこくと頷く。彼は普段、その細い体の何処に入るのかと不思議になる程の量をいつも食べるけれど、この食堂では特盛と決められた量までしか食べないようにしている。


 以前おかわり自由なのをいい事に食材を不足させて、料理人に注意されたことがあるからだ。なので両方を一人で食べるのは禁止。だけど二人で分けるようにすれば、両方を食べられるはず。マナーとしては良くないが、特盛を食べている時点でそのあたりはもう諦めている。


「じゃあそれで決まりですね」


「ええ!…あら?呼び鈴が無いわね。少し聞いてきますわ」


「僕が行きますよ」


「席を探してくれたでしょ?いいからスレイは待っててくださいまし」


 カウンターの方へ向かって行った彼を見送りながら、僕は自分の席に着く。そして、ポケットに入れた赤い石を取り出した。というのも、先程からじわりと熱を感じるのだ。


「あつっ…」


 手に触れるとかなり熱い。実際に火傷した訳じゃないが、触れている部分からじんわりと熱さが広がる感覚がある。まるで照りつける太陽の下や暖炉の前にいるような感じだ。この現象は確か魔法学の授業で習ったことがある。


(魔力が溢れてるのか?)


 そう思いながらも、とりあえずテーブルの上に置いてみる。


 その時だった。


 突然、石が眩い光を放ったかと思うと、一瞬にして自分を熱い魔力が包み込んだ。光を受けた手が、顔が、ひりつくように熱い。あまりの痛みに耐えきれず思わず目を瞑ると、チリンという音と共に魔力が収まった。


(一体何が…)


「わふ…」


(…ん?)


 恐る恐る目を開けると、目の前には食堂のテーブルの足が見えていた。いつの間にか倒れてしまったのかと、起きあがろうとすると、大理石の床に前足がずるんと滑ってべしゃっと顔面から転んでしまう。


「キャン!?」


 鼻先に感じる冷たい感触と、口の中に広がる鉄臭い味。顔をゆっくりと上げると、視界には真っ白な前足があった。動かしてみると、僕の意志に合わせてもふもふと動く。


(……これは……まさか……)


 犬に、なっている?


 しかもこのテーブルとの縮尺からすると、子犬。


「キャン!キャン!?」


 どうやら獣化の魔法を受けてしまったらしい。あの宝石に入っていた魔力はこの呪いを込めていたものだったのだろう。


「只今戻りましたわ。……あら?この子何処から入ったのかしら」


 頭上から聞こえるルシアさんの声に慌てて後ろを振り返ると、そこにはきょとんとした表情の彼が居た。匂いから察するにどうやら彼はシチューにしたらしい。じゃなくて。


 それよりも、僕は自分を見下ろしている彼に釘付けになった。いつも見ているはずのその姿なのに、何故か擦り寄りたくてしょうがないような気持ちになって、胸の奥がきゅっと締め付けられる感覚を覚える。


 しかしそれも束の間、僕の体は彼によって持ち上げられ、そのまま膝の上で抱きしめられる形で固定された。


「わぁ…!可愛い、ふわふわだぁ」


 耳元で囁かれた声にぞくりとしながらも、僕の身体は勝手に尻尾を振ってしまう。頭を撫でられて、ついつい彼の手にすり寄るようにして甘えると、彼は嬉しそうに笑みを零した。可愛いのは貴方です。


「わんわん!わん!」


(って違います!僕です。スレイです!)


「しー…吠えるのは駄目ですわ。ここから追い出されてしまいますから。アイツが戻るまで良い子にしてくれよ、な?」


 そう言って再び僕を優しく撫でる。彼の手がやわやわと顎の下をくすぐる度、心地良さにうっとりしてしまう。


(あああ……でも……これは……耐えられない……)


 急に襲ってきた睡魔に抵抗する間もなく、瞼が落ちていく。


 遠くなる意識の中で、僕を包む温もりだけが確かなものに思えた。

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