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エピローグ 隣国訪問の終わり

 翌日、無事に熱が下がったルシアはエルドリーズの転移魔法で帰ることになった。朝早くから魔術塔へ向かい、塔の上にある魔法陣の前でエルドリーズやアレックスと別れの挨拶をする。


「それじゃあねルシア君。絶対!お屋敷に遊びに行くから!…あー!離れたくないっ!私の癒しが…!」


 ぎゅっと抱きしめてくるエルドリーズを引き剥がしながらルシアは苦笑いする。


「あはは、二人とも仕事が辛くなったらいつでも遊びに来てくれよ。もちろん事前に手紙なんかで知らせてくれよな」


「えーん!」


 俺がめそめそしているエルドリーズを宥めていると、次にアレックスが抱きついてきた。


「はぁ、本当にラクラシアに帰っちまうんだな。…がっかりだぜ…」


「おいおい!?お前まで泣くなって!?また学園で会えるんだろ!ほら、ハンカチ使っていいから」


 ボフボフと頭を撫でるとアレックスはぐずったように鼻を鳴らした。そしてアレックスはスレイを睨みながら言う。


「……俺様はまだ諦めてないからな。赤獅子は獲物を逃さない。諦めが悪い事でも有名なんだぜ〜…」


「フッ、振られた口で吠えられても何も怖くありませんよ。それでは失礼します」


「ずびっ、ほらそこの男衆。準備できたわよ」


「ありがとな、エル」


 ルシア達が魔法陣に乗ると、エルドリーズが杖を立てて呪文を唱える。光る蝶のような精霊達が周りを包み込み、長距離の転移だからなのか徐々に身体が透けていく。


「ルシア!またな!」


「ルシア君、また今度!」


「二人とも、ありがとう!」


 大きな転移魔法陣から光が収まる頃には、もうそこには誰もいなかった。隣国からの来訪者を見送った二人はほとんど同時にため息を吐いた。


「…いいなぁ…ラクラシアに住むのは嫌だけど、私も学園に通おうかしら」


「いやぁ、一昨年で3桁突破した師匠に学生服はキッツイだろ〜」


「なによぉ!若返りとかできるし!い、行けるもん!」



 ***



 眩い光が収まると、そこは屋敷の前だった。


 ずっと南国に居たからなのか、風がやけに冷たく感じて身震いしてしまう。スレイが扉を開けると、入り口にはメイドのキャルがとても嬉しそうな顔で出迎えてくれた。


「おかえりなさい!お嬢様、スレイ!よくぞご無事で!」


 スレイは俺を見て少し照れたような顔をすると、俺にだけ聞こえる声で囁いた。


「……おかえりなさい、ルシアさん」


 ルシアは笑顔で答えた。


「ん、ただいま!…ふぇっぷちん!!」


「ふっ、あはは!締まらないですね」


「大丈夫ですか!ハンカチありますよ!」


「持ってる持ってる、あー…ありがと」


 ずびっと鼻水を垂らすと、驚いたキャルに拭われた。気の抜けるようなくしゃみにスレイは腹を抱えて笑う。


「料理長もメイド長も、使用人達はみんなルシアさんが帰ってくるのを待ってたんですから!行きましょ!」


「お土産は無いですよ」


「え…」


「こらスレイ、意地悪言うな。お菓子とか服とか、色々買ってきてるから!キャルもそんな顔すんなって!」


 こうしてルシアの長い隣国訪問は幕を閉じ、お嬢様としての日常へと戻っていく。

 ブルスルド王国で起こった第三王子暗殺未遂事件は、公に発表されることなく幕を閉じた。



 ***



 宴に現れた刺客はこの国の宰相が送り込んだものだったらしい。刺客への拷問で芋蔓式に宰相の存在が露見した。直ぐに彼も尋問したものの、言葉と行動があやふやで精神が安定しておらず、リップル男爵に操られていた事も判明した。だがその事実を知るものは当事者達の他に国王のみだという。


 表向きには宰相は敵対派閥の策略によって暗殺されたことになっており、国の上層部に空いた多くの席には若く才がある貴族が座ることとなった。


 アレックス曰く刺客には死ぬ直前に記憶を壊す毒が仕込まれており、宰相の情報を吐かないよう、もしものときは脳ごと物理的に破壊する処置をされていたらしいのだが、給仕として宴に居たシャロンが解毒薬を事前に酒に混ぜて飲ませていた事で、情報を得ることができた。刺客の男の一人はシャロンと面識があったらしいが、彼女を見ても何の反応も示さなかったそうだ。リップル男爵とそれに連なる者は軍部で厳正に取調べを受けた後、あの場で切り殺されなかった者達がその先どうなったのかはわからない。


 この事件の前には、アレキサンダー第三王子が人間離れした美貌を持つ壮麗な異国の令嬢と結婚し、王座を得るという噂があったのだが、この騒動の後でそのような噂は誰からも一切聞くことは無かった。その情報を市井に流していたのは国の上層部だったらしいが、まぁ、そういうことなのだろう。


 これは完全に余談なのだが、ブルスルド王宮に新しく迎えられたシャルという白髪のメイドは、庭師として毎日泥だらけになりながらも王宮庭園で働いているのだそう。時々手紙に添えて送られてくる光を宿した花は、暗い所でも光るから便利だと王宮で流行ることになる。


「ん、涼しいな。学園にも持っていけたらいいんだけど」


 ふぉん、と冷たい風が吹く月光花を窓辺に置くと、俺は黒いタイツを穿いて制服を着こんでいく。まだ暑い日が続くけど、体形と日差しの対策の為にも多少は着こまないといけないのが辛い所だ。ブルスルドに居たときもドレスなんかを着てはいたけれど、風通しが良い素材だったし、そのあたりは少しあちらの文化がうらやましい。


「お嬢様、そろそろお時間ですよ」


「はいはーい」


 コンコン、とノックの音がしてスレイが呼んでくる。


 まだ暑さが残る青空の下で、俺たちは学園へ向かう馬車へと歩みを進めていった。



閲覧ありがとうございました!

これにて2章隣国での花嫁修業は終わりになりますが、次章の前に番外編が続きます。3章は糖度やシリアス度などが当社比高めになっていく予定です。よろしくおねがいします!



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