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真っ赤に染まる第三王子



残酷表現に注意です!



 お父様が帰って3日。


 どうしても心配だということで、スレイは王宮に残ることになった。執事では無く、メイド見習いとして。


 結婚を控える身で異性の使用人を部屋に入れるというのはこの国の常識では言語道断ということらしいのだが、俺は男だしスレイも男だ。だけど俺は嫁入りをするお嬢様という体なので、スレイはメイド見習いとしてなら良いということらしい。うん、とてもややこしい。


「姫さま、おはようございます。今日は日差しが強いので日焼け止めを塗りましょうね。少し髪を上げてください」


「ん。分かった」


 メイドのシャロンが笑顔で近づいてきた。そばに仕えるのは駄目というヴァルド殿下の命令で、スレイではなくシャロンが専属でついてくれている。シャロンは女性なのだが、男性の使用人よりも遥かに信用できるからオッケーらしい。


 俺はジルヴァ様達の修羅場を思い浮かべて憂鬱になりながらも、渋々両手で髪をたくし上げた。


「今日は王宮から出ないし曇りだし、日焼けなんて気にしなくていいと思うんだけどなぁ」


「姫さまは日に当たると火傷のように爛れてしまうんでしょう?スレイさんからお聞きしましたわ。白い肌が痛々しい姿になってしまうのは耐えられません。さあ、脚も出してください」


 シャロンの手には真っ白でふわりとしたクリームがあった。スレイが持ってきた吸血鬼向けの日焼け止めだ。シャロンはルシアのふくらはぎを丁寧に擦っていく。


「んー、なんだかくすぐったい」


 くつくつ笑いながら身を捩る。


「我慢してくださいませ。あら、ここだけ少し赤くなっていますね……。ちょっと染みるかもしれませんけどすぐに治りますから」


 そう言って指先で優しく撫でられると、身体がビクッと震えた。


「うぁっ!?まてまて!そこはなんか嫌だ!」


「ごめんなさい、痛かったですか?」


 シャロンは慌てて手を離す。


「ううん、だ、だいじょうぶだよ。ありがとな」


 ドレスでどうしても露出してしまう部分などにクリームを塗り込まれていると、扉の隙間から視線を感じた。顔を向けると、こちらを見て顔を赤らめているアレックスと目があった。


「ん?おはよーアレックス、何見てんだよ。エルといいスレイといい、男だとしても着替えを覗くのはマナー違反だぞ」


「とっ、通りがかっただけだ!俺様はべべ、別に、何も見てないし、聞いてない!」


 そういうとそのままアレックスは扉をしめて走り去っていった。貴族教育で鍛えられているはずなのに、ドカドカと足音を立てて走っていったので相当焦っていたようだ。


「久しぶりって言いそびれたな…」


「油断も隙もありませんね…姫さま、今日のドレスは白のハイネックにしましょう。首元までしっかり隠れますもの」


「ありがとう。コルセットは控えめにしてくれよ」


 そうしてシャロンにきっちりとしたドレスを着せられて、俺たちは朝の準備を整える。久しぶりにアレックスを見たので、ふとシャロンに疑問をぶつける。


「なぁシャロン、アレックスは最近忙しいのか?この間も赤獅子の戦果がどうとか聞いたんだけど、この国は戦争でもやってるのか?」


「いいえ。戦争はここ数年起きていませんよ。詳しくは分かりませんが……軍部は最近、討伐で大忙しなのだと聞きました」


「討伐かー…魔物の大量発生とかかもな。あ!そうだ。なぁ、シャロンは知ってるか?踊りキノコって…」


 シャロンと2人でおしゃべりをしつつ、またブルスルドの王妃教育に追われる一日が始まった。



***



「あー。アンタにはがっかりだ。本当に救えないなぁ〜?」


 趣味の悪い黄金の燭台がバタンと倒れ、男は上等な絨毯の上で尻餅をついた。何処を見ても趣味の悪い屋敷。その一部屋でアレキサンダーはため息をついた。


「ヒィッ赤獅子!?なぜ私に剣を向けるのだ!」


「ネタは割れてんだぜ〜?第一王子派だったアンタが俺らと敵対する派閥に入った理由くらいわかるさ、まさか毎晩いたいけな女を騙くらかして売り飛ばそうとしてるとは思わなかったけどなぁ?」


 もてなしで出された茶菓子を蹴り上げてテーブルに足を乗せる。アレキサンダー第三王子の獰猛な視線に貴族の男は震え上がった。なぜバレたのだ。計画が発覚したとしても末端が始末されるだけで首謀者である自分は捕まらないはずだ。


 だが、この赤獅子の目つきはどういう事だ。まるで自分の全てを見透かすような瞳に背筋が凍る。


「ま、待ってくれ、私はただ、あのお方の役に立てればと思って……」


「へぇ?アンタを唆した奴がいるのか。それは誰だ?教えてくれりゃあ見逃してやってもいい。俺様は気が短いから早く答えないと殺しちまいそうだ」


 アレキサンダー王子がニヤリと笑ってみせると、男は慌てて口を割った。


「わ、わかった!話すから殺さないでくれ!!」


「おいおい。ちょっと脅しただけで喋るのかよ。部下に比べて堪え性のない奴だな〜。爪3枚くらいは耐えるかと思ったんだけど期待はずれだ」


「ヒィイイッ!?リップル男爵令嬢だッ!私はリップル男爵の指示で行ったことだ!!だから助けてくれ!!」


「………へぇ?お前より格下じゃないか。従う必要ないだろ」


「あの方はッ…特別なのだ…あのお方の為なら私はなんでも…」


「なんだぁ?詳しく理由を話してみろよ」


 ドスの効いた声に怯える男の額には玉のような汗が浮かんでいる。だが命の危機を脱したという安堵の方が大きいらしくペラペラと話し出した。


「もういい。口よりも中身に聞いた方が早そうだ」


 呆れたように呟いた赤髪の男の声を聞いて男はビクつく。その言葉の意味が理解できたからだ。


「やめ、私は話したじゃないか!まだ死にたくないんだッ!私を殺したら他の者に露見する!また同じことを繰り返すぞ!」


 男が必死の形相で訴えかけるが、それを聞いていたアレキサンダーの顔からは感情の色が失われていく。代わりに瞳に宿るのは静かな殺意。それが男にとっては怖かった。殺されるという確信があったからだ。


「ならばその他の者にも、全ての者に制裁を与えればいい。ただそれだけの事さ。それともなにか他に言いたいことでもあるか?」


「ひぃいいいっ!?殺さないでくれえぇええ!!!頼むぅうう!!どうかこのとおりです!!」


「つまんね〜な。がっかりだぜ、マジで」


 恐怖に支配された男が土下座をする勢いで地面に這いつくばって頭を垂れるが、アレキサンダーはそのまま剣を振り下ろした。悲鳴を上げる間も無く首が落ち、そのまま動かなくなる男を見てアレキサンダーは無感動に見下ろした。


 そして血のついた剣を拭いもせずに目の前に掲げると、呪文を唱えた。


『血操焔』


 異界の言語を唱えると、真紅の炎が男の死体に燃え移り、死体を燃やし尽くすまでそう時間はかからなかった。真っ赤な炎に片手を翳すと男の記憶がアレキサンダーの頭に浮かんでは消えた。


「チッ…貴族に奴隷商人にまだこんなに居るのかよ。うちの国腐った奴らが多すぎないか?」


 舌打ちをしながら次の標的に向かって歩き始めると、足元に倒れ伏していた奴隷の女が顔を上げて震える唇を動かした。


「あ、ありがどうございまず……」


 涙を浮かべながら礼を言った奴隷に対して、眉を寄せながらも少しだけ微笑んだ。


「俺様はお前を助けたわけじゃないぜ。ほら、礼を言う暇があるなら他の奴らを解放してこい」


 炎から悪趣味な鍵束を取って地面に投げると、アレキサンダーは部屋からでる。奴隷の女はぼたぼたと涙を流し続けていた。

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