ブルスルド王国第三王子
ブルスルド王国第三王子、アレキサンダーは戦争の為に産まれてきたかのような軍事の才能と苛烈な気性を持ち、血に濡れたような赤髪と赤い瞳から、赤獅子の血王子という呼び名で第三王子ながら近隣国に知られている。
機嫌を損ねれば戦争が勃発し血の池が作られる…と、言う話を聞いていたのだが。
「ちょっと!怯えさせちゃったじゃない。私はナイフくらいじゃ死なないんだからこの子達に乱暴しないの。」
「師匠こそ魔力で魅了させようとしたじゃんか〜?乱暴しようとしたのはそっちなんじゃねぇの〜?」
固まっていたルシアの目の前ではそんな第三王子と魔女が子供の喧嘩のように言い争いをしていた。
「マジで好みの女の子を見つけ次第、身分関係なくすぐに食べようとすんの、良くないと思うぜ?」
「良いじゃないの。それが魔女の嗜みだもん」
「はぁ、尻拭いする弟子の苦労を考えてくれよ。はぁ、ごめんな、怖い思いさせちまって」
言い争いの内容はさておき、どうやら2人は本当に俺たちと話したいだけようだった。どちらにしろ手段がひどい気がするが。それに師匠とは一体どういうことなんだ?
「あぁもういいわよっ!はい自己紹介!」
「おっけー。俺は第三王子にして王位継承権第一位のアレキサンダーだぜ〜。気軽にアレックスって呼んでくれよな。」
「へっ…えっと、よろしくお願いします?」
手を取られてブンブン握手させられた。赤毛の大柄の男に見下ろされるとどこか威圧感を感じる。
現にまだ俺にはこの人が王族であるという実感がないのだが……。そんな考えを読んだかのように妖艶に微笑み直した魔女も手を取って挨拶してきた。
「そして私は叡智の魔女エルドリーズよ。この城で宮廷魔法使いをやってるの。私は是非ともエルちゃんって呼んで欲しいわ。」
「よ、よろしく…ぅひっ!?」
手を撫で回すように触られてぞわっと変な感覚が背中を走った。それを見た魔女が俺の手から腕にすすすと触れてきた所で、アレックスがエルドリーズをひっぺがしてくれた。
「だからやめろって。普通にセクハラじゃねーか。」
「うふふ、ごめんなさいねぇ。つい楽しくて」
「全く…何度も悪いなレジーナ。師匠は一応魔法の腕は世界一だ。油断するとマジで食われるから2人きりになったら駄目だぞ〜?」
「は、はい。分かりましたわ」
食われると言うのはそう言う意味なのだろう。だが俺は男だ。もしもの時になっても大丈夫…だ、ろうか?不安だ。まだ完全にはこの2人の事を信用することはできないが、機嫌を損ねれば戦争になるという恐ろしい噂に比べて話が通じそうなアレキサンダー王子にほんの少しだけ安心した。
「…ええと、ひとまずはスレイを解放して頂いてもよろしいかしら?もう危害は加えさせませんので…」
「あ、忘れてたぜ」
地面に転がって恨めしそうな目をしているスレイに、2人はやっと気づいてくれた。
***
「はぁ!?招待状と一緒に脅迫状〜?そんなの送った覚えはねぇよ〜。まさか師匠か?」
「いいえ、私が送るのはラブレターとファンレターだけよ。そんな無粋なものは送らないわ。それに私は貴方達とは初対面だもの」
「そ、そうなんですの?私、死地に向かうような思いでここに来ましたのに」
家に届いた招待状は確かにアレキサンダー王子が確かに送ったものだったのだが、一緒に届いていた『舞踏会に参加しないとお前の大切にしているものを酷い目に遭わせるぞ』という脅迫状には身に覚えがないらしい。
スレイはアレキサンダーを見て、眉間にシワを寄せた。
「アレックス。まさか生徒会の副会長に推薦した恨みでこんなことをやったんですか?最低ですね」
「んなことするわけないだろ!まぁ、その脅迫状のおかげで2人がウチに来てくれたのは嬉しいけどな〜」
「冗談じゃない。迷惑だ」
「あの!…先程から気になっていたのですが、スレイとアレキサンダー様はお知り合いだったのですか?」
スレイが砕けた口調でアレキサンダー王子に口を聞いていて、不敬なのでは無いかと不安になって口を挟んだ。
「ん?あぁそうか、レジーナはこちらの姿の方が馴染み深いよな〜」
アレキサンダー王子はきょとんとした後にニヤリと笑って、懐から取り出した銀色の腕輪を手首に巻いた。すると赤い髪から色が抜け落ち、まるで新雪のような白い髪に変わった。体格も先ほどより縮まり、スレイより少し大きいくらいの体躯になっている。
高度な魔法に驚いていると、エルドリーズがふふんと胸を張っていた。
「ほら、スレイの友達のアレックスだぜ。改めてよろしくな!」
「…まぁ!そうだったのですね!」
思い出した。確か、俺たちが副会長にされそうになった時に、スレイが「Sクラスのアレックスがいいと思いますよ」と身代わりにしていた気がする。その生徒がアレキサンダー王子だったのだ。すごく不敬だ。
ヴァルド殿下の時のように本物のレジーナとは面識があったのだろうが、身代わりの俺には、アレックスとの出来事なんて知るわけがない。
(…うん、昔の話題を振られたらスレイに擦りつけて誤魔化すか!)
今後学園でもし会った時も、友達らしいスレイを盾にすれば穏便に済ませられるはずだ。俺はそんなことを考えながら、目の前で楽しげに話す3人を眺めていた。
「ところで〜…レジーナはラクラシア王国で婚約取り消しになったんだよな?もう他の婚約者候補は決まったのか?」
「いいえ。未だに心の傷が癒えないお嬢様をまたすぐに娶ろうという方など居ません。ですので、お嬢様の婚約については当分先に延期されますね」
スレイがやれやれと言った表情で、お父様と用意していた断り文句を告げる。本物のレジーナお嬢様が下町で暮らしていて戻る予定がない中、婚約者を付けるのは余りにも無理があるからだ。当分先というが本物のレジーナお嬢様が戻らない限り、レジーナ公爵令嬢は婚約や結婚をすることはない。
だが、それを聞いたアレキサンダー王子の目が光った。
「…なら、俺様と婚約を結ぶのはどうだ?子供の頃、レジーナは俺様と結婚するって言ってくれたよな〜!」
「え゛っ…!?」
……なんだそれ初耳だぞ!?︎本物のレジーナお嬢様の過去の言動に衝撃を受けていると、スレイが冷ややかな笑みを浮かべた。
「戯言を。レジーナお嬢様は覚えていらっしゃらないでしょうし、その頃の嬢様はまだ物心も付かなかったはずです。…冗談でも言っていいことと悪いことがある」
「いや、あれは本気の顔だったぜ。俺様には分かる。それに今だってまだ婚約者は居ないんじゃないか。問題ないさ!」
問題大有りだろ!!︎そう思った俺は思わず口を開いた。
「勝手に話を進めないでくださいまし!私は婚約も結婚も暫くは考えられませんわ。そもそもこの話は破談になったはずでは?」
そうだ。もう終わったはずの話だろう。なぜ蒸し返すんだこいつらは……
すると今度はエルドリーズが声を上げた。
「まあ、私とはどうかしら。レジーナちゃんが私の事を少なからず好いてくださっている事は知っているのよ」
「えぇ……」
確かに好意を持たれているかもしれないけど、それは恋愛感情ではないと思うのだが。怪しい視線で見つめられて身震いしてしまう。あと何気に名前呼びされてるし。
「貴女は絶対駄目です」
「師匠はやめた方がいい」
「なんでよ!ちょっとくらい良いじゃないの!」
結局、婚約の話は有耶無耶にされてしまったようだ。エルドリーズもアレキサンダー王子も一体どうすれば諦めてくれるのか。いっそ男だとバラした方が楽なのでは?と思ったのだが、それをやってしまうのは一番まずい。バルコニーに他の人が来るまで俺は2人から熱烈な口説きを受けたのだった。




