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燃えるように赤く

 煌びやかで豪華な会場に、思わず感嘆の声を上げる。色とりどりの料理が並ぶテーブルの間を優雅に歩く貴婦人たちは皆美しく着飾っていた。


 夜会は立食形式になっており、壁際にはテーブル席が設けられており軽食が用意されているようだ。料理の腕を振るうためなのかコックコートに身を包んだ給仕係の姿もちらほらと見受けられる。


 会場の中央には大きなステージが設置されていて楽団による演奏が行われている。ダンスの曲が流れる中次々と男女が手を取り合う。


 ……すごいなぁ。さすが王族主催というべきか……


 俺はあまりの場違いさに居心地が悪くなる。思わずスレイの腕にしがみつくと、彼は困ったように眉を下げた。


「お嬢様、招待状を送ってくださったアレキサンダー第三王子に挨拶に行かなくてはいけないんですよ?そんな顔をしないでください」


「だって学園とは違って貴族の方しか居ませんし、場慣れしていないもの。それにこの手を離したが最後、絶対!よく分からん奴に!絡まれますわ!」


「それもそうですね、失礼しました。でも今更無理じゃないですか?」


 クスリと笑うスレイに頬を膨らませて抗議する。そう、俺たちが会場に到着した時から、良くも悪くも周りから熱い視線を受けているのだ。別の国とはいえ、ラクラシア王国の第一王子と婚約取り消しになった公爵令嬢である。それに俺が学園にいる間は社交の誘いを断ってきたのだから、このような舞踏会に居れば貴族からの視線を集めるのは仕方のない事なのだろう。


 ビシビシと刺さる視線から隠れようとスレイの腕を食い込む程握っていると、突然後ろから声をかけられた。


「そこの君、もしかしてレジーナちゃんじゃないか?久しぶりだなぁ!」


(うわっ!?酒くっっせぇ!?)


 振り向くと、ガタイの良い白い髪のおじさんがいた。どうやら彼はかなり酔っているらしく、それでもお酒を飲んでいたのか顔から首まで真っ赤になっている。だが、俺は冷や汗を隠して咄嵯に笑顔を作って彼に返事をした。


「…ごきげんよう、ヴァルド=ブル=ファタナギル殿下。本日はお招き頂きありがとうございます」


 そう、彼はこう見えてブルスルド王国の王である。俺をここに呼んだ第三王子のお父上である。事前に廊下で肖像画を見掛けなかったら、不審者として逃げていたかもしれない。


 なんでこんな偉い人がわざわざ俺に話しかけているのか。…まあ理由は簡単で、殿下はケイプ公爵と幼馴染だから、らしい。メイド長しかり、お父様の幼馴染はクセが強くないといけない呪いにでもかかっているのだろうか。


「随分と綺麗になったなぁ!昔みたいにヴァルドおじちゃま〜って言ってくれて良いのに。ハハハ!」


「で、殿下にそのような口は聞けませんわ」


 この人は本物のレジーナと縁深いらしい。だが、俺が彼女の身代わりになって居ることは知らないのだろう。懐かしむような顔をされても、俺は思い出話に花を咲かせることは出来ず、曖昧な返事しか返せない。


「それで、隣に居る君は誰かな?まさか新しい婚約者って訳じゃないだろう?」


「ご挨拶が遅れ申し訳ございません、殿下。お嬢様の専属執事として仕えさせて頂いております。スレイ=ヒルストと申します」


「ふむ…そうか、お前が…」


 何かを考えるようにヴァルド殿下が顎に手を当ててスレイを見る。何度か頷いて何かに納得したように手を叩くと、殿下はスレイの頭をポンポンと頭を撫でた。


「良い目をしているな。ジルヴァが雇うはずだ」


「ええ。お父様も私も自慢できる、有能な執事ですわ」


「そうか!レジーナちゃんがそう言うなら間違い無いな!」


 そういうと殿下はハハハと笑って、お酒を飲みに立食会場へ去っていった。……嵐のような人だ。


 だが、殿下のおかげで周りの視線がそちらに向かってくれた。刺さるような視線が外れてホッと息をついた。もしかしたら、緊張していた俺に気を遣って話しかけてくれたのかもしれない。でもワインをラッパ飲みするのは身体に悪いと思うぞ、おじちゃま。



 ***



 楽団が演奏するワルツが止まり、軽快なリズムのピアノの音に変わる。


 音楽に合わせてダンスホールの中心から男女が出てきた。褐色の肌に炎のような赤い髪だが、対照的な金と銀の衣装に身を包んだ2人が情熱的なステップを踏み始める。女性は妖艶な雰囲気で、男性は威風堂々としていた。


 …溜息が出るくらいに見事な光景だ。あの二人の組み合わせは誰も逆らえないんだろうと思ってしまうくらいに、息ぴったりな動き方だと思う。


「…っ!」


 ふいに踊っている女性がこちらを見て微笑んだ気がして、思わず顔を背けてしまった。


 男女が派手な動きをするたびに、ダンスホールが歓声に包まれた。男性が女性の腕を上げて、指先にキラリと光が反射する。


 …そこで俺はやっと気づいた。あの指輪には見覚えがある。それに髪色は違うけれど、よく見れば顔の作りは全く同じだ。


(あの人、船で抱きついてきた魔女だ!?)


 まさにその人は、客船で匿った魔女という種族の女性のようで。また目が合った途端、彼女は不敵な笑顔を見せた。


「す、スレイ、あの人…」


「……ええ。この舞踏会で一番、厄介な方ですね」


 スレイの表情も、少し険しい。貴族向けの豪華客船にいた事から、彼女は高い地位の存在であることは察していたが。まさかこんなところでまた会うとは思わなかったのだろう。


 軽快なリズムの音楽が終わると、注目を浴びていた赤髪の男女は一礼をしてダンスホールには拍手が鳴り響いた。


『お二人さん、西のバルコニーにいらっしゃい。少し話をしましょう』


 魔女は、すれ違いざまに俺たちだけに聞こえるように囁くと、再び優雅にお辞儀をした。



***



 夜風が頬を撫でていく。踊り終わった人達で賑わうダンスホールから、俺たちは人気の少ないバルコニーに出ていた。


「昨日ぶりね?あの時は助かったわ。どうもありがとう」


 妖艶に笑う彼女に、スレイが眉をひそめる。どうやらスレイはこの人にあまりいい印象を持っていないようだ。


「……いえ、ご無事そうで何よりです。しかしどうしてこのようなところに?」


 スレイは冷静な口調で尋ねた。ルシアも彼女の意図がわからず戸惑うばかりである。


「ああ、これはちょっとした遊び。息抜きのようなものよ、気にしないで頂戴。それより、お姉さんはもっと貴女とお話していたいな。ねぇお嬢さん、今度一緒に食事に行かない?」


 軽いノリで喋っているようだが、彼女から出ている匂いの質が変わったのを感じた。瞬間、スレイに腕を強い力で引かれる。


「っ…!お嬢様、下がってください!」


 俺はそのままスレイに引き寄せられる。魔女は目を細めて口元だけで笑っており、瞬間、ぐらりと甘く鼻につく匂いが魔女から溢れ出し、おもわず鼻を覆う。


(…ッ!?この匂い…マリと同じ…!?)


 咄嵯にスレイが懐から短剣を抜くと、彼女の首元に突きつけた。しかし彼が次の行動に移すよりも早く、控えていた赤髪の男が短剣を蹴って弾き飛ばす。いつの間に移動したのか。


 俺の腕を掴んだままだったスレイはすぐさま離すと、数歩下がった。俺もまた、突然の出来事に一瞬呆然としていたが、我に返って後ろに下がり、赤髪の男女から距離を取る。


「あ〜もう、師匠。元とはいえクラスメイトを虐めないでくれよ。スレイも!一応、師匠もか弱い女性なんだから、そうやってすぐに手を出すのはよくないぜ〜?」


「…は?お前その声、まさか…ぐぁっ!?」


 赤髪の男がのそりと動き出すと、素早くスレイの腕を掴み、地面に組み敷く。そして何やら呟くと、拘束の魔法を使ったのか、スレイはそのまま地面に磔にされた。


「一体何を…!」


「いやぁ、やっとこうして会えたなぁ〜?」


 ルシアは思わず男を凝視するが、こちらを見てにへらと人好きのしそうな笑みを浮かべた彼は、どこか幼い雰囲気がある。だがその表情はすぐに引っ込み、男らしく、精鍛で色香漂う顔つきに変わったかと思うと、その顔を近付けて耳元で囁いてきたのだ。


「招待状、受け取ってくれて嬉しいぜ」


 俺はそれを聞いて、驚愕に震えた。

 赤髪の男はニヤリと笑ってルシアに告げる。


「俺様は、アレキサンダー=ブル=ファタナギル。ちょっと一緒にお話ししようぜ」


 ルシアは公爵令嬢として名を名乗り返すこともできず固まっていた。


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