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真理



マリ視点です。残酷表現にご注意ください。



 いつの間にか、夕日で橙色に染まっていたはずの窓が赤く、血に濡れたような色合いで教室内を赤く満たしていた。湿度が高く重苦しい空気がルシアから湧き出ている。錯覚のようにバキバキと床や壁が歪んでおり、異空間のようだ。


『黙れ…汚い口で囀るな』


 真祖が放つ濃密な闇の波動に飲まれかけたマリだったが、次の瞬間には弾かれたように飛びのいていた。


「……は……?何それ…私のラブ魔法が…」


 強く発動させていたはずの、常時好感度をアップさせるチート光魔法が消え、周りの男たちは糸が切れた人形のように地面に倒れ伏していく。


 ルシアの目は爛々と紅く輝き、その目に睨まれただけで、マリは息が出来なくなった。


(……真祖のルシアしゃま…?本当に…本当に存在してたんだ!?)


「はわぁあ…!……っうぅ……」


 マリは興奮しつつも、死の恐怖に足がすくんで動けない。光魔法も封じられているのか、持っていた光の聖剣も、スマートフォンすらも消えていた。


 ずっとこの神々しい姿を見ていたい気持ちがありつつも、このままでは殺されるという恐怖心が身体に震えをもたらしていた。だがマリはその恐怖に耐えて、なんとか手を動かして鞄の中のポーションを取り出す。たかが乙女ゲームとはいえ、こんな訳の分からない死に方は嫌だ。


『動くな。動いたら殺す』


「……っ」


 動かなくても殺されそうだ。だけどマリが殺せない相手ではない。裏技で限界までレベルを上げたヒロインに出来ないはずがないのだ。


 震えながら白い最上級ポーションの蓋を開けて中身を喉の奥へと流し込むと、形容し難いほどの苦みが広がった。


「……ぐふっ……げほっ……」


 めちゃめちゃむせた。ぜんぜん無理!マッズい!

 今までマジカルスイーツしか食べてこなかった私に、こんな苦いの飲めるわけないじゃん!?


 無表情のルシアが近付いてきて、片手で無造作にマリの髪の毛を掴む。彼が私の首元に手を翳すと焼けるような痛みが走り、そこから血を流し始めた。傷口から溢れ落ちてくるマリの赤い血液を味見するようにルシアは指で触れると、血を唇につけた。


 ……その赤さに魅せられてくらくらしてくる………ごくり……。


「ひえっ……ちょっと……そんな、血を飲むなら私じゃなくてルシアしゃまの方を……」


『貴様が死ね』


 無慈悲な声と同時に首元から鮮烈な激痛。強い力で噛みつかれているのだろう。


「っだああぁああぁあ!!あ、ああああ!!???」


 痛い、痛い!!!!

 悲鳴をあげて身を捩っても、強い力で抑え込まれていて身動きすらできない。じゅっと吸い上げられる度に痛みが走った。涙も鼻水も出てくるがルシアは無表情のまま容赦なく首を吸い上げていく。


 やがてぷはっと音が聞こえて、ルシアは口を離した。はぁはぁと荒い息をするマリの首筋には血が伝っている。


「か、ひゅ、は…」


『…光魔力を宿した血はゴミ以下の味だな…眷属化すらも穢らわしい』


 ルシアは血のついた唇を舐めると、吐き捨てるように呟いた。だけど彼の言葉を聞きながら、私は意識を失う寸前のところで、どうにかこうにか四つん這いになって逃げることに成功した。


「は、はぁ、あは、あはは!!ヒロインが、攻略キャラに殺されるなんて、ありえない、あり得ないんだから!あははははは!!」


 なんとか廊下に転げ出ると、目の前には紫髪の少年が居た。彼はこちらを見て驚いたように目を瞬かせている。


「マリ…?」


「!シオンさま!シオン様、助けてッ!ルシアしゃまが、私のことを…!……あ……?」


 ガクンと、床に縛り付けられるような感覚。魔力の威圧なんて、私には効かないはずなのに。いつの間にかシオンの影魔法が足下から伸びてきていた。ぎちりと黒い鎖に縛られた身体はもう動けなくなっている。


(あれ?なんで、なんで動けないの?)


「……もういい…やめてくれ……」


 顔を上げると、涙を流すシオンがいた。シオンの背後ではネルスとスレイが何とも言えない顔つきをしてこちらを見ていた。


「なんで、なんで?なんでなんでなんで……なんでそんな目で見るのよッ!??私はヒロインなのよッ…!!聖女なの!!チートなのよ!??攻略キャラ如きがぁ!!」


 獣のような慟哭と共に、自分の足元から伸びる影の鎖が砕け散る。

 それはまるで硝子細工のように簡単に壊れ、マリはその場に崩れ落ちた。



 ***







 真理(マリ)は、この世界の人間ではなかった。


 彼女は乙女ゲームと呼ばれるジャンルのゲームをしていた。


「うわぁ…!買ってもらったゲーム、どのキャラもキラキラしてて、素敵!全員と恋愛できるんだ。よーし!」


 だけど、不確定要素や必要な手順、それらを踏まえた隠しキャラなどを全て網羅するには、中学生の真理にはこのゲームが難しかった。


 中古で買った設定画集を読み漁り、好きなキャラクターのプロフィールは暗記。それほどに愛を持っていると自負していたのだが、何度も別ルートに行ってしまったり、攻略したいキャラ自体が出なかったり。真理はゲームを楽しむよりも、クリアすることが目的になっていた。


「うーん…攻略見ていくらやってもダメ!出会いも好感度上げもランダム要素強すぎだよ!…おっ、バグ動画…裏技?LV MAXにキャラ操作…増殖にチート…これさえあれば、やっとクリアできるかも!やったぁ!これで全ルートのハッピーエンドに行けるぞ~♪」


 そうして真理は見落としていた。

 このゲームは、正規の方法で遊ぶのが前提の仕様になっていたということを。


 真理は、学校から帰ってきたある日、いつものバグ技を使ってプレイしようと、ゲームを始めたはずだった。


「ふふふ〜!今日こそ隠しキャラをおとすんだから!」


 しかしゲームの画面は、いつもと違い真っ暗で何も見えなかった。


「え?あれ?なんで?おっかしいな…」


 そして気がつけば自分は、ヒロインとしてこの世界に居たのだ。

 その瞬間にマリは全てを悟った。


 自分はあのバグ技を使う前に、死亡していたのだ。死因は覚えていないが、病気か、交通事故とかだろうと思った。現実の自分がどうなったかなんて分からないけれど。私は並み居るイケメンを全部虜にして、このゲームをクリアしようと思ったのだ。


「よし、決めた。まず最初に生徒会を全員虜にしましょう!逆ハールートはないけど、ヒロインの可愛さがあれば余裕よ! 」


 それだけが彼女の行動原理であり、「乙女ゲーム」の記憶以外の全てが心の中からすっぽりと抜け落ちて、家族も友人も住んでいた場所も、何もかもが無くなっていることに疑問を持つ事は無かった。

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