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生徒会からの勧誘

 翌日。


 学園の生徒達は朝から一つの話題で持ちきりだった。その話題とは、「シオン第二王子が生徒会副会長を辞任した」というものだ。


 何でも、昨日の放課後に生徒会室の前で、シオンが会長であるネルスに辞任を宣言したそうだ。そして「もう二度とこの様な真似はしない」と深々と頭を下げたんだとか。


「それで貴方は、次期副会長にと私を勧誘しに来たのですか」


「そうなんだ。レジーナ先輩は有名なケイプ公爵家の御令嬢だし、身分も生徒会に相応しい。だから……」


「嫌ですわよ。私は生徒会には入りません」


 キッパリと断ると、メルタはガックリと肩を落とした。


「そうか…やっぱりそうだよなぁ…無理言ってすみません……」


「だったらそんなに落ち込まないでくださいまし。なんでわざわざ聞きに来たんですの」


 今にも泣き出しそうなメルタを宥めると、深くため息をついてから、その理由を話してくれた。


「他の役員が副会長にレジーナ先輩を推薦したんだ。特にアリステア先輩。けどよく考えたらレジーナ先輩は会長と婚約破棄した身だしな」


「ええ、お嬢様は元は次期王妃筆頭ですからね。よくよく考えなくても、立場が悪くなる事は予想できます。生徒会は考えなしの集団なのですか?」


 スレイが悪魔のような笑顔で…いや、真顔だ。氷みたいに冷たい視線でメルタを睨みつけている。いつもの倍怖い。


「うっ、ごめんなさい…でもレジーナ先輩がダメならスレイ先輩をって言うんだよ。ギルバート先輩が生徒会に欲しいって俺を脅し、じゃなくてすごく推してるんだ」


「…はぁ?」


 スレイまで巻き込まれてしまった。盾が無いと俺は面倒ごとに巻き込まれやすいというのに。


 生徒会の役員になったら、またアリステアに構い倒されたり、変態に突っ掛かられる事間違いなしだ。ギルバートは最近俺に突っかかってこないから油断してたが、今度見かけたら殴ってやろうと思う。


「私から最愛の執事を離すだなんて嫌ですわ。絶ッ対ギルバート様には渡しません」


 ガシッとスレイの片腕を掴んで威嚇すると、何故か顔を赤くしたスレイが照れたように咳払いしている。


「こほん、それで?お嬢様も僕もお断りしますが、他に代案はないんですか?」


「うーん…やっぱりレジーナ先輩とスレイ先輩以外に居ないと思う。あとはマリがやりたがってるけど、会長や副会長に就任するのは特待生入学した生徒は禁止されてるので」


 それを聞いてスレイがため息をつく。


「……禁止と言えど、彼女ならルールごと捻じ曲げそうですね。……Sクラスのアレックス辺りに聞いてみてはいかがでしょう?あいつは爵位持ちですし、多少は顔も広いはずです」


 それはもう、本当に面倒くさそうに言った。俺は聞いたことのない人物だが、スレイが副会長に推薦するのならちゃんとした身分の人なのだろう。


「なるほど、魔道具屋のアレックス先輩か…分かった!じゃあ早速聞きに行ってくる!」


 元気いっぱいに立ち上がって教室を出ていくメルタを見送ると、スレイは再び深い溜息をついた。


「全く、どうしてこう、一つの問題が解決したとしても、後から別の問題が起こるのでしょうね…」


「私に言われても困りますわよ…」


 俺たちは二人揃って大きな溜息をついて、スレイは眉間を抑えていた。



 ***



 午前の授業が終わり、実践授業の帰り道で久しぶりに変態2号(ギルバート)を見つけた。


「…おっと?生徒会の会計様ではありませんの。お久しぶりですわね?」


「ひょわぁ!?れ、レジーナちゃん?突然どうしたの、何?今日は小悪魔モードなの?」


 通りがかりにギルバートを見かけたので、フッと吐息が掛かるくらいの耳元で囁くと、耳を抑えて蹲った。ふん、俺の執事を生徒会で奪おうとするからだ。覚悟しろ。


「ええ、今日の私は怒っていますの。スレイを私から奪って困らせようとしましたし。私からも日頃のお礼をして差し上げようかと思いまして」


 俺の声を聞いたギルバートは、顔を赤くして勢いよく首を振る。


「れ、レジーナちゃん悪かったってぇ!僕はスレイ君が生徒会に来てくれたら、君とも仲良くなれるかなぁって思っただけで!怒らせたいわけじゃなくってぇ!」


 その言葉に、一旦握った拳を止める。


「ふむ?私とも仲良く……?嫌がらせかと思いましたが」


 ここ最近はよく避けられてるし、てっきり俺を困らせるつもりでスレイも生徒会に推薦したのかと思っていた。しかしギルバートはあっけらかんと答える。


「えぇー?なんでレジーナちゃんが僕のことをそんな風に思うのさぁ。そりゃ、ちょっと恥ずかしくてしばらく避けてたけどぉ。僕と君はお友達じゃ〜ん、もっと仲良くなりたかったんだよぉ」


「お友達ぃ…?お友達、ですの?私と貴方が?」


「うん!そうだよぉ!」


 お友達。確かにこの関係を表すのであればお友達という言葉がピッタリかもしれない。心底嫌だけど。こいつは変態だけど。何かと面倒くさいけど。


 心の底から嬉しそうな笑顔を浮かべるギルバートを見て、俺はなぜか少し赤くなった顔を隠すように俯いた。……顔は良いんだよな、この変態も。なんか悔しいけど。


「そうですの…お友達、お友達ですか…」


 そしてそのまま踵を返して歩き出すと、後ろから慌てた声が追いかけてくる。


「あぁっ!ちょっ、レジーナちゃあん!」


「…ふん、まあいいですわ。今回は許して差し上げます。スレイが待ってますので失礼しますわね。ギルバート」


「えっ」


 くるりと振り向いて、いたずらっぽく微笑む。ギルバートは目を丸くして呆気に取られたあと、両手で顔を覆った。


「もうっ!レジーナちゃんはすぐそういうこと言って!ほんっとうに可愛いんだから!」


 そう言うギルバートは、本当に楽しそうだった。



 ***



「あーあ…レジーナちゃんは…ほんとに、甘い子だよなぁ…」


 息を吸うとミルクの様な甘い残り香がギルバートの鼻をくすぐる。マリから「私以外の女の子に迫っちゃダメですよ?」なんて言われてたけど、あんなに翻弄してくるのは、ズルい。反則と言ってもいい。


 だってレジーナちゃんは僕が今まで出会った中で、一番いい匂い(魔力)の子なんだもん。生徒会の役員もスレイ君も然りだけど。ネルスとの婚約が破棄されてから溢れているあの濃厚で強い魔力は、ショックで覚醒した物なのか。それとも何か仕組みがあるのか。どちらにせよ、ぜひとも僕の物にしたい。


「うーん。やっぱり婚約者になるのが人道的で手っ取り早いけどぉ。お父様は首を縦には振らないだろうなぁ」


 最悪の場合、この国の宰相の首が飛ぶかもしれない。それにきっとレジーナちゃんは誰のものにもならないだろう。次期国王のネルス殿下でさえ袖にされたのだから。


 だけど、それがまたあの子の良いところだ。マリみたいに僕達を翻弄するようで、いざ近づくとすぐに逃げる。なのに距離感はどこかズレていて、じれったいのが堪らない。


「でも、懐には入れたよねぇ…ズブズブの関係になるまでぇ、ゆっくりじっくり待っててあげるから」

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