表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/223

頭の中がお花畑

「…ムッ!?生徒会の副会長をなぜここに!?どうしたのかねレジーナ君!ここは保健室ではないぞ!」


 パチン、と時魔法を使ってライアン委員長が出迎えてくれた。


「申し訳ありません。この人に何か魔法をかけられている気配がありまして、人目に晒して保健室に運ぶよりもこちらの方が安全だと思いましたの」


「……そうか、それは災難だったね。この部屋には人払いの結界もある。正しい判断だよ」


 俺がお嬢様モードで対応している間に、スレイが禁書を持ってきてくれたので、目的のページを捲る。


「そうそうこれですわ『狂花催眠』」


 相手を魅了させるための催眠術で、相手が眠っている状態でのみ発動可能。重ねて使う事で術者に傾倒させると同時に狂化状態となる。しかし重度の狂化状態は幻覚を見ることもあり、精神の破壊などの作用も起こりうる為非常に危険である。また相手への信頼関係によっても効力に違いが現れる。…と、書いてある。


 つまり、シオン第二王子にかかっている魔法の正体は洗脳ではなく魅了に近いものだとわかった。


「王族にこのような術をかける者がいるとは」


 俺が読み上げた内容にライアン委員長は眉間を寄せて険しい顔をしている。確かに第二王子であるシオンを害するのは、国を敵に回したも同然だ。……俺が第一王子に催涙スプレーをぶっかけた事は、まぁ、棚に置いといて。


「んー…しかも私に敵意が向くようになっていましたわね」


 元々本物のレジーナの時から嫌われていたのかも知れないが、俺は学園に来てから特にシオン王子には関わっていないし、せいぜいアリステアに見せられた夢で会った程度なのだが。ナイフを向けられるような言われは無い。というかそもそも、いつからこの催眠を掛けられていたんだろう。


 悩んでいると、こちらを伺うようなスレイと目があった。何かを言いたそうに、でも我慢するように唇を噛んでいた。


「お嬢様は…助けるんですか?こいつは突然襲いかかってくるような男ですよ」


 余程、本物のレジーナお嬢様を傷つけられたことがトラウマなのだろう、確かに、本物のレジーナをシオン第二王子は追放した。詳しい事情は知らないが、先ほどのように激昂して無理矢理屈服させたんだろう。


「だからこそ、正気に戻して説教してやるほうが良いんじゃありませんの。ギタギタにして、2度と歯向かえない様にしてやりますのよ?」


 ふふんと笑ってみせれば、スレイは驚いたように目を見開いてそれから少し寂しそうに笑った。それに、正気に戻した後の方でシオンに報復した方が堪えそうだろ?さすが俺。いい考えじゃないか。


「貴方は本当に…いえ、なんでもありません。であれば、解除の方法はご存じなのでしょうか」


「……そこまでは分かりませんわ。術者への記憶を消す…辺りかと思ったのですけれど、本には詳しく書いてありませんし」


「えっ?馬鹿なんですか?」


 失礼な。だけど俺も禁書に解除法が載っているとばかり思っていたのだ。そういうわけでもないらしい。禁術とは言っても魔法である。なら解く方法も同じはずだ!と言っていると、スレイの視線が段々と冷たくなってきた。


「おや、ならば私が試してみようか?魅了や混乱は時間経過で解けるものだろう?だとすれば、時魔法を使えば容易いからね」


 ライアン委員長が提案してきたが、つまりは、シオン第二王子だけの時間をズラして、狂花催眠が解けるまで時間を過ごさせるということだ。大体の魅了や催眠などの術は、一日程度しか効力を持たない、と魔法学で習った。


「良い案ですわ、ライアン委員長!それでいきましょう!」


 そうと決まれば、ライアンがパチンと指を鳴らす。部屋全体を覆っていた時魔法が消えて、空気が流れる感覚がする。


「時よ。彼の者を包み一昼夜の流れをここに」


 ライアン委員長が片手でシオンの目を覆う様に触れると、シオンの姿が一瞬揺らめいた。そしてまたパチンと指を鳴らすと、また部屋全体の時を止めた。どうやら時魔法は同時に使えないらしい。部屋の時間を止める、シオンの時間を進める、と繰り返す。何度も魔法を使ったライアン委員長の額には汗が流れていた。


「ふぅ…。副会長は末恐ろしいな。魔力威圧で時魔法を破ろうとしてくるとは、命知らずにも程がある…」


「これで解除はできたのでしょうか?」


「ああ、恐らくだが。少なくとも目覚めるまで一晩はかかるだろうが……っ!?」


 ライアン委員長が言い終わる直前、生ぬるい温度の魔力がシオンから噴き出した。晒されている肌が全て鳥肌が立ち、心臓が冷や汗が出てくる。


 スレイと委員長がガクンと床に膝をつくのと同時に、ソファに寝ていたはずのシオンがゆっくりと起き上がる。


「ここは…?僕は一体…?」


 その様子はいつもと変わらないように見えるが、目が合った瞬間、ゾクリとした寒気が背筋を駆け巡る。まるで猛獣のように光る瞳に、身体が強ばった。


(魔力の、威圧……これがコイツの正体なのか…!?)


 シオンは立ち上がると、近くで疼くまるスレイとライアン委員長に気づいて目を丸くした。


「風紀委員長とスレイ…?レジーナ嬢、これはどういう事なんだ?」


 きょとんとした表情で見つめられて、はく、と口を開く。


 狂化催眠を解いております。という言葉が出てこない。先程と違って周りの様子が見えている、ちゃんと判断できているということは、狂化状態が解けているのだろう。


「…っ…あんたに…掛かっていた…術を、解いた…」


 やっとの思いで絞り出した言葉にシオンが納得するはずもなく、険しい顔で近付いてくる。


 まずい、と思い俺は慌てて両手を上げて、首を振って見せた。しかしそれが逆効果だったようで、スッと伸びてきた手から逃げられないよう手首を掴むと、シオンは俺の手を握った。


「…この呪いを解くとは…!そ、そうだったのかっ…!レジーナ嬢…!」


「はっ?」


 握った手をぎゅっと握りながら嬉しそうな笑顔を向けてくるシオンに、今度はこっちが混乱する番だった。まさかそんな反応が来るなんて思わなかったので動揺してしまう。


 ……っていうかなんでこいつは、さっきまでと態度が違うんだ。しかし次の一言で一気に冷静になる。


「マリだけでなく…君も運命の人だったんだな。僕は、この学園を愛しているが、君の事も同じく愛している…」


「…あ゛ぁ??」


 握った手のひらに口付けをされて思わず鳥肌が立つ。何故そんな発想に至ったんだ。何度目かは分からないが俺は自分の今の見た目を恨めしく思った。


「ベタベタすんな!術を解いたのはライアン委員長だし、なんならスレイも手伝ってくれたんだ。俺は運命の人じゃねぇよ!触んな!」


 握られた手を振り回して拒絶すると、何故か更にシオンの顔がぶわっと赤らんだ。


「そ、そんな…!?3人も、だと…!?こ、この呪いは、真実の愛が無いと解けないはずなのに…そ、そんなに…僕は、愛されていたというのか…!?」


(いや頭ん中お花畑なのか?)


 湯気が登りそうな程に赤くなったシオンから、みるみる内に気持ち悪い魔力威圧が消えていく。床に蹲っていた委員長が、荒い息を吐いてよろよろと立ち上がった。


「ふ、む…様子はおかしいけれど…どうやら、狂花催眠は解けたようだね…助かった。ありがとう、レジーナ君。やはり君には敵わないな」


 その言葉に赤い顔のシオンが委員長を見る。


「え、待ってくれ、催眠……?掛かっていたのは愛する人にしか解けない呪いだったはずだが…」


「催眠!ですわ。…はぁ。色々と状況説明が必要なようですわね」


 変な空気になった風紀委員室で、俺たちは深くため息をついた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ