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見た目は公爵令嬢

 自分がどこに向かっているのかさえわからなくなったまま、俺は寝てしまっていた。


(……ん……あれ……到着したのか?)


 少し痛む頭に目を開くと、驚愕した。そこは馬車ではなく部屋の中だった。豪華な装飾が施されたソファに横になっていることに気づいて上体を起こす。だが頭に血が足りていないのか立ちくらみに襲われて、また柔らかいソファに倒れ込んだ。


「失礼します」


 すると扉の向こうからノックの音とともに男が現れた。男は執事服を着ており、清潔感のある整えられた銀髪が印象的だった。


「おはようございます。レジーナお嬢様。お加減はいかがでしょうか」


(こいつ、誰だ?)


 俺が疑問符を投げかける間もなく、そいつは不敵に微笑んだ。


「なーんて、ああ嫌だ。ルシア=ブラッドさんでしたっけ?ふぅん…本当に瓜二つなんですね」


「なんで、俺の名前を知ってるんだよ……!」


「まぁ、平民出の一人や二人調べるのなんて造作もないことですよ。自己紹介が遅れました。僕はスレイ=ヒルスト。この家の一人娘である、レジーナ=サリ=ケイプ公爵令嬢付きの執事です」


 目の前の男はくつくつと笑ってみせる。気味が悪いくらい綺麗な顔に歪んだ笑顔を浮かべる姿に、吐き気がこみ上げてきた。そんな様子も気にせず、スレイと名乗る男は続けた。


「ところであなた、妹さんを守るとかいいながら、借金も置いて出て行こうとしたんですか?それはちょっと可愛そうじゃないですかね?」


「…!?どこまで知ってるんだ?」


 こいつの話には乗らない方が得策だと考えつつも、俺はつい口を滑らせてしまう。男は心底嬉しそうにニイッと笑う。


「ふふ、調べるなんて造作もないと言ったでしょう?そんな貴方にお願いがあるんです」


 悪魔のような男の提案は、とても受け入れることのできない内容だった。


「本日よりレジーナお嬢様の身代わりとなってください。そして、学園に居る有力な貴族達を籠絡するのです」


「…はぁ!?」


 訳がわからない提案に、俺は憤慨する。


「ふざけんな!どうして俺が、そんな事しなくちゃいけない!」


「……おや、逆らう気ですか?拒否すれば、妹さんがどうなるか分かりませんよ」


「…っ!?リリアをどうするつもりだ!?」


 スレイは急に立ち上がって俺の顔を掴む。突然の痛みに、息が詰まる。


「さらに痛い目にあいたくなければ、大人しく従っておくことをオススメしますけれど?」


「ぐっ…誰が、お前みたいな奴に…!」


 男の青い瞳をギロリと睨むと、男は怯んだように頭を掴む力を緩めた。その隙に手を振り払う。


「っ…?これは、麻痺…?ハハ、似ているだけじゃなくて、面白い拾い物をしたようですね。これで王子から逃げおおせた訳だ」


 スレイは笑いながら、震える右手を抑えて指を2本立てる。


「貴方には二つの選択肢があります。一つは、このままここから逃げ出して、妹を見殺しにするか。もう一つは、お嬢様の振りをして、妹を助けるか。働きに応じて給金も出しましょう」


「なんだと?」


 給金?無理矢理奴隷として従わせるつもりかと思ったが、雇うという事なのか?


 だが、なんだっていい。

 家族の命より大切なものはないし、何よりも今はリリアが無事なのか確かめたい。俺は大きく舌打ちをした。


「…チッ…分かった。あんたに従ってやる。…だから教えてくれ、妹は今無事なんだろうな?」


 それを聞いて、スレイと名乗る執事は心底愉快そうな表情をした。



 ***



「これはまた…よくお似合いですよ。『レジーナお嬢様』」


「…っ全然嬉しくない!」


 悪魔の様な雇用契約を終えた後、あれよあれよと言う間に何処からか現れた使用人達に風呂場に連れていかれ、身体の至る所を磨き上げられた。さらには髪や顔も弄り回されて、窮屈な貴族の女の服に着替えさせられてしまった。


 背丈をゆうに超える大きさの姿見の前に立つと、そこには見たこともない令嬢の姿があった。


 白をベースに、薔薇のような綺麗な装飾があしらわれたドレスだ。豪華だがスタイリッシュにデザインされていて、胸元のリボンがアクセントになって可愛らしくも見える。だけども……足とか背中とか、露出が多くないかこれ?と思う。


(これは本当に俺なのか?)


 思わず見惚れそうになる程美しく着飾られた自分の姿だが……化粧の匂いが気持ち悪いし、あり得ないくらいにぎゅうぎゅうに抑えつけられた腹が苦しい。


 ただ、美しいだけの女なら今まで何人か見たことがあるけれど、皆一様に見下すような視線やキンキンと話す甲高い声が苦手で近寄らなかったのだが。


 しかしなんというか…。こんな事を思ってるのはおかしいだろうか?


 もしリリアが大人になって同じように磨かれたら、こんな風になるのかもしれないと思うと。本当に、小指一本だけ、ほんの少しだけだが。


 ……悪くはないと思った。



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