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洗いざらい

「ルシアさん」


「…ぐすっ…分かってる」


「ルシアさん…?」


「あーもー!ごめんって!」


 スレイが服屋に到着したときに最愛の妹に会えた喜びと健気さと可愛さやらで決壊した涙が収まるはずもなく。案の定崩れてしまった化粧とボロ泣きしている姿を見られてしまった。


 屋敷に来てから何があろうと泣くことのなかった俺が顔をぐちゃぐちゃにして泣いている姿を見て、スレイも流石にびっくりしていた。


「……その様子だと何かあったみたいですね?話せますか?」


「……」


「ルシアさん~…?」


 悪魔のような笑顔だ。威圧感があって何度見ても怖い。

 話を聞き出すまで逃がさないという固い意志を持った、捕食者の目だ。


「……分かったよ。話すからそんな目で見るな」


「最初から素直に言えばいいんですよ」


「はぁ、俺が泣いてようとお前には関係ないだろ?」


「関係あります。僕は一応あなたの執事ですし、心配するのは当然でしょう」


 ふん、と怒気を隠せていないスレイに笑ってしまう。一応俺の執事って。そりゃまぁ、仕えているお嬢様がこんな風に人前に出せない姿になっていたら、執事兼護衛としては面目も立たないだろう。


「…はは…お前本当に仕事人間だよな」


「あなたにだけは言われたくないんですけど」


「まあいいよ。とりあえず化粧を直すか落とすかしないと。これじゃお嬢様的にダメだろ」


折角綺麗に整えられた化粧は涙で滲んでいるし、服にもシミを作ってしまった。擦ってしまったので、目元もひりひりしてて痛い。このまま屋敷まで帰るとなると、淑女的に厳しいものがある。ハンカチで顔をぬぐわれながら、スレイはため息を吐いた。


「分かりました。ではブティックの奥へ行きましょう。ここは知り合いが経営していますので、安心してください」


 ブティックの裏口でスレイが事情を話すと、店主は快く住居スペースに案内してくれた。「この事は内密に」とスレイが言うと店主は顔を青くしてこくこくと頷いていた。知り合い…というか、公爵パワーで脅してないか、それ。


「……」


「……あのさ」


「はい。なんですか?」


「……え、風呂場まで着いてくんの?」


 屋敷ではいつも一人で湯浴みを済ませているのだが、スレイは当たり前のように後ろをついてきている。脱衣所の扉に手をかけても、こいつは動じてない。


「ご安心ください。水責めは拷問の基本ですから」


「全く安心できねえなぁ!?」


 悪魔のような笑顔を崩さない執事に、あれよあれよと言う間に温かい湯に放り込まれた。



 ***



 温かい浴槽で足を伸ばし、俺はスレイに頭を洗われていた。メイクを落とすだけで良いと思うのだが、「ついでですよ。お気になさらず」と言われてしまえば抵抗する気も起きなかった。


「お痒いところはありませんか?」


「んー、気持ちいいよ」


 メイドさんにも言われたことがあるが、大抵答えは決まっている。


「それは良かったです。洗髪は得意ですから」


 労わるような手つきで頭皮をマッサージされると、スレイの洗い方が上手いのか頭が軽くなっていく気がした。さすがはお嬢様付きの執事。いや、お嬢様の湯あみを手伝うのはどうかと思うけど、自分で得意ですというだけある。


「はー…」


 いつの間にかぼんやりとしていた俺は、服屋で何があったのか、なぜ泣いていたのかを話してしまっていた。


「ブティックに…妹が居たんだ。知り合いと一緒に新しい服を買いに来ててさ、すごい元気だったから…そしたらいつの間にか泣けてきちゃってさ」


「…そうですか」


 スレイの指が俺の耳に触れる。揉み込むような手が温かい。


「妹さんって確か8歳でしたよね」


「うん、それで学校に通える事になったんだ。だから新しい服を買いにきてたみたいで。勉強して立派になって俺を喜ばせるんだって…まだまだ子供だと思ってたのになあ」


 はぁ、とため息をつくと、スレイが首周りをマッサージし始める。


「その8歳の少女に負けてるんですかね。僕は」


「ん?何か言った?」


「いえ、何も」


 泡を流してもらい、次は身体を洗われる。全身をくまなく丁寧に洗われて、懐かしい気分になる。小さい頃はお父さんに洗われてたな。脇の下や足の先まで丹念に洗われて、思わず俺は身を捩った。


「こんな所に傷痕があるんですね」


「あは、あははは!くすぐったいって!」


「すみません。つい」


「ふっ、もう良いよ。…なんつーか。話、聞いてくれてありがと。身も心もスッキリしたよ」


 ニッと笑顔を向けると、なぜかスレイが赤面する。

 一体どうした。今はからかってないだろ。


 シャワーで泡を洗い流した後はまた浴槽で温まって、用意してもらったタオルで頭から足までしっかりと拭われると、一仕事終えたようにスレイは息を吐いた。


「化粧品はさすがに用意できませんし…仕方ありません。今回は男装で屋敷に戻りましょう」


 店主に男物の服を用意して貰ってそれに着替える。小綺麗なシャツとスラックスを穿いて、長い髪を括れば使用人見習いという風体になった。うん、男前って感じだ。


「あー肩凝らなくて楽だ。どう?似合ってるだろ」


「えぇとても。では行きますよ」


「な、なんだよその顔!ちょっと!」


 店を出るついでにチラリと店内を覗くと、リリア達は既に居なかった。


 少し寂しさを感じたが、リリアがしっかり勉強を頑張って立派になれることを祈って、俺は屋敷へと歩みを進めた。



 ***



 そういえば。と本屋で読みそびれた『絶対落とせる♡男子の落とし方』の事を思い出す。


 結局ネルス王子もギルバートも、ハグとかあーんされたいとか、変態らしからぬ普通の解答だった。年頃の男らしいというか。なんとも拍子抜けだった。


「あのさ、スレイにも一応聞いておきたいんだけど。女性にされたら嬉しい行動ってある?ハグされるとか手を繋ぐとか。そういうやつ」


 スレイはふむ、と少しの間考えてから答えた。


「…うーん、僕はやっぱりキスですね。あとはそうですね…主導権を握られるのも好きですよ」


「お、おぉ……もっとこう、ドSっぽい回答がくるものかと思ってた」


 だが主導権を握られたいということは、ドSというより、ドMなのか……?もしかして、ネルス王子(へんたい)に影響されたのかもしれない。なんてことだ。


「そんなこと言っても、僕だって健全な男ですからね?」


「だよなぁ。ま、あいつらと付き合っていく上の参考として覚えとくかな」


 変態共に発揮することは無いとは思うけど、話のネタとして意外と盛り上がったしな。だが俺がそうつぶやくと、何故かスレイは感情が抜け落ちたようなほの暗い表情をしていた。


「まさか貴方が誰かと付き合うなんて言い出すとは思いませんでした。誰ですか相手は?ネルス王子ですか?まさかメルタと?」


「言ってねぇわ!付き合わねえよ!お嬢様として!貴族連中を籠絡するなら!参考になると思ったんだよ!ちょっと!その顔怖いって!」


 なんだかんだ変態だとか言いつつも、皆ストレートな色仕掛けに弱いもんだと俺は思った。


(けど、お嬢様の姿になったときに、スレイ相手に試してみても面白いかもな。ふふん、慌てる姿が目に浮かぶぜ)


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